DEPARTMENT OF FINE ARTS | CRAFTS|工芸コース

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工芸コース

学生×教授対談 松本圭太(4年)×金子透 准教授

金子
「人が集まる場所」ということで、本館での展示希望が通って良かったね。
松本
そうですね。工芸でまとまって展示したかったので、それが実現できそうです。一階の一番目につくところなので、制作する気持ちが乗ってきます。「うちらがメインだ!」みたいな。
金子
松本の作品はそんなに大きくないけど、本館の大空間で展示する意図は何?
松本
作家ということを強く意識してこの分野に携わっていこうと思ったとき、工芸の魅力について考えてみたんです。工芸の作品は、その物が単体でもしっかりした存在感と強さを感じるもの、密度があってぐっとみえてくるのが魅力だと思うんです。なのであれだけ広い空間に小さい作品を置くのは、作品が空間に負けてしまう可能性もあるので正直勇気がいります。でも、その空間すらも工芸作品の持つ存在感と強さで取り込んで魅せてしまうくらい良い作品を作りたいという挑戦の意味もありました。
金子
工芸の作品は、大小様々。大空間の中で展示して見せるスケール感の大きい作品と、自分の作品の世界観をピンポイントで見せる作品とがあると思う。そういう点では二カ所の展示空間の違いが、多様な工芸素材のバリエーションの作品群にむしろ良かったって感じるね。
松本
三階はその空間や雰囲気など、展示会場自体を自分たちで作りこんでいます。一階は、自然光が沢山取り入れられる窓や高い天井など、もともとある空間を活かした会場になっていて、それぞれ違った形式で展示が出来て面白いと思います。
金子
学内で展示するようになって、空間と作品の連携を考えるようになったからか、美術館のスケールから外れるような作品がここ二年出てきててるね。一階は作品がなるべく集中して見れるような、作品以外の他の要素が目に入らない空間のイメージを考えていたり。美術館のように見せるための展示空間のレベルアップが必要だね。
松本
三階は3つの部屋をうまく利用して展示を行っています。例えばテキスタイルは、1つの部屋を貸しきって、作品が最も栄える空間作りをしています。それ以外の部屋でも、学生が個人個人の展示スタイルや作品のサイズに合わせて、部屋割りをしたり配置を考えているので、他専攻の作品との共存をすごく意識して会場作りをしています。1階は、エントランスに台置きの作品を集め統一感を出すことで、隣り合う他素材の作品とのバランスを保つ工夫をしています。あとは、廊下の広い空間に大きい作品を置くことで、1階の空間の見え方を工夫しています。
テキスタイルの展示では、床の色が作品を邪魔するので床にシートを敷いて対応してます。あとは暗転にして床の色や天井や壁の色の影響を少なくしたり、教室の黒板の前に壁を作って、まるっきり別の空間に作り上げてます。
金子
工芸の作品が点々と目に飛び込んで美術館のような雰囲気に見えるといい。そして三階にも入ってきた時から作品の香りがするような・・・教室に全作品が納まるのではなく、廊下空間から教室の中へ仕切りを越えて作品が繋がっていく感じにしていきたいよね。
――
年々作品のレベルが上がってきてる感じはありますか?
金子
一つひとつの作品のレベルっていうのは・・・そんなに変わらないかな(笑)ただ作品傾向のバリエーションが広がってる。工芸の枠だけでは収まらなような作品も出てきてるし。そういう意味では作品の傾向が幅広くなってる。
松本
年ごとにカラーがあります。今年の学年はこういう傾向の作品が多いなみたいな。
――
蔵王の裾の大学での制作は、何か都会と違う特徴はありますか?
金子
工芸は比較的工房が広いし、見晴らしもいい場所に建っているので、おおらかでゆったりと作品を作る傾向が出てきるかな。物を作る環境としては非常にいいと思う。
松本
寒いですけどね(笑)でも、それぞれがこの環境を自分で解釈して向き合ってる感じがします。流れるままに作業している人もいれば、あえてその空間に反するように制作に取り組んでいる人もいたり。でも誰もがこの環境から何らかの影響を受けてるのは間違いないですよね。
松本
金属工芸は素材の性質上小さいものから非常に大きい作品まで広く展開できる反面、素材の性質や学校の設備の関係上作れるサイズが制限されてしまったり、形に可能不可能がでてきてしまうんです。そのなかで金属工芸は、サイズや技法、作品の方向性も様々で、非常に幅広い作品があります。
金子
松本はどういう意識で卒制を捉えてる?
松本
あたりまえなんですけど、4年間の集大成だという意識が強いのと、この作品を最後にこの学校を出て行くわけなので、卒業後のこともかなり意識して制作してます。卒制の作品から今後どう展開していけるのかをすごく考えています。ここで何かを掴みたいというか、ある意味実験でもあり、集大成でもあるというところでしょうか。
金子
松本は卒業後どうするの?
松本
この前、大学院の試験に合格しまして・・・。
金子
じゃあそのまま続けていくんだ。
松本
はい。自分は陶芸でやっていこうと決めたので、今後の自分の道筋のことも考えて。
――
陶芸を選んだ理由は?
松本
他の素材も触れてみたら良さが見えてくると思うんですけど、陶芸は素材が自分に合っているんですよね。柔らかい粘土から形を成形していって、最後に自分の手を離れ、窯で焼かれて完成するっていう作業工程も好きですし、表現方法の自由度も魅力的ですね
金子
でも焼いた時のストレスとか。
松本
確かにストレスはあるんですけど、それが良い方向に出た時の気持ち良さや、狙った通りに難しい素材を扱えた時の面白さとか・・・自分が狙った以上のものが出来上がった時は、素材の持つ力が自分に働きかけてるのを感じるんです。
金子
そこが陶芸は独特だよね。自分の想像通りに行くことの方がむしろ少ないくらいだよね。焼きあがった時にガックリくることもあるけど、逆に想像以上のものが出来ることもあるし。
――
卒業後−作家として生きていくことについて。
金子
僕の場合は自分自身が世の中に作品を発表し続けることが学生の指導にも繋がっていってる。そのへん大学の先生って時間的にも体力的にも大変(笑)。でもこの時期は学生にいろんなことを教えて、また逆に教わってるところがある良い時間だと思う。さっき卒制の位置づけを聞いたけど、僕は単なる通過点くらいにしか思ってないんだよね。卒業してからも制作を続けたり、就職したりといろんな人がいるけれど、その通過点の1つであって、その次にそれがどう活かされるかや、次にこうしたいから今はこの作品を作るとか。その辺が明確だと1番いいと思う。4年間の集大成ということだけで作ることに僕自身は不満でね。次に繋げてほしい。
工芸は比較的、社会性を持って活動していく分野だから、できれば多くの学生にもの作りを続けていってもらって、それで生活してほしいなって願ってる。
他大学に比べると、第1期生がまだ30代半ばくらいだけど、今でも結構多くの人間が頑張ってる。やっと工房を持って何とかしてる感じだけど、今でも毎年のように案内状が来たりするよ。それを考えるとけっこう数は多いんじゃないかな。
松本
僕は今26歳で、一度社会にでてから大学に入ったのですが、会社を辞める時に、陶芸をやる覚悟で大学に来ているので、卒業後の流れは自然に決められました。でもそうじゃない人もいっぱい居て、とりあえず工芸に触れてみたくて入ってきた人は卒業後を考える時に悩む人もいるのかなって思います。お金の問題や時間の問題とかが大変だーって。
金子
マイナス面を考えるとそうだけど、ポジティブに考えると、もの作りで食べていくのは非常に豊かな生き方だよね。サラリーマンだと定年もあるけど、もの作りは一生続けられるでしょう。サラリーマンだと僕もあと15年で定年。たった15年だよ。もの作りだとあと40年くらいはあるでしょ。90歳ちょっとまで仕事するつもり。長く仕事しても本当にいい仕事が出来る保障なんてないけど、本当に満足できる作品に少しでも近づけたいと思ってやってる。死ぬまで仕事できるのは工芸とか美術の特徴だよね。
松本
不可能ではないですよね(笑)そのくらいの歳で窯焚いて作品つくってる人もいるし!
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