ピクニクス・ドローイング

東北芸術工科大学洋画コースを卒業後、しばらく音信不通だったナガバサヨと、あるカフェで偶然に再会したとき、彼女は小脇に抱えていたTSUTAYAのビニール袋から、次々とドローイングをひっぱりだして私に見せてくれた。チラシの裏に面相筆で丁寧に描かれているのは、室内空間からのサンプリング(…ナガバによると、ソファーの凹みや、椅子の脚や、カーテンの襞であったりする)なのだが、一見して、作者以外がそれらのモチーフにたどりつくことは不可能であるように思われた。『芋蔓式(いもづるしき)』と名付けられたこれらの作品群は、カタチの意味性から解き放たれて純粋な色彩とリズムに変換され、謎めいた方程式のように紙片に綴られていく。その先にある「答え」は、ナガバにとってもまだぼんやりとしているが、蝸牛の這った跡のように輝く筆致が日々淡々と更新されている。

望月梨絵は、同大グラフィックデザインを専攻する大学院生である。そのドローイングのイメージソースは、古代の壁画や、南アメリカやアラブの女たちの民族衣装である。新作『in and out』では、それらのシンボリックな意匠に加えて、屠殺される動物たち、女性性にまつわるセクシャルな図像、植物図鑑の断片、西蔵王の景観などの脈絡のない断片が、それら全てを統合性へと押し流していく即興的な「染み」=無秩序なデカルコマニーによって、美しく調和に満ちた世界へと至る。

2人の作品に共通しているのは、近視眼的かつ即興的な「描く快楽」と、明確な中心性から逸脱しようとする絵画構造である。2008年は3つの街で展開する『I’mhere.』の仙台展は、この街の新しいアートシーンにおける2人のキーパーソン(Picnica 木村良+re:bridge edit 山崎環)とともに、彼女たちの描線のスリリングな行方を楽しむ、『ピクニクス・ドローイング』への招待である。

宮本武典[東北芸術工科大学主任学芸員]


Sayo Nagaba(Photo by Kang Chulgyu)

Rie Mochizuki(Photo by Kang Chulgyu)

●Site

ナガバサヨと望月梨絵は、開催期間中にそれぞれギャラリーに泊まり込んで制作を継続し、仙台の街や人との出会いからインスピレーションを得たドローイングや映像を即興的に展示していった。

  • ◯Site-1:Picnica+Enoma
  • Site-1:Picnica+Enoma
  • Enoma×Sayo Nagaba
  • Picnica
    (Rie Mochizuki+SayoNagaba)
  •  
  • ◯Site-2:リブリッジ・エディット
  • Site-1:Picnica+Enoma
  • Rie Mochizuki

●Events

7月26日には望月梨絵の指導教員でもあるアーティストで、東北芸術工科大学教授の中山ダイスケ氏を迎え、「リブリッジ・エディット」でアーティストトークを開催した。その後、美術カフェ「ピクニカ」で校友会主宰のパーティーがおこなわれ、宮城県内を中心にたくさんの芸工大OBや在仙アーティスト・デザイナーが集まり、親睦を深めた。

  • ○アーティストトーク
  • ゲスト=中山ダイスケ[アーティスト/東北芸術工科大学教授]
  • 日時=7月26日[土] 15:00−17:30
  • 会場=re:bridge edit+Enoma
  • 展示風景|『二重体・城隍廟の碑文の写し』富田俊明+辻耕/studio144
  • re:bridge edit
  • 展示風景|『我我の家郷迄来て見ることができますか?』富田俊明/studio144
  • Enoma
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  • ○レセプション
  • 日時=7月26日[土] 18:00−21:00
  • 会場=Picnica+Enoma
  • コーディネート=木村良(Picnica)
  • 展示風景|『我我の家郷迄来て見ることができますか?』富田俊明/studio144
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