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点と線

学生時代に打たれた「点」は、
いつか線になって
未来の自分を助けてくれるはず。

東北芸術工科大学学長 
中山ダイスケ

1点を集めて、線で結ぼう

 芸工大の学びの時間には、たくさんの「点」が打たれています。学校の課題や毎日の暮らし、自分や他人の制作、他の専門分野、教授陣、ゲスト教員、先輩や後輩、課外授業、アルバイト先での出来事。それらはみなさんにとっての「気づきの点」です。
 そしてさらに、デジタル化が進むいま「情報の点」も溢れています。おいしそうな情報や体験、誘われてしまいそうな、引き込まれてしまいそうな、そんな一見「キラキラした」無数の点も、誰かの操作によってあなたの前に並べられています。
 芸工大では、さらに「リアルな点」を増やすべく、学科横断授業や実践型プロジェクト、クリエイター教員を用意して、みなさんを惑わせ、忙しくするための「点」をたくさん打っています。
 大学での4年間は、そんなたくさんの「点」との出会いに溢れています。迷わされたり、感動したり、寄り道したり、行き止まりだったり、そんなことに時間を費やしながら、できるだけたくさんの「点」と出会ってみてください。無理に見分けたり、仕分けたりしようとしなくても構いません。
 なんだか忙しく「点」を集めておくと、それらは必ずみなさんの線となって結び合い、未来のあなたのヒントとなります。芸工大での学びとは、教科書や道筋が用意された高校時代とは違い、自分の力でたくさんの点を集める時間のことなのです。

2課題と挑戦が生まれている
山形という場所

 大自然に囲まれ四季の移ろいに富んだ美しい東北ですが、山形県も少子高齢化や人口減少などの社会課題が多い「課題先進県」と言われています。この山形という場所を「世界の縮図」として捉え、自身の研究フィールドとして積極的に活用しているアーティストやデザイナーが、本学のエンジンである「クリエイター教員」たち。大都市中心の世の中は、すでにインターネットによって変革されました。世の中から「中心」は消えたのです。現在は、あなたがいるその場所から世界と対等につながることができます。これまで「地方」と呼ばれていた場所には、課題解決に向けた提案と実践のための「余白」がたくさん残されています。クリエイター教員と学生たちは一緒になってこの状況に挑み、山形・東北地域をプロジェクトの実験場として活用し、卒業後にはその成果を世界中で生かしていきます。

3未来を描き、実現へと向かう
点と線が結ぶ学び

 芸術大学に進学するのは、幼い頃から「創作が好きな人」「才能やセンスがある人」だけ、というのは遠い昔の話です。今や、アートもデザインもゼロから学ぶことのできる「学問」です。大切なのはあなたの好奇心と、世の中に対する違和感、あたりまえを疑う力です。私たちが志願者に求めているのは、柔らかさや視野の広さです。
 才能や経験なんて気にしないでください。それよりも、世の中のいろいろなことに興味がある、自分なりの意見がある人と出会いたい、そんな気持ちを大切にしている人を待っています。「なぜこんなに格差があるんだろう」「どうしてこんなに不便なんだろう」というイライラや批判の目、自分が変えてやるというエネルギーを、アート&デザインの学びの起点にしてほしいのです。どうしたらその状況を変えられるのか、問題意識を持ちフラストレーションの原因から考えていくことが学びの始まりです。
 アート&デザインに絶対的な教科書はありません。あなた自身で探究するしか方法のない「正解のない学問」です。芸工大には、リアルな気づきの「点」がたくさんあります。あなたの興味を広げ、専門性を深めるために、学内や地域に点在するさまざまな点を結んでみましょう。
 自分の専門以外の分野との出会いや、他学科の学生との接点がこれほど多い芸術大学は他にはありません。なぜなら、本学のクリエイター教員たち同士も、ジャンルを超えて協働で、年間100件にも及ぶプロジェクト課題に挑んでいるからです。当然学生たちもそこに巻き込まれていくので、キャンパス全体が、まるで一つのクリエイティブ企業のような「生きた現場」になっています。

4あたりまえを信じない
自分の未来は自分でつくろう

 新型のウイルスが現れ、大きな戦争も始まり、自然環境は壊れ始め、まるで地球全体が病に侵されているかのようです。そんな今だからこそ、アート&デザインの柔軟な思考が世界で強く求められていると感じています。高度な経済力や科学技術、軍事力や政治力に頼っていたら、こんな世界になってしまいました。大きな力、誰かの力だけに頼っていては、もう幸せにはなれません。もっと柔らかく、人間サイズの小さなアイデアを活かしながら、身近な場所にも目を向け、自分たちの力で世界をアップデートするべき時代なのです。
 ただ、アート&デザインは人と人が出会うことが大切です。それが新型コロナによって崩れました。しかし、デジタルやリモート技術を駆使しながら新しい可能性を発見することもできました。直接会うことでしか学べない身体感覚や体温はあるものの、人はどれだけ離れていてもコミュニケーションを求め、物理的距離を越えて同じ想いを共有したいと願っていることへの気づきです。
 リアルな教室では、後ろに座る学生と前に座る学生がいますが、デジタルの授業では全員が最前列。リモートで農家の方と打ち合わせをするのも、本学に興味を持った全国の高校生と話すのも距離は同じです。現在、本学では高速回線を使用してのリモート型とリアル対面演習を組み合わせたハイブリッド型授業を行っています(2023年1月現在)。距離というものの本質に気づき、それを尊重することができる今、新型コロナが収束してもハイブリッド型を上手に活用していきたいと考えています。
 時代を先読みしながら進化し続ける本学は、2023年4月からは新学科「工芸デザイン学科」を新設しました。大量生産、大量消費に対する手仕事や、人間が創るものの価値を一から見直し、東北地域で消えようとしている伝統的なものづくりと新しいデザインを組み合わせた、古くて新しいクリエイター養成の学科です。芸術学部からデザイン学科が誕生したという動きも、本学ならではの独自の文化です。
 また「コミュニティデザイン学科」もコンセプトを一新しました。これまでどおり「人々の暮らし方、関わり方をデザインしていく」という方針はそのままに、地域やコミュニティの持続可能性をより強固にするために必要なSDGs的な検証、サスティナブル、エネルギー、リサイクル、交流という新しい概念を高度に研究できる学びを育みます。

 これからも世界は変化を続けます。自然災害や新しい感染症が世界中を襲うこともあるでしょう。貨幣の価値が突然消滅したり、国境が変わることだってあるかもしれません。そうやって何か変化が訪れるたびに「あたりまえ」が崩されていく。だからこそ、何が起こっても動じない柔軟な想像力が必要なのです。みなさんが社会に出てからその先に、この大学で見つけた「点」が、必ずあなたを支える「線」となることでしょう。


なかやま・だいすけ/アーティスト、アートディレクター。アート分野ではコミュニケーションを主題に多様なインスタレーション作品を発表。1997年よりロックフェラー財団、文化庁などの奨学生として6年間、NYを拠点に活動。1998年第一回岡本太郎記念現代芸術大賞準大賞など受賞多数。1998年台北、2000年光州、リヨン(フランス)ビエンナーレの日本代表。デザイン分野では、舞台美術、ファッションショー、店舗や空間、商品や地域のプロジェクトデザイン、コンセプト提案などを手掛ける。2007年より本学グラフィックデザイン学科教授、デザイン工学部長を経て、2018年より東北芸術工科大学学長。