以前掲載したこちらの記事「国際化する大学病院のサスティナブルデザイン」で、山形大学医学部(以降、山大)と東北芸術工科大学(以降、芸工大)が協力し、「病院内サイン」のあり方を根本から見直した画期的な取り組みをご紹介しました。今回はその続報として、2020年12月14日に開所したばかりの「東日本重粒子センター」の院内サインについて、デザイン監修を手がけた芸工大の原高史(はら・たかふみ)グラフィックデザイン学科教授に伺いながら現場をリポートします。
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この施設は山大の世界最先端の「重粒子線治療」を用いたがん治療を行う医療施設として、2021年2月より本格的に稼働します。あらゆる角度から重粒子線を照射できる「回転ガントリー」を保有し、患者ががんと戦うこの場所を「スペースシップ」(宇宙船)に見立てた斬新なデザインで具現化しました。また、この事例は、令和3年度用の中学美術の教科書(開隆堂出版株式会社発行)に「デザインや工芸で学ぶこと」として掲載されています。
――「東日本重粒子センター」のデザインコンセプトを「スペースシップ」としたのはなぜですか?
原:重粒子線治療は、正常な組織を避けてがん腫瘍の治療ができる最先端の医療技術ですが、小さながん腫瘍に対してこれだけの巨大な施設で立ち向かうのですから、いかにがんが怖い病気か分かりますよね。ですから山大の先生たちと、このがん治療施設の印象を「笑顔で帰れる場所」に変えていきましょうと話したんです。
がん治療を受ける患者さんたちにがんと闘う力を付けてもらって、家族に対して笑顔で、「これから闘ってくるね」と言えるようなデザインにしたい、そう思いました。そして重粒子線治療と同様、最先端の知識と技術が集約されている「スペースシップ」が、このセンターのイメージと重なりました。山大の先生たちも共感してくださって、この計画がスタートしました。
――廊下を進むと、生命の誕生や宇宙をイメージするデザインが続きます。ここで表現していることは何ですか?
原: 同センターの入り口まで64メートルもあるこの廊下では、「DNAレベルでがんと戦い、人と機械が手を組んで無事に患者を帰還させる」というセンターが担うミッションを表現しています。
また、患者が重粒子治療という旅に向かうイメージを、「生命が誕生し成長する様子」、「染色体やDNAの二重螺旋構造」、「地球をはじめとする星々」を描くことで、宇宙的なスケール感で表現しました。人間の体内には37兆個もの細胞があり、まるで宇宙のように広がっていることも表現しています。
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普段は入る機会があまりないこのセンターを、ここからは画像で紹介します。
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ここからはいよいよセンターの内部に入ります。入り口を入ると患者の待機スペースがあります。天井が高く広々としたロビーには、太陽系の惑星が描かれたタペストリーが掲げてあり、まるで宇宙から地球を見ているような雰囲気です。治療前の緊張が解きほぐされるようなデザインを今後も施していく予定です。
フィンランドのデザイナー、エーロ・アールニオの名作「ボールチェア」も設置。球体をくり抜いたようなフォルムのチェアが、未来的な雰囲気をさらに演出します。抵抗力の無いがん患者たちに配慮し、消毒可能な布に張り替えられた特別仕様です。
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――「東日本重粒子センター」のロゴマーク(以下の写真左)は、どのようなデザインコンセプトなのですか?
原:山大医学部のロゴマークは(下写真の右)、医療・医術の象徴として世界的に広く用いられているシンボルとしてギリシア神話に登場する「アスクレピオスの杖」(名医アスクレピオスが持っていたと言われている蛇の巻きついた杖)がデザインされているのですが、東日本重粒子センターのロゴマーク(下写真の左)では、この杖をスペースシップとそのジェット噴射に変え、がん腫瘍に見立てた「★」に、重粒子線がピンポイントで向かう様子を表現しました。また三角は、「山形の山」と、今回のスペースシップを印象付ける重粒子センターまでの入り口の「廊下」をイメージしています。
――今後も山大と芸工大のコラボレーションは続きますか?
原:そうですね。このセンターの他にも、既に完成している「YUMe ギャラリー」で、芸工大の先生方の作品を飾ってもらっていますが、「ホスピタルアート」の取り組みや、展示作品のオークションを開いて、売上げの半分を作家に、半分はチャリティや寄付、ギャラリーの運営に充て、持続的に活動できるように計画しています。両大学の教員と学生の交流の場なども創出する予定です。
山形を代表する山大と芸工大が、医療とアート、デザインでつながることで、患者はもちろん、患者の家族や病院で働く方々にもより良い環境を作りたいと思っています。そして県内外に、この新たな取り組みを発信していきたいと思っています。
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(取材:企画広報課・五十嵐)
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