世界最先端の放射線治療を「宇宙船」で。/山形大学・東日本重粒子センターをリポート

インタビュー 2021.01.07|

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この施設は山大の世界最先端の「重粒子線治療」を用いたがん治療を行う医療施設として、2021年2月より本格的に稼働します。あらゆる角度から重粒子線を照射できる「回転ガントリー」を保有し、患者ががんと戦うこの場所を「スペースシップ」(宇宙船)に見立てた斬新なデザインで具現化しました。また、この事例は、令和3年度用の中学美術の教科書(開隆堂出版株式会社発行)に「デザインや工芸で学ぶこと」として掲載されています。

――「東日本重粒子センター」のデザインコンセプトを「スペースシップ」としたのはなぜですか?

原:重粒子線治療は、正常な組織を避けてがん腫瘍の治療ができる最先端の医療技術ですが、小さながん腫瘍に対してこれだけの巨大な施設で立ち向かうのですから、いかにがんが怖い病気か分かりますよね。ですから山大の先生たちと、このがん治療施設の印象を「笑顔で帰れる場所」に変えていきましょうと話したんです。

がん治療を受ける患者さんたちにがんと闘う力を付けてもらって、家族に対して笑顔で、「これから闘ってくるね」と言えるようなデザインにしたい、そう思いました。そして重粒子線治療と同様、最先端の知識と技術が集約されている「スペースシップ」が、このセンターのイメージと重なりました。山大の先生たちも共感してくださって、この計画がスタートしました。

「IROMIZU」(株式会社中川ケミカル)の透明度の高い装飾用シートを使用
採光窓には、透明度の高い装飾用シートを使用。宇宙から見た「地球の青」をイメージした幻想的な光が差し込む。重粒子線治療に臨む患者たちに勇気を与えるとともに信頼感・安心感を持ってもらうためのデザイン。

――廊下を進むと、生命の誕生や宇宙をイメージするデザインが続きます。ここで表現していることは何ですか?

原: 同センターの入り口まで64メートルもあるこの廊下では、「DNAレベルでがんと戦い、人と機械が手を組んで無事に患者を帰還させる」というセンターが担うミッションを表現しています。

また、患者が重粒子治療という旅に向かうイメージを、「生命が誕生し成長する様子」、「染色体やDNAの二重螺旋構造」、「地球をはじめとする星々」を描くことで、宇宙的なスケール感で表現しました。人間の体内には37兆個もの細胞があり、まるで宇宙のように広がっていることも表現しています。

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普段は入る機会があまりないこのセンターを、ここからは画像で紹介します。

東日本重粒子センター

東日本重粒子センター。治療へのアプローチとなる場所に、人間が生まれ、成長し、家族や社会のなかで暮らすという「時」を表現。
治療施設までのアプローチとなる廊下では、人間が生まれ、成長し、家族や社会のなかで暮らすという「時」を表現。
東日本重粒子センター。DNAの二重螺旋構造が描かれた壁面。
DNAの二重螺旋構造が描かれた壁面。
東日本重粒子センター。宇宙的なイマジネーションを掻き立てる、スペースシップの搭乗口のような重粒子センターの入り口。
生命・宇宙へのイマジネーションを掻き立てるアプローチ。
東日本重粒子センター。シャトル内部からの景色を想定した円形の窓の絵には、重粒子センターの10メートル上空から眺めた風景が描かれている。
スペースシップ内部から見た景色を想定した円形の窓の絵には、同センターの10メートル上空から眺めた風景を描いた。
東日本重粒子センター。こちらは300メートル上空からの風景が描かれている。
こちらは、300メートル上空からの風景。飛行機からの眺めに近い。
同センター上空から大気圏、そして宇宙へと変化する風景。

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ここからはいよいよセンターの内部に入ります。入り口を入ると患者の待機スペースがあります。天井が高く広々としたロビーには、太陽系の惑星が描かれたタペストリーが掲げてあり、まるで宇宙から地球を見ているような雰囲気です。治療前の緊張が解きほぐされるようなデザインを今後も施していく予定です。

東日本重粒子センターの宇宙基地のような臨場感を演出したセンター入り口
宇宙基地のような臨場感を演出しているセンター入り口。
東日本重粒子センター。患者が治療を受けるまでの待機スペース。天井が高く広々としたロビー
天井が高く広々としたロビー。患者が治療を受けるまでの待機スペース。

フィンランドのデザイナー、エーロ・アールニオの名作「ボールチェア」も設置。球体をくり抜いたようなフォルムのチェアが、未来的な雰囲気をさらに演出します。抵抗力の無いがん患者たちに配慮し、消毒可能な布に張り替えられた特別仕様です。

東日本重粒子センター。山大と芸工大の学長が共同記者会見を開いた時の様子。
写真左が芸工大の中山ダイスケ(なかやま・だいすけ)学長、写真右が山大の玉手英利(たまて・ひでとし)学長。両学長が出席し、本センターのお披露目会(記者会見)を開催した際の様子。(2020年10月)
東日本重粒子センター。ロビーの先には治療を受ける方の待機室が8つあり、それぞれに太陽系の惑星の名前がつけられている。
ロビーの先には治療を受ける方の待機室が8つあり、それぞれに太陽系の惑星の名前が付けられている。
東日本重粒子センター。重粒子線治療室のピクトグラム(視覚記号)は日本初と言われている。
重粒子線治療室のピクトグラム(視覚記号)は日本初と言われている。
東日本重粒子センター。宇宙的な雰囲気を演出したピクトグラム
その他のピクトグラムも、2種類のフォントを使用し、宇宙的な雰囲気を演出したというこだわりよう。

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――「東日本重粒子センター」のロゴマーク(以下の写真左)は、どのようなデザインコンセプトなのですか?

原:山大医学部のロゴマークは(下写真の右)、医療・医術の象徴として世界的に広く用いられているシンボルとしてギリシア神話に登場する「アスクレピオスの杖」(名医アスクレピオスが持っていたと言われている蛇の巻きついた杖)がデザインされているのですが、東日本重粒子センターのロゴマーク(下写真の左)では、この杖をスペースシップとそのジェット噴射に変え、がん腫瘍に見立てた「★」に、重粒子線がピンポイントで向かう様子を表現しました。また三角は、「山形の山」と、今回のスペースシップを印象付ける重粒子センターまでの入り口の「廊下」をイメージしています。

写真左は、今回新に整備した東日本重粒子センターのシンボルマーク。写真右は今回のシンボルマークのデザインソースとなっている山大医学部のロゴマーク。こちらもグラフィックデザイナーでもある芸工大の中山ダイスケ学長がデザイン。2つのロゴマークは、偶然にも芸工大が手掛けたものとなった。

――今後も山大と芸工大のコラボレーションは続きますか?

原:そうですね。このセンターの他にも、既に完成している「YUMe ギャラリー」で、芸工大の先生方の作品を飾ってもらっていますが、「ホスピタルアート」の取り組みや、展示作品のオークションを開いて、売上げの半分を作家に、半分はチャリティや寄付、ギャラリーの運営に充て、持続的に活動できるように計画しています。両大学の教員と学生の交流の場なども創出する予定です。

山形を代表する山大と芸工大が、医療とアート、デザインでつながることで、患者はもちろん、患者の家族や病院で働く方々にもより良い環境を作りたいと思っています。そして県内外に、この新たな取り組みを発信していきたいと思っています。

「院内サイン部会」メンバーの山大の欠畑誠治(かけはた・せいじ)教授、青山麻紀子(あおやま・まきこ)副看護部長、鈴木朱美(すずき・あけみ)講師。デザイン監修を手がけた芸工大グラフィックデザイン学科の原高史(はら・たかし)教授、デザインを担当した赤沼明男(あかぬま・あきお)同学科准教授
写真左から、「院内サイン部会」メンバーの山大の欠畑誠治(かけはた・せいじ)教授、青山麻紀子(あおやま・まきこ)副看護部長、鈴木朱美(すずき・あけみ)講師。デザイン監修を手がけた芸工大グラフィックデザイン学科の原高史(はら・たかふみ)教授、デザインを担当した赤沼明男(あかぬま・あきお)同学科准教授。

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(取材:企画広報課・五十嵐)

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東北芸術工科大学 広報担当
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