東北芸術工科大学卒業/修了研究・制作展2007

卒展プライズ2007(買い上げ賞)審査会

日時=2月16日[土]18:00−19:00
会場=本館3階201講義室
企画=美術館大学構想室/卒展ディレクターズ
審査員=
赤坂憲雄[民俗学者/本学大学院長・東北文化研究センター所長]
後藤繁雄[編集者/クリエイティブディレクター/京都造形芸術大学教授]
酒井忠康[美術評論家/世田谷美術館館長/本学大学院教授]
松本哲男[日本画家/本学学長]
宮島達男[現代美術家/本学副学長・デザイン工学部長]
山田修市[洋画家/本学芸術学部長]

東北芸術工科大学では、2000年以降、その年の優秀賞受賞作品を買い上げて、学内に恒久的に保管・展示している。2006年度からは買い上げ作品を、その選出プロセスも含めて「卒展プライズ」と改題し、外部審査員の視点も交えながら、本学の教育成果として最も優秀かつ将来性の高い作品を5〜7点を選出している。今年は全44作品から各学科の推挙を受けた64作品がノミネートされ、会場をめぐっての作品審査の結果、7作品および研究論文の受賞が決定した。選出理由は2月16日の公開講評会の席上で発表された。

●卒展プライズ2007審査所感(談話採録)

1. 赤坂憲雄 Norio Akasaka

まず、今年の卒展の全体的な印象として、各学科のプレゼンテーションが抜群に良くなっています。展示が苦手な論文系も、例えば歴史遺産は環境デザイン学科の研究プレゼンテーションを参考にしたりして変わってきました。研究系と制作系の切磋琢磨は、卒展を一つのキャンパスの中で共同運営していくことの効果の一つですね。「他者に見られる」ということを意識すると、こんなにも変わるのだなと思いました。次に卒展プライズの審査についてですが、毎年、卒業/修了研究・制作の中から各学科・コースで選出されている最優秀賞・優秀賞には、当然のことながら教育的な視点が盛り込まれています。学生が熱心に研究に取り組み成長していく過程をずっと見守ってきた担当教員たちは、作品の善し悪しだけではない、教育的・支援的な観点に基づいて顕彰していきます。しかしそれに対して、卒展プライズは、外部ゲストを交えて客観的な観点でドライに審査を進めていきます。そのことを賞の発表の前に君たちに確認しておきたい。
私は去年の審査会にも立ち合っていて、後ろからゲストの茂木健一郎さんや北川フラムさんの審査過程を見ていたのですが、彼らは会場に入った瞬間に、ノミネートするべき質に達している作品をだいたい把握してしまうのです。雑然とした展示空間の中で、作品が自ら強く訴えかけてこなければ、審査の溯上にも挙らないのです。
だから去年の審査に対して、一部の学生や教員から「サッと会場に入って、サッと出ていった。きちんと作品を見てくれていないのではないか」という批判があったのは、ある意味では仕方がないことです。厳しいですが、社会の評価というのはそういうものです。
それから、「うちの大学には論文系の学科やコースがあるのに、論文系の学生は無視されるのですか?」という声もあった。ですから今年は別枠で2人、論文系も顕彰することになりました。この賞制度も、こんなふうに君たちの意見を聞きながら、年々手直しして作り変えていけばいいと思います。
今日は前もって学科・コースからノミネートされた作品を、半日かけてきちんと見させてもらいました。さきほど終わったばかりですが、受賞作品の選考会議も充実していて面白かった。審査や評価には、選ぶ方も選ばれる方も様々な視点や価値観があると思いますが、今夜はじっくり我々の言葉に耳を傾けてもらえればと思います。

2. 後藤繁雄 Shigeo Goto

今日はお招きいただいてありがとうございます。
私は普段は東京で編集や広告の企画や、主に写真専門の執筆活動をしています。それから毎週、京都に通って京都造形芸術大学の芸術表現アートプロデュース学科で、展覧会の企画や、アートディーラーの仕事、それに美術評論について教えていて、アートを社会化していくための専門性の高い人材を育成しています。今回、私ははじめて東北芸術工科大学に来ました。京都造形芸術大学と姉妹校であることはもちろん知っていたのですが、どんな学科編成で、どんな教員がどういう教育をしているのか、まったく予備知識がなかったのです。ですから今日はじっくり卒展を見させてもらいました。
僕も教員をしていますので、皆さんの四年間の成果を教育的に見て「よく頑張った、素晴らしい」とまずは評価したいですね。それには、展示用の箱である美術館ではなくて、教育の場であるキャンパスで、自分たちがやってきたことを人々に見てもらおうという意識的なアピールの効果が大きかったと思います。次に、これが今日の私がここに呼ばれた理由でもあるのですが、現在のアートシーンで皆さんの作品はどう評価されるかという観点でお話ししたいと思います。
私はアートプロデュース学科で教えながら、日本の若い才能を発掘して、次のアートシーンをつくる批評とセットにして売り出したいと考えています。そのために昨年から『アート・アワード・トーキョー』という、気鋭のギャラリストと美大を卒業したばかりの才能の出会いを設定する展覧会を立ち上げました。その準備のために京都造形芸術大学はもとより、東京と関西の卒展のほとんどを見てまわっているのですが、去年は東北芸術工科大学には来ることができなかった。しかし今日、実際にキャンパスに展示されて
いる作品を見てみて、他の美大に似ていない、実に独特なアートだなと思ったのですよ。
例えば他大学の絵画は、現代アート業界のニーズを予備知識として持っているから、頭でっかちになって安易なインスタレーションだとか、意図的な展示を仕掛けてくる学生が多いのです。芸術を芸術として成立させる基準や仕組みを、あたかも自分の作品であるかのように錯覚して見せているのですね。そういう手法で早くから動きすぎるのは余計な経験だと私は思うわけです。
でもここの人たちは、ある意味ではそうした情報から隔絶されていて、先生たちの丁寧な指導もあって、自分たちの課題をシンプルに、それに一生懸命にやっている。だから制作自体の質が高いのです。集中して制作できる環境もある。そして大学全体の規模が小さいから、違う分野の学生とも連携して互いに影響を受けながら知らず知らずのうちに新しい芸術スタイルをつくっている。
例えば生産デザイン学科の会場はまるでデザイン見本市のようでした。人々に対して自分のデザインを魅力的に見せたいという意識が、このような質の高いプレゼンテーション空間を生み出し、それに他学科も影響を受けていくのですね。

3. 酒井忠康 Tadayasu Sakai

こういった選考会に、職業柄、随分と長いあいだ呼ばれ続けてきましたが、東北芸術工科大学での審査は何しろ数が多い。今回で四度目の参加ですが、会場をまわりながら、「技術的に優れたものを選びたいな」と思ってみたり、「教育の現場なのだから初々しい才能に票を投じるべきだ」と思ったり、「もっとこうすれば肉付きの良い作品になるのになぁ」などと、審査する私自身もしばしば選出の基準を迷いながら関わらせてもらっています。
ところで卒業制作というのは、皆さんにとって賞味期限に間に合ったゼリーかな? 期限が切れる前のゼリーを学生の皆さんは美味しいうちに食べてしまっているのですが、私に言わせれば賞味期限が切れてもいい。つまり、「卒業する」という期限があるからそれを守ろうとしているのはいかがなものかと思うのです。
どうも社会の通念に上手に従っている感じがして、全体に野生味がないのです。これはこの時代の空気かもしれないけれど、もう少しデタラメにやってほしいね。あまりにもマニュアルが出来すぎていて、生存するため方程式に従っている感じがして偽装っぽい。賞味期限が切れていることは僕には分っているのだけれども、だからといって賞味期限を守っている感じでつくっているのは面白くない。もっと間に合わなければ間に合わないなりに仕事をしなくてはだめです。
最後に一言。賞味期限の切れたものを食べては体を壊しますから、これははじめから食べない。常に新鮮な対象を探し、新しい仕事を続けてください。

4. 宮島達男 Tatsuo Miyajima

4年生と大学院2年生のみなさん、力作をつくってくれてありがとう。今日は様々な評価の言葉を審査員の先生たちからいただきましたが、私自身、去年に比べて格段にプレゼンテーション能力が上がっていると感じています。展覧会自体は非常にパワフルで、完成度も高くなっていますが、その分、さきほど酒井さんが指摘した野性味のような、それぞれの仕事における大胆な挑戦が見えにくくなった部分もありましたね。
昨年は松本学長が先導して山形美術館からキャンパスへと卒展会場を全面的に動かすという極端な変革をおこなった。そしてそれに拮抗するように「大学」というサイトを強く意識したプレゼンテーションが生まれてきたのですが、インフラが整った分、今年は個人の強さが見られなかった。これは今後の課題です。
それから、今年も君たちの後輩である卒展ディレクターズが活躍してくれました。今年は雪が多かったから、雪掻きや寒いなか屋外に立ってのお客さんの誘導はたいへんな仕事だったと思います。でもそうした在学生の取り組みに引っ張られるようにして、卒業生たちも社会に出ていく前に、卒展の運営では自立した働きを見せてくれた。教員としてとても嬉しく思います。

上:2007年度卒展のイメージビジュアル「ミツバチの巣」の幾何学模様をまとったインフォメーションボックス「Honey・come」。本館前の広場など、鑑賞ルートの起点となる3ヶ所に設置された。
下:著名なゲストを招いて開催する、卒展恒例のパネルディスカッションの様子。写真は理想のアーティスト像について語る作詞家の秋元康氏。

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