2021年入賞

優勝[文部科学大臣賞]

『刃物との付き合い方』

九州産業大学付属九州高等学校(福岡県)
平田 紗和さん/山本 百李亜さん/山口 柚里香さん

準優勝・大橋マキ特別賞

『すてきな「えっ☆ほん」~わたしたちのユマニチュードをさがして~』

谷地高等学校(山形県)
今井 鈴花さん/尾﨑 李果さん/井上 愛菜さん

第三位

『地域のソース屋さん』

大阪府立園芸高等学校(大阪府)
河井 優唯斗さん/上谷 悠樹さん/平田 光輝さん
  

奈須正裕特別賞

『リセットノート』

名城大学附属高等学校(愛知県)
石原 淳平さん/浜田 歩美さん/田中 楓麻さん

ニコニコ生放送視聴者賞

『山形しかカタン!』

山形中央高等学校(山形県)
峯田 彩羽さん/石山 士恩さん/髙子 結衣さん

入賞

『emolight』

伊奈学園総合高等学校(埼玉県)
伊藤 蓮さん/松崎 一輝さん/藤原 英美さん

入賞

『#アフター大河バトンプロジェクト』

福知山高等学校(京都府)
塩見 優太さん/安宅 珠葵さん/岩崎 虹穂さん

入賞

『「チリメンモンスターさがし」のカードゲームを作って「海の豊かさを守ろう」』

玉野高等学校(岡山県)
臼本 倫央さん/瀬良 兼太さん/木下 由人さん

入賞

『聞こえてる?子どもたちの声~UFOC活動を通して~』

宇部フロンティア大学付属香川高等学校(山口県)
重村 優羽さん/松本 莉奈さん/吉松 千夏さん

入賞

『O!BENTO バイキング』

有田工業高等学校(佐賀県)
岩本 いろはさん/森 旺治郎さん/髙橋 このかさん

審査講評

中山ダイスケ(なかやま・だいすけ)

中山ダイスケ(なかやま・だいすけ)

アーティスト、アートディレクター/東北芸術工科大学学長 ◎審査員長

今年のデザセンは初のオンライン開催ということで、決勝に挑まれた高校生、ご指導にあたられた先生方、学校関係者、ご父兄のみなさまには大変なご苦労をおかけいたしました。主催者を代表いたしまして、進行の不手際について謝罪させていただくとともに、大会の成功に多大なご協力いただいたこと、心より感謝いたします。

さて、決勝戦はオンライン発表でしたが、いつものステージ発表とは違った面白さを感じました。参加の高校生がそれぞれの場所から声を出してくれていたことが大変リアルで、「ああ、みんなちゃんと自分の場所に暮らしているんだなあ」ということ、そして「全国大会」であることを、改めて感じることができました。

「自分の場所」。そこがみなさんにとって、たまたま生まれただけなのか、この先もずっと愛し続ける場所なのかはわかりませんが、まず最初に「自分の場所」から考えることは、デザインにおける大切な一歩です。日頃みなさんが「幸せ」をイメージする際、誰もいない荒野であなた1人だけが高らかに笑っている情景を想像する人はいないはずです。幸せのイメージの傍には、必ず誰かが一緒にいることでしょう。あなた自身、そして家族、恋人、友達、地域の人、まずはそれらを感じることができる自分の場所を大切に想うことを忘れないでください。

とは言え、そんな大切な場所には地震が来たり、大雨が降ったり、ウィルスがきたり、もしかするとミサイルまで飛んでくるかもしれないという先の見えない未来ですが、デザインとは、想像力を巡らせて、創造力を駆使することです。デザセンで培ったこの2つの「ソウゾウ力」は、たとえどんな仕事に就いたとしても、どこに暮らしたとしても、必ずあなたの人生を守り、あなたの場所を豊かにくれるはずです。みなさんが創るより良い未来に期待しています。

奈須正裕(なす・まさひろ)

奈須正裕(なす・まさひろ)

上智大学総合人間科学部教育学科教授、中央教育審議会教育課程部会委員

デザインに取り組む中で「わかったつもり」を問い直し、新たな自分と世界に出会うステキな時間を

長引くコロナ・ショックを反映してか、充実感のなさや漠然とした閉塞感、人間関係やコミュニケーションへの不安とそこから来る孤独や疎外感など、人々が抱くさまざまな生きづらさにフォーカスし、デザインの力によってやさしく寄り添い、共感的に支え、軽やかに乗り越えようという提案の多さが、私には印象的でした。

感情の表現と交流をサポートする「emolight」を製作した伊奈学園総合高校、絵本をツールに家族の記憶を歴史として実体化する方法を編み出した谷地高校、簡便で効果的な自己省察の道具である「リセットノート」をアナログとデジタルの双方で開発した名城大学附属高校、不登校の仲間の居場所づくりを持続可能なシステムとして生み出した宇部フロンティア大学付属香川高校の取り組みなどです。いずれからも透明感のあるやさしさと揺らぐことのない信念が感じられ、屈託のないみなさんの笑顔の中に、未来への希望を見た思いがしました。

その一方で、今現在の自分の理解や向かおうとする方向性についてもっと慎重になり、時に立ち止まって多面的に吟味し、そこに別な景色の可能性はないかと省察する習慣とスキルを身に付けてほしいとも思います。 「わかったつもり」でいたことが、もう一段深い水準で「わからなくなる」ことが、学ぶということです。具体的な「もの」や「こと」を生み出そうと思案するデザインという行為は、このような学びをことさらによく、また切実にもたらしてくれます。「わかったつもり」を踏み越え、昨日までの自己を更新し、新たな世界を切り拓いていく。デザインに取り組む中で、そんなステキな時間を存分に味わってほしいと願っています。

大橋マキ(おおはし・まき)

大橋マキ(おおはし・まき)

IFA認定アロマセラピスト/一般社団法人はっぷ代表

初めてデザセン審査員にお声かけ頂き、高校生の皆さんの「いま」に接する貴重な機会をいただきました。約600作品から厳選された10作品とあって、コロナ禍のマスク生活を背景とした時代性や社会性、総合高校から工業高校、農業高校などのバックグラウンドの違いや地域性などが反映され、アイディア自体からプレゼンテーション方法まで、こんなにも個性が表れることに驚きました。審査員世代との価値観のギャップを痛感した作品も複数あり、高校生の「今」や想いを理解することに努めましたが、その過程は大変刺激的なものでした。常連のデザセン出場校では経験値も加わったのでしょうか、審査員が唸るような演出もありました。総合的に、参加者皆さんが「アイディアする」ことを楽しみ、オンライン開催という制限さえも逆手にとって面白がっていたチームほど、善戦に繋がったのではないでしょうか。オンラインであっても、工夫によって熱感は伝播するのだなと感じました。画面の向こう側に想像をめぐらせ、「届ける」「伝える」ことを諦めない、面白がることを止めない姿勢の大切さを再確認します。

この数年、大人たちはコロナ禍の制限が子どもたちに及ぼす影響を心配してきましたが、工夫を編み出し、逞しく進化を遂げている姿に希望を感じます。学びと社会を繋ぐデザセンのような取り組みが、今後も続いていくことを願ってやみません。コロナ禍で製作も思うように進められない中、苦労を乗り越え、チームで工夫を重ねてやり遂げた経験を糧に、これからもアイディアを世の中に投げかけ、影響をうみだし、生きていくことを楽しんでくださいね。大人たちも楽しんでいきたいと思います。本当に有難うございました。

竹内昌義(たけうち・まさよし)

竹内昌義(たけうち・まさよし)

建築家・『みかんぐみ』共同代表/エネルギーまちづくり社代表取締役/一般社団法人パッシブハウスジャパン理事/東北芸術工科大学 建築・環境デザイン学科 教授

今回のデザセンに参加された全ての高校生、そして彼らを後押しされた先生、学校関係者のみなさま、お疲れ様でした。普段、デザインということを考えない方が、デザインってなんだろう? って考えて、さぞお疲れでしょう。また、コロナ禍で思うように集まれず、継続できず、その中でなんとかやってこられた。とても大変だったと思います。お疲れ様でした。

さて、高校生と実際の社会の違いはとてもいっぱいあります。今回は、そのことについて少し触れたいと思います。最も大きな違いは、高校生が評価される尺度と社会人、今回のようにデザインが関わる場合はデザイナーの評価は全く違います。高校生は、否応なく成績が一つの大きな尺度になっています。たくさんの尺度があって、どれでも良いというわけではないんじゃないでしょうか。一方、社会人やデザイナーになると、尺度はクライアント(発注者だったりファンだったり)の数だけあると言っても過言ではありません。誰か一人なのではなく、誰かがいればいいということになります。100人の人がダメと言っても、ある一人が「おもしろいね。それで行こう。」と言ってくれたら、成立します。尺度は人の数だけあります。もちろん、その人に届くような努力はしなければなりませんし、それがどれだけ良いか説明することも求められます。でも、最終的には誰かに届けば、勝ちです。それを多様性と言います。多様性ですので、答えがひとつじゃないんです。これだけをどこかで覚えておいてほしいと思います。ゲームのルールが違えば、振る舞いも変わります。そして、それは高校の科目で言うと主要5教科ではなく、他の4教科、技術、家庭、音楽、美術に関わることが多いです。例えば、建築は技術ですし、料理は家庭科、グラフィックデザインなどは美術だったりします。音楽はその道のプロがいます。では、主要5教科は何に使うか。例えば、数学、理科は論理的に考える練習だったり、国語、英語はコミュニケーションの問題、社会(特に歴史)や理科はものの成り立ちの理解に関係します。得意、不得意はあっても良いと思いますが、一応全部役にたつものだということは伝えておきたいです。ちょっと長くなってしまいましたが、デザインに興味を持っていただけたら、私たちはとても嬉しいです。

柚木泰彦(ゆのき・やすひこ)

柚木泰彦(ゆのき・やすひこ)

東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科教授、高大接続推進部長

力を合わせて創造の翼を広げ、既成概念を飛び越えよう!

2022年度から「総合的な探究の時間」が全面実施されることに伴い、デザセンは「探究型学習の成果発表全国大会」として、成果の発表に適した時期での開催となりました。これまでのデザセンと同様、皆さんの実行力と確かな成果が求められるのはもちろんのこと、その過程でどのような気づきがあり、どのようにアイデアを深めてきたのか、探究プロセスの奥行きを見ることも大切なポイントと考えています。今年の決勝大会でも、どのような試行錯誤からその結果に辿り着いたのか、解決すべき課題に取り組む中で格闘した軌跡を知りたいと思い、いくつかのチームにそのような質問をしました。

各チームとも探究を進めていく途中で、思うように前に進まない時間、思いがけない困難にぶつかった場面があったのではないかと思います。それらを乗り越えるには、失敗することを気にせず気軽に動いてみる行動力が欠かせませんし、時に視点を変えてみる柔軟な姿勢、俯瞰して全体を見渡す姿勢が必要です。1人では限界がありそうな時も、チームメンバーが力を合わせ、複眼的な視点で取り組むことにより、思考と行動の振れ幅は一気に広がります。互いに協力しながら創造の翼を広げ、そして、凝り固まった大人の思考では及ばない、高校生の君達だからこその眼差しで、既成概念の枠を飛び越えてほしいと常々思っています。そうした意味で、今年の受賞チームは、審査員の期待に応える、あるいは予想を越える発想力と実行力を伴っていたと感じています。

最後に、デザセンに挑戦したすべての高校生に向けてお伝えしたいことがあります。チームで協働することで身についた視野とソウゾウリョクは、今後、皆さんが新たな社会課題の解決に向かう時にもしっかりと活かせる財産です。これからも、世の中の皆が笑顔になる方法を考え、行動し続けてください!

矢部寛明(やべひろあき)

矢部寛明(やべ・ひろあき)

認定NPO法人底上げ 理事長 コミュニティデザイナー/東北芸術工科大学 コミュニティデザイン学科 講師

まずは、今回も審査員として参加できたことを嬉しく思います。僕は今回で3回目の参加になりますが、毎回思うことはデザセンの1日というのは本当あっという間だなぁということです。皆さんの思いのこもったプレゼンや質問に応える様子を見ているとあっという間に1日が過ぎていきます。特に今年は昨年コロナの影響で開催できなかったので、なおさらなのかもしれません。

そして今回のデザセンですが、感染予防対策としてオンライン開催となりました。高校生の熱量が画面越しにどれだけ伝わるのかと心配していたのですが、そんな気持ちは最初の発表で吹き飛びました。どの発表も工夫を凝らしたものばかりで見応えがあり、映像に引き込まれていきました。特に、山形中央高等学校の「山形しかカタン!」、九州産業大学付属九州高等学校「刃物との付き合い方」は短い物語を見ているようでした。

今回のデザセン開催のタイミングは、「戦争」という世界が大きく揺れているタイミングでの開催となり、僕自身も「無力感」を強く感じ、気分が落ち込んでいた時期でした。そんな時期でもあり、皆さんの発表は僕にエネルギーを与えてくれました。おそらく、そう感じたのは僕だけではないはずです。遠くを思い悲観することもできますが、足元を見て一歩ずつ行動に起こしていくこと。当たり前の大切なことに気づかせてくれました。

デザセンという活動の本質は誰かを笑顔にすることだと思っています。この活動がさらに大きなうねりとなり一人でも多くの笑顔が生まれるように、Think global act local (地球規模で考え、足元から行動せよ)精神で活動して欲しいと思います。もちろん僕も。

トミヤマユキコ

トミヤマユキコ

ライター/マンガ研究者/東北芸術工科大学 文芸学科 講師

わたしにとって初めてのデザセン、どんな企画に出会えるのかワクワクしながら臨みました。コロナ禍ということでオンラインでの開催にはなりましたが、画面越しでもみなさんの熱意や創意工夫は十分に伝わってきました。

どんなひとでも生きていると、不便だなとか理不尽だなと感じることがあるわけですが、そこから一歩進んで「なんとかしたい!」となるには、結構エネルギーが要りますし、さらに「みんなにも伝えたい!」となれば、さらなるエネルギーが要ります。でも、みなさんはそれをやってのけた。きっかけは、授業でやらされたとか、先生に言われたとか、そんな感じだったかもしれませんが(笑)、それでも途中から「これは自分たちの企画なんだ」という意識に切り替えなければ、ここまでの仕上がりにはなっていないはず。自主性、主体性は、複雑で厄介なこの世界を生き抜くために必要なものです。入賞できなかったから意味ない、じゃないんです。今回の取り組みを通して自分たちが手に入れた能力を、ちゃんと評価して欲しいなと思います。

この世界をよりよくしていきたいと思うとき、怒りの感情が湧き起こることがあります。「なんでこんなことがまかり通っているの!?」と怒ってしまうこと、ありますよね。落ち着いて、冷静に、と言うひともいますが、わたしは怒りを尊い感情だと思っています。今回のプレゼンでは、そういう怒りが見えてこなかったのが、ちょっとだけ物足りなかったです。どうかその尊い感情をなかったことにせず、よりよい世界のために使ってください。期待しています。