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開催主旨

東北芸術工科大学(山形市/松本哲男学長)の卒業/修了研究・制作展は、2006年度から西蔵王の麓にひろがるキャンパス全体を会場とし、周辺の自然的景観を含めた開放的な環境のなかで、学生たちの日常の創造活動が感じられる各実習棟を巡るオリエンテーリング形式の展示に取り組んでいます。

雪を冠したキャンパス各所に展示されるのは、絵画や彫刻、陶芸やテキスタイルなどのアート作品と、都市設計から本の装丁までの多種多様なデザインの提案、そして民俗学や文化財の保存に関する研究・調査をまとめたパネルなど約400点です。

学生たちは各会場で配布されるガイドブックやインフォメーションコーナーの設計、鑑賞ツアーの企画、周遊バスの運行、各館内のサインデザインにも取り組みました。本展は、キャンパスを舞台に、学生たちが学び、表現し、そしてそれを地域社会に発信していくための「空間」や「関係」のデザインについて考え実践する機会でもあります。

さらに期間中は、多彩なゲストを招いての公開講評会や、観客参加型のディスカッションを数多く開催します。これらの試みを通して、教育活動の集大成である本学の卒業/修了研究・制作を、地域からの視点、客観的な批評を交えて検証し、グローバル化の進む今日の社会において「いま、東北でアートやデザインを学び、実践していくこと」のオリジナリティーを磨いていきます。


「No Border」−2007年度 学生卒展運営委員会より−

芸工大には、絵画や彫刻などの芸術領域、建築やグラフィックなどのデザイン領域、そして民俗学や美術史などの研究領域など、多岐にわたる専門分野があります。400人以上が出品するこの大展覧会を運営するにあたり、まず、私たち学生委員が重視したのは、他学科の取り組みや、考え方の違いについて積極的な理解を示し、親密なコミュニケーションを図っていくことでした。

その過程で生み出された2007年度の卒展ビジュアルイメージは「巣」です。ヒナをあたためる渡り鳥の家、ミツバチたちの社会的なコロニー、クモがたった独りで編み上げる見事な幾何学模様・・・。「巣」は、卒業/修了研究・制作に取り組む、学生一人ひとりの指向性を象徴的に表すモチーフです。みながフラットに連携しながら、それぞれの「巣」を繋ぎあわせ、「卒展」というおおきなコロニーをつくっていくイメージを共有することで、企画実施のための、さまざまな問題をクリアすることができました。

そして、1〜3年生を中心とするサポートチーム(卒展ディレクターズ)が、広報印刷物やウェブサイトのデザインから会場設計まで、展覧会全体をオーガナイズしています。多くの在学生たちがこの展覧会の運営にかかわることで、委員会の「自由・連携・相互理解」の思想を、次の世代へと受け継いでいきます。


「巣」のイメージについて

一人ひとりがつながりあい、一つの大きな卒展をつくりあげていく。それは入学時から一人ひとりが成長し、経験を積み上げてきた証である。芸工大が卒展の舞台ということもあり、築き上げてきた場所、この卒展自体を「巣」というモチーフで表している。鳥の巣、クモの巣、蜂の巣の三種を用い、それぞれの思いを表した。

この巣の素材はここでしか手に入りません。

渡っていく鳥たちが、その土地の自然のカケラを素材に、
つつましい巣を編んで残していくように、
今、私たちは東北での全ての学びを、作品や研究に結晶させることで、
穏やかな巣立ちの準備をはじめた。
帰ってこられる場所があるからこそ、新しい挑戦や旅立ちがある。
私たちの創造のホームタウン=東北芸術工科大学で、
今年も卒業/修了研究・制作展がはじまります。

この巣の素材はここでしか手に入りません。

この場所でつくって正解でした。

キャンパスで学び、獲得したたくさんの技術や知識を、
私たちはそれぞれの方法でつなぎあわせ、自分の世界を構築していく。
その結果が、どのようにつたなく、不完全なカタチであったとしても、
それは、私の自画像。
それは、私の未来を占う、はじまりのカタチ。
蔵王から吹き下ろす冬の風に身をさらしながら、春に向かう芽生えの蠢動を聴く、
東北芸術工科大学の、13回目の卒展がはじまります。

この場所でつくって正解でした。

ひとりじゃつくれない、とわかる。

みんながそれぞれの小さな感性の砦を守りながら、
ひろい社会へ出ていくための羽を鍛えた。
仲間と言葉が噛み合わなくて、ひとり閉じ籠ったり、
喧嘩したりすることもあった創作の日々。
「本当にやっていけるのか」と、自信を無くしたりもしたけれど、
卒業を目前にして、それぞれの学びが美しく、機能的に結びつく。
互いを尊び共鳴する感性が、西蔵王に建つキャンパス全体でつくりあげる、
東北芸術工科大学の卒業/修了研究・制作展がはじまります。

ひとりじゃつくれない、とわかる。

(コンセプトビジュアル作成:梅木駿佑+土屋勇太)