第22回 9月のあの日~アース・ウィンド&ファイアーの巻|かんがえるジュークボックス/亀山博之

コラム

雨の週末

 9月21日。

 前の日から続いた雨はやむことはなかった・・・。この日予定されていた芸工祭は残念ながら中止となり、その翌日も大雨のため中止。そして23日、1日のみの振替開催が決行された。時間短縮の開催でも、皆楽しんでいる様子が見られて何よりであった。そして、このコラムも大学の教室の一角にひっそりと出店し、楽しいひとときを過ごしたのであった。

疲労を微塵も感じさせない立派な売り子(筆者)の姿
疲労を微塵も感じさせない立派な売り子(筆者)の姿

 お越しいただいたみなさま、ありがとうございました。お越しいただけなかったみなさま、マスキングテープとステッカーの在庫の山を抱えておりますから、どうぞ来年の芸工祭にお越しください。必ず来てください。絶対に来てほしいです。お待ちしております。

アース・ウィンド&ファイアーの日

 今年の芸工祭の初日となるはずであった9月21日といえば、モーリス・ホワイト(Maurice White, 1941-2016)率いるかの偉大なファンク・バンド、アース・ウィンド&ファイアー(Earth, Wind & Fire)の日である。

「セプテンバー」日本盤
「セプテンバー」日本盤

 これというのも、名曲“September”の詩で、9月21日のことが歌われているからである。とはいっても、よくよく最後まで聴くとこの曲は9月のことを振り返る12月の歌であることがわかるのだが・・・。さあ、愛にあふれた“September”を聴いてみよう。

 Do you remember
 おぼえてる?
 The twenty-first night of September
 9月21日のよる
 Love was changing the minds of pretenders
 愛がよそよそしい2人の心を変えはじめてる
 While chasing the clouds away
 心のモヤモヤをかき消しながら

 Our hearts were ringing
 ぼくたちの心は鳴り響いて
 In the key that our souls were singing
 ぼくたちの魂が歌う曲のキーに合わせて
 As we danced in the night, remember
 あの夜に踊っていたとき、おぼえてるだろ
 How the stars stole the night away, oh yeah
 星たちが夜の主役になってたのを

 Hey, hey, hey
 Ba-dee-ya
 Say, do you remember?

 ねえ、おぼえてる?
 Ba-dee-ya
 Dancing in September

 9月に踊ったのを
 Ba-dee-ya
 Never was a cloudy day

 間違いなく晴れてたね

 曲の制作秘話を調べてみると、この曲は詩の内容うんぬんよりも、楽曲としての「ノリ」が優先されたらしい。つまり、「セプテンバー」はリズムや音が最重要なのである。したがって今回は翻訳も「ノリ」を優先し、脚韻でリズムを生み出す工夫を施したつもりである。ちなみに、行の最後の音を合わせる脚韻は“rhyme”で、行の最初の音を合わせるのは頭韻“alliteration”である。グルーヴの生み出し方にも作法あり!さて、後半へ進もう。

 My thoughts are with you
 いつもきみのこと考えてる
 Holding hands with your heart to see you
 心も手もつないできみを見てる
 Only blue talk and love, remember
 ただのいちゃついた話に愛、おぼえててよ
 How we knew love was here to stay
 たしかに愛があるねと2人でわかったこと

 Now December
 そして12月のいま
 Found a love we shared in September
 9月に交わした愛はそのまま
 Only blue talk and love, remember
 ただのいちゃついた話に愛、おぼえててよ
 True love we share today
 今日交わす本当の愛を

 Golden dreams were shiny days…
 黄金の夢は輝く日々

 内省的でも哲学的でもない、終始ノロけ続けるだけの詩であったが、曲にグルーヴが生まれれば、それでよいのである。それが目的なのだから。そして、この詩の中の2人はやはりノリが良かったからであろう、9月から12月になってますます愛が深まったようである。めでたしめでたし。

夕ヶ谷姉妹のゆくえ

 アース・ウィンド&ファイアーの「セプテンバー」の中のカップルのようにプランを順調に進める人もいれば、今回の芸工祭のように天候に左右され、計画を思うように進められなかった方もあろう。しかし、すべての経験は次へのステップになる。雨が降らなければ、美しい虹も見えないのだ。そんなことを彼らも言っていた。彼らとは、そう、芸工祭のパンフレットにそのうしろ姿だけがチラッと見えた謎のピアノ連弾ユニット「夕ヶ谷姉妹」のことである。重ねに重ねた練習があったにもかかわらず、今回のステージ出演を諸事情により見送ったらしい。

芸工祭パンフより「ピアノ連弾と得体の知れない電波の演奏会」
芸工祭パンフより
「ピアノ連弾と得体の知れない電波の演奏会」

 さらに練習を重ねて来年のステージでお会いできれば幸いです、とはメンバー談。しかし、今回の練習の成果を何らかのかたちでどうにか披露しなければ、今後のモチベーションが保てない、という心の声もあり、動画配信という現代的な手法で演奏をお届けする予定とのこと。夕ヶ谷姉妹が所属する(株)夕ヶ谷企画からの続報を待たれよ。ああ、もうセプテンバーに幕が下りる。

 それではまた。次の1曲までごきげんよう。
 Love and Mercy

(文・写真:亀山博之)

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亀山博之(かめやま・ひろゆき)
亀山博之(かめやま・ひろゆき)

1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。

著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。

趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。