東北で最も自由なビブリオバトル
ノキシタビブリオに見る本と人間に関わる愉しみ
写真:駒井桂太郎/テキスト:佐々木透也
「ビブリオバトル」をご存知だろうか? 2007年に京都大学で生まれた知的遊戯。参加者が5分間で自分が好きな本を紹介し、誰の本が一番読みたくなったかを競うゲームだ。「本を通して人を知る」をテーマに掲げ、全国的な活動が展開されている。
東北における有力なビブリオバトルサークルに「ノキシタビブリオ」がある。
「Open Villageノキシタ」を拠点に活動する同サークルは、ゲームルールの改良や様々なプレイヤーを広く受け入れる自由な活動方針が評価され、2023年にはビブリオバトルオブザイヤーユニバーサル賞を受賞する。東北で特に注目を浴びるビブリオバトルサークルである。
舞台となるOpen Villageノキシタはなぜプレイヤーに好まれるのか?
なぜノキシタビブリオが注目されるのか?ビブリオバトル参加者の視点から探る。
読書は孤独なものではない
人が出会う場所ノキシタビブリオ
ノキシタビブリオ創設者
加藤啓太
ノキシタビブリオ創設者。2020年ビブリオバトルオブザイヤー新人賞を受賞。ノキシタビブリオに限らず、講師活動や公式大会の運営などビブリオバトルの普及に貢献する。
長年業界で活躍する彼に話を伺った。
人を本で結ぶ場所
──加藤さんにとってのビブリオバトルとは何ですか?
「娯楽ですかね。大学入試の科目になったり、頭の良さそうなものだと言われるけれど、そんんな難しいものではなくて、ゲームや運動と同じ娯楽だと思います」
──肩肘張ってやるものではないですよね。東京会場などで散見する台本ありきの発表はもったいないように感じます。
「そうですね。その瞬間瞬間にしかないものを、その人の言葉や雰囲気で話すのがビブリオバトルの面白いところなんですけどね。
スピーチとは全然違います。前にお(cid:20294)さんが参加なさった会があったんですが、そこで彼は5分間自分の半生を語っていました。そして最後に『経験から言うと私にはこの本を5分で紹介することはできないので、以上になります』って締めるんです。身も蓋もないですが妙な説得力があって、お(cid:20294)さんはその会のチャンプになりました。ビブリオはそれがアリなんです。本だけじゃなく話者の個性だけで語ったとしても読みたいと思わせれは勝ちなんです」
──加藤さんの話者としてのスタイルはどんなものですか?
「台本はあまり考えないです。全国区の大きな大会なら構成メモくらいなら用意することはありますが、基本は思ったこと、頭に浮かんだ言葉を喋っています」
──私も同じです。勝てる戦法かは分かりませんが、その方が楽しいです。
「難しいですね。勝てるビブリオと楽しいビブリオはまた違う。勝とうとすると、声のトーンを意識的に落としたり抑揚を変えたりしています。けれどそれは疲れる。素で喋れば、それが楽しいビブリオです」
──素で勝てるビブリオをしている方もいますよね。
「何人か思い当たりますね。特に印象的な人だと、長く同じサークルで活動している方の中に、本の趣味以外のパーソナリティを隠してミステリアスに演出する人がいます。
正体不明の友人です。そんな魅力的な武器を持っているのに、話し方は素で強い語り口なんです。あれはずるい」
──私もまだ一回もあの人には勝てません。
「そこがビブリオバトルの面白いところだけれど。話者あってのビブリオバトル、まさに本を通して人を知るじゃないけれど、スピーチとの違いですね。話者の個性と本の組み合わせ次第では、選書で勝ててしまう。だって読みたくなったら勝ちなのがビブリオです。上手い発表をすればいいものではない。
負けたら悔しいけれどそのプレイヤーと本を好きになってしまう。そう言うところが面白いですね」
──他の会場とノキシタビブリオとの違いを教えてください。
「特別感があることです。綺麗な会場と、ここでしか会わない人たち。そこでバトルして打ち解けて。他の会場よりも異世界感があるのだと思います」
──どこでプレイするのとも違いますね。
「だけどアウェー感がないんです。大きい公式大会とは違う気合いの入り方をします。演劇の演者に近い感覚かもしれません。ビブリオバトルにはどこか演劇に近いところがあると思うんです。プレゼンテーションとの違いと言うべきでしょうか。読んで面白かったところを語るよりも『読了に感動している自分を再現している』と言う方が私のスタイルに近いんですよね。その意味で舞台のようなこの場所はやりたいことができます」
──私も似たスタイルなので共感します。
「ある意味最強を引き出してくれる舞台です。
私はビブリオバトルで好きな本の話を誰かにしたいと言うよりも、好きな本を読んでどうにかなってしまっている自分を再体験したいんです。ここではそれが全力でできます。
あれは他の会場ではなかなかできません。
それは多分、子どもがいてご老人がいてっていうこの場所だから成立することだと思います。ノキシタ以外だったら少し気恥ずかしいことも、ここならノンストレスで全力を出せるんです。初対面のプレイヤーが多い会場なのに不思議なことです」
──その信頼感が自由度の秘訣かもしれないですね。
「そうですね。主催の加藤さんはプレイヤーとして突飛なスタイルは採られない。むしろラフスタイルなことが多い方です。意図してかは分かりませんが、それで『どこまで曝け出していいか』と言うベースラインを示してらっしゃるんですよね。主催者が発表を通して会場が『どこまで受け入れるか』を暗に示してくれるから、その領内では何でもできます。
地盤がしっかりしていると言うことが自由度に繋がっているのかもです。新ルールなんかも成立しますし」
──変則的なルール改変もノキシタの魅力ですね。
「あれ結構楽しみなんです。架空の本をその場で考えて紹介する『夢ビブリオ』とか。文壇に通じているとパロディの元がわかったりして面白いですよね。またやりたいです。地盤が強いというところで言うと、特殊なルールや戦術を試したり、ヤンチャをしても壊れない舞台がノキシタビブリオだなと思います」
自由と挑戦を支える場所
ノキシタ
ノキシタビブリオの舞台となるOpenVillage ノキシタ。この場所の代表である加藤清也は『村長』の肩書きを持つ。彼は建築コンサルとして仙台の田子西地区に関わり続け、「高齢者と障害者の組み合わせ」と言うアイデアの下、OpenVillage ノキシタを開く。今回は多くの挑戦を支えるノキシタの『村長』に話を伺った。
──館内に入るとさをり織りが展示されているのが印象的ですが、始まったきっかけのようなものはありますか?
「織物というのは本来厳しいルールがあるものです。ここにあるような、糸が飛び出していたり網目に乱れがあるものは傷物扱いになります。これに対して自由度を高めた織物として大阪から広まったのがさをり織りです。
人が集まるとなると、何か動機づけが必要です。自由に来てくださいと言われて放り出されることほど難しいことはない。自由の幅が凄く広くて、どこまでの自由が許されるのだろう、とかね。それから、新しい場所に行く時、人は何か大義名分が欲しいもの。このためにくと言う動機が行ってみてからも、動機づけがなくては会話に困ってしまう。そこで、誰でも挑戦できて来訪を促すきっかけにもなるさをり織りを始めたんです」
──ではここで行われるアートワークなども同じようにはじまったのでしょうか。
「それは我々が仕掛けたものではありませんね。というか私たちから『これをしましょう』と言って始めたものは少ないです。当初は一切やらないつもりでした。例えば私が『こうすれば人が来るかな』と考えて運営すると私の価値観に合う人しか訪れない。世の中はそう言う場所がほとんどです。主催が何かを企画してカテゴリーに合う人を集める」
──それがビジネスですものね。
「それがビジネス。でも私は自分のカテゴリーから大きく離れた人の生の声が聞きたい。
だから自分で企画するのはやめようとおもったんです。でも自由ほど難しいと来た人から言われて、今は『こういう使い方していいですよ』というきっかけ作りをしています」
──次に保育園についてです。園児の皆さん言葉が達者でいる印象があります。加藤さんから保育園に関するお考伺いたいです。
「言葉が達者なのかはわかりませんが、人に対する垣根が低いというのはあると思います。普通、幼稚園というのは柵に囲われていて、接する大人も先生と両親だけという環境です。でもここはいろんな方が出入りする。
皆さんのような若い人もご高齢の方も障害のある方も、いろんな人を日常的に目にするんですよ。それがいいのか悪いのかはわからないけれど、だからここの子どもたちは他人に対してオープンなんです」
コレクティヴスペース、カフェ、保育園、障害支援者施設からなる複合施設。館内には「サオリ織り」をはじめとした来村者による制作物が展示される。0歳児から高齢者まで多くの人間が時を同じくするユニークな場所だ。
住所──宮城県仙台市宮城野区田子西一丁目12番4号
電話──022-352-3022
営業──火〜土曜日9時30分〜16時30分
定休──日月曜日



