あらゆるシーンに活かされる、写生で育まれた確かな画力と多くの引き出し/アニメーター・卒業生 山田竜馬

インタビュー

美術科日本画コースを卒業後、アニメーションの背景美術を手掛ける株式会社青写真に入社した山田竜馬(やまだ・りょうま)さん。これまでTVアニメ『ブルーピリオド』や映画アニメ『ジョゼと虎と魚たち』など、数々のアニメ作品の背景美術を担当してきました。また在学中は、日本画三大団体の一つである日本美術院「再興第104回院展」に入選。デジタルでの制作が主流になる中、絵具で描くことも大切にしながら日々仕事と向き合っている山田さんに、この道を目指したきっかけや、学生時代に得た学びについてお聞きしました。

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“主役じゃないけど絶対に必要なもの”を描ける喜び

――はじめに、現在のお仕事について教えてください

山田:アニメーションの背景美術を担当しています。背景を制作するにあたり、レイアウトという完成画面の計画みたいなものがあって、その線画をもとに背景やパースをしっかり合わせながら色を付けていくような仕事ですね。そしてメインでその世界観を決めていく美術監督という人がいるんですけれども、うちの場合は社長が担っていて、先方様との打ち合わせをベースにシーンごと色味を決めて、それを私たち背景スタッフに「こういう色味でやってください」と指示する形で仕事が回っています。最近では、その打ち合わせの場に一緒に参加させていただく機会も増えてきました。

株式会社青写真 山田竜馬さん
お話をお聞きした山田竜馬さん。

――山田さんは1年目からいろんな作品に関わられていますが、入社してすぐに実作業に入らせてもらえたということでしょうか?

山田:本来なら最初に研修期間が3ヶ月くらいあるんですけど、実は大学生の時に、他社さんで実際にアニメーションの背景の実作業をしていた経験がありまして。大学の長期休みの時にアルバイトで1ヶ月ぐらい東京に来てやっていて、その経緯を社長が知っていたので、「すぐに実作業に入ろう」ということになりました。

株式会社青写真 山田竜馬さん
株式会社青写真 山田竜馬さん

山田さんによる手書きによる自主制作。線画段階で細かく書き込み、その後彩色を行う。

――背景美術の仕事に興味を持ったきっかけは?

山田:中学生の時、『天空の城ラピュタ』などで美術監督をされていた山本二三さんの展覧会を地元で見たことがきっかけで、自分も背景美術をやりたいと思うようになりました。あの小さな画面に世界をつくるっていうのが本当に素敵だなと思って。その後、大学4年生になって就職活動が本格化してきた頃、背景美術の会社を調べる中で見つけたのが青写真でした。

アニメーションの背景はデジタルが主流になってきているので、絵具作業でやっている会社って業界でも数社しかないんですね。でも絵具で描く背景に惹かれていたので、自ずと絞られてきて。それで会社見学をさせてもらった時に、社長が描かれた作品を見て「自分もこういう絵をつくっていきたい」と思い、入社しました。ただ青写真の場合、作品に合ったものを使っていくのが一番良いという考え方なので、デジタルもアナログも両方共存させているんですね。そこがまた大きな魅力だと思っています。

私自身もデジタル・アナログ両方やらせていただいていて、例えば最近まで放送されていた『天国大魔境』という作品は絵具で描いていて、また『王様ランキング』も絵具ならではの柔らかいタッチを活かした作風になっているんですけど、『アイの歌声を聴かせて』という劇場作品は完全にフルデジタルでやっていたりします。

株式会社青写真 山田竜馬さん

――仕事で背景画を描くことと、自分で絵を描くことの大きな違いとは?

山田:アニメーションの背景は、絵画と違って自己の表現をする場ではないんですね。何人かのスタッフの中で世界観を共有しつつ、そこを統一していかないといけないものなので。背景はあくまでも裏方であり、キャラクターの芝居を手助けするものであって、自分が描きたいものだけを描けるわけじゃないし、もちろん興味のないものも描かないといけないし。だからすごく職人的な面と芸術的な面との中間にいるんですけど、その“主役ではないけれど絶対に必要なもの”っていう立ち位置が私は好きだったりします。

それからアニメーションの背景って1秒で画面が切り替わったりするので、そうなると緻密なものよりパッと見た時にそこに何があるのかがしっかり伝わるものの方が、アニメーションの背景には必要とされているというか。でも学生だった頃は結構緻密な作品を描くことが多くて、じっくり見てもらうことでより楽しんでもらえる絵を主に描いていたので、瞬間的にパッと分かりやすく描く技術というのは、この仕事に就いて圧倒的に身に付いたんじゃないかなと思います。

芸工大だからこそ広がった、自分の中の幅

――アニメーションの背景美術を目指す中で、芸工大の日本画コースを選んだ理由は?

――大学時代はどんな作品を描かれていましたか?

山田:廃村に植物が覆っているような作品を卒業制作で描いたんですけど、そんな“錆びた建物と植物”のように、人間が作ったものに対して抗えない自然の強さ、みたいなものに結構惹かれて描いてましたね。自分の実家が山の中にあって、自然物との距離が近かったんですよ。小さい頃からサルが周りに降りてくるのを見たり、近くにクマが出たり、筍を採って食べたり。そういう遊びをしてきたので、自分の中での原風景みたいな世界観があって、それがジブリが好きっていうのにもつながってくるんですけど。そういうところから芸工大の自然の近さに親しみやすさを感じていました。

――当時、よくスケッチに行っていた場所などありますか?

山田:“この場所”というよりは、バスに乗って全く聞いたことないような、人が全然いないような場所に行ってスケッチしてましたね(笑)。そういうところにふらっと行って、ぶらぶら歩いて、「あ、ここ良いな」って思ったら椅子を置いて、そこで何時間かスケッチするみたいな。大学の後半は、そうやってスケッチしたものをもとに、そこで感じたものを作品にしていくことが多かったです。あと当時、指導してもらっていた番場三雄(ばんば・みつお)先生の作品が、自分の作品をつくる上でとても大きく影響していると思います。番場先生は写生をとても大切にされていて、その場所の空気感というか、写真とかじゃなく自分の肌で感じて考えたものを作品に落とし込んでいくっていうところがすごい素敵で。そこで得たものは、今も仕事で活かせていると感じています。

※日本画家。2020年度まで美術科・日本画コース教授。

――自然が間近にある環境で学べたことで、増えた引き出しも多いのでは?

山田:そうですね。あとは、日本画コースの先生にいろんなところに連れていってもらったことも大きかったと思います。地方で絵を描くようなチュートリアルもありましたし。当時、日本画の金子朋樹先生が飛島に連れて行ってくれたんですけど、後々仕事で『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』という作品を担当させてもらった時、舞台が離島だったので、「飛島ってこんな感じだったよな」みたいなのをイメージしながら描いたりしてました(笑)。実際モデルになったのは違う島なんですけど、遠くて行けなかったので、自分の中にある引き出しで一番近いものということで。

あと、在学中は授業もいろいろ取らせてもらいました。映像関係だったり、版画だったり、彫刻だったり。例えば彫刻が持つ立体感って、背景でも結構大事なんですよ。数秒で“これが何”って分かってもらうためには、やっぱり立体感というか構造みたいなものをしっかり把握していないといけないので。また鳥山明先生原作の『SAND LAND』という劇場作品の背景に関しては、色を塗ったあとに輪郭線のようなものを描き入れていたんですけど、そこでも日本画の“線を描く”ってことだったり、版画の“タッチで起こす”みたいなものが役に立っていて、大学での学びが直接的に関わっていることを実感しました。

――今後チャレンジしてみたいことなどあれば教えてください

山田:学生の頃はただ背景美術をやりたいだけだったんですけど、実際やってみて、次は美術監督として一つの世界観をつくっていきたいな、と考えるようになりました。最近うちの会社で『ブルーピリオド』という作品をデジタルで担当させていただいたんですが、当時30歳ぐらいの社員が、そこで初めて美術監督をしたんですね。そんなふうに「30歳ぐらいになった若手社員に美術監督を経験させたい」という思いが社長の中にあるので、自分もこれから30歳に向けて頑張って、任せてもらえるだけの実力をつけていきたいです。

――それでは最後に、受験生へメッセージをお願いします

山田:もちろん興味があることをやっていくのは大事なんですけど、自分が触れたことのないものに手を出していくというのも高校生の時期は大切になるんじゃないかな、と思います。やりたいことって自分で見つけていかないといけなくて、それを続けていくとなると意志が大切で、そういうものって自分の体験からしか出てこなかったりするので、普段はやらないようなことを少し時間が空いた時にやってみるとか。それだけで結構見え方が広がったり、やりたいことが見つかったりするかもしれません。

株式会社青写真 山田竜馬さん

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「“昨日できなかったことが今日できるようになった”、みたいなものを糧にしながら頑張っていける人は背景美術に向いていると思います」と山田さん。入社4年目を迎え、今では1日に12~13枚の背景画を描くこともあると言います。そんな多忙な日々を支える、写生によって培われた確かな画力と多くの引き出し。それは絵具での制作であってもデジタルでの制作であっても活かされるものであり、そして目標に掲げている美術監督を目指す上でも欠かせない、大切な力となっているようです。

(取材:渡辺志織、入試課・須貝)

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東北芸術工科大学 広報担当
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