絶/景

東北の地でアートを学ぶことは、多かれ少なかれ周縁化される「もどかしさ」を抱え込まざるを得ない。バブルに沸き立つ都市中心のアートシーンで、自らがどの文脈に依拠しているのかも解らないまま、多くの若いアーティストたちの野心は、地方都市の保守的アカデミズムに回収され途切れていく。あるいは、表現の根拠地としての「東北」との、つながりや決別を明確にすることで、必然的に、地方と都市の格差が生み出す「世界の隅に存在すること」と「忘却への怖れ」の痛みを同時に内在化させていく。
東北芸術工科大学を卒業後も山形に留まって活動している西澤諭志は、およそ「東北らしさ」とは無縁で没個性的な公共空間を、ドイツ現代写真を想起させる均質な描写で撮影している。蛍光灯の明滅や、冷蔵庫の振動のような、「記号」と「実体」の境を切り替えるある種の「スイッチ」が、西澤のアイロニカルな凝視の記録に埋め込まれていて、観るものを幻惑させる。

『実験跡地』は、舞踏家・森繁哉が主催する同大のチュートリアルである。彼らは数十年前に廃村となった最上郡大蔵村の「新村」について、民俗学者らとともに周辺村民への取材をおこない、集落跡地で見出した家屋造成の痕や果樹などの植生、錆びた農具など残された遺物からかつての村の輪郭をトレースし、雪の夜、家々が立ち並んでいたポイントで焚き火をおこなった。反対側の尾根からは、失われた集落が幽霊のように立ち上るのが見えただろう。それはこの現代社会で人間が暮らすことのできる「限界」の指標であり、生と死の「臨界」である。

ますますのっぺりと記号化する現代生活や、歯止めが利かない里山の喪失を、自身の問題としてどのように引き受けて行くのか? 山形で開催する今年2回目の『I’m here. vol.2 絶/景』では、若手アーティストによる2つの寡黙なドキュメンタリーを通して、この問いを投げかけていく。

宮本武典[東北芸術工科大学主任学芸員]


Satoshi Nishizawa(Photo by Kang Chulgyu)

Satoshi Nishizawa(Photo by Kang Chulgyu)
展覧会リポート→(DIARY/http://gs.tuad.ac.jp/museum/index.php?ID=97

Jikken Atochi(Photo by Kang Chulgyu)

Jikken Atochi(Photo by Kang Chulgyu)
展覧会リポート→(DIARY/http://gs.tuad.ac.jp/museum/index.php?ID=98

●Site

  • ◯Site-1:ギャラリー絵遊
  • オーナーの駒谷修二氏が「何か地域に役に立つ事をしたい」と、自宅の敷地内にある古い座敷蔵のリノベーションを、『みかんぐみ』の建築家で東北芸術工科大学の竹内昌義教授の研究室に依頼した。2008年の東北建築賞で「作品奨励賞」を受賞。
  • Jikken Atochi
  • Jikken Atochi
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  • ◯Site-2:(Ruupa)
  • 「作品や作家との関係性を持って(Ruupa)が成立し、それが、空間やメディアに還元されることになる―」。ともに東北芸術工科大学の卒業生で、デザイン事務所『アカオニデザイン』の小板橋基希さんと三浦晴子さんが主宰するギャラリー。デザイナーらしいグラフィカルな遊び心あふれる自主企画展が好評。
  • Satoshi Nishizawa
  • Satoshi Nishizawa

●Events

  • ◯西澤諭志ギャラリートーク
  • 日時=11月8日[土]18:00−20:00
  • 会場=(Ruupa)
    (定員40名/参加無料)
  • ゲスト=屋代敏博(写真家、東北芸術工科大学准教授)
  • 西澤諭志ギャラリートーク
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  • ◯集落とアートをめぐる七晩
  • 連続レクチャー『集落とアートをめぐる七晩』では、I'm here.山形展のプログラムとして中山間地域の現状について語り合う7つの「語りの場」を、実験跡地が「作品」として創出した。
  • 期間=11月5日[水]−16日[日]
  • 会場=蔵だいます
  • 企画プロデュース=森繁哉+実験跡地
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  • Program
  • ・第1夜 11月5日[水]18:00−
  • 「大蔵村柳淵に生きる」
  • 講師=三原与一郎(柳淵在住、農家)
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  • ・第2夜 11月6日[木]18:00−
  • 「限界集落を歩いて」
  • 出演=梶井照陰(写真家、僧侶)
  • 「限界集落を歩いて」
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  • ・第3夜 11月9日[日]18:00−
  • 「中山間地域で茅葺き職人として生きるということ」
  • 講師=奥村孝(柳淵在住、茅葺き職人)
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  • ・第4夜 11月13日[木]18:00−
  • 「小出の家+落石計画、移動する家々」
  • 講師=高浜利也(版画家)
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  • ・第5夜 11月14日[金]18:00−
  • 「若林奮・彫刻家の小さな地図」
  • 講師=酒井忠康(美術評論家)
  • 「若林奮・彫刻家の小さな地図」
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  • ・第6夜 11月15日[土]19:00−
  • 「土の声、風の音 工藤桂 弾き語りライブ」
  • 出演=工藤桂(ミュージシャン)
  • 「土の声、風の音 工藤桂 弾き語りライブ」
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  • ・最終夜 11月16日[日]18:00−
  • 「“実験跡地”を検証する」
  • 講師=宮本武典(東北芸術工科大学主任学芸員)
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