芸工大が育てたいと考えているのは、混乱する時代にありながら、失敗を恐れることなく、軽やかに社会を変革していける人。そのための材料が、芸工大にはそろっていると中山ダイスケ学長は話します。芸工大で日々行われている、新しいアート&デザインの学びとは。
※本稿は、高校生・受験生向けに制作した『東北芸術工科大学 ガイドブック2021』の特集記事を再構成したものです。
今の時代に学ぶべき学問こそ「アート&デザイン」
――芸工大を進学先として選ぶ意義(価値)とはなんでしょう?
これから大学に進学される皆さんは、是非大学で学んだ「その先の世界」を考えてみましょう。これまでの社会は、政治や経済、工業や産業といった「社会から与えられる」モノやお金、サービスに豊かさを求めてきましたが、残念ながら世界はそれほど幸せにはなっていません。
これからの世界に必要とされるのは、「個人の工夫やアイデアが社会に与える」新しい価値だと感じています。
混乱する世界では、もう昔からの常識だけでは対応できません。さらにこの先は、「分かっていること」は全てAI(人工知能)などのテクノロジーが代わりを務め、「分からないこと・新しいこと」を人間が司るようになっていくでしょう。「分からないこと」が苦手で、「新しいこと」を怖がる人間は、変化に対応できずに固まってしまいます。この先の世界は、これまでの古い文化も、最新テクノロジーも自由に織り交ぜて、工夫とアイデアを生み出すことのできる「柔らかい人間」が創るのです。
そして、柔らかい人間になるために、世界で注目されているのが「アート&デザイン」です。
アートは、単に絵を描き、形を造ることではなく、とらわれている概念から脱することを学びます。価値の置き換えや常識のズレを作り出し、今までになかった角度で考える力を生み出してくれます。アートを学ぶことは、見たことのないモノを前にして、思考を止めない柔らかな人間を育てます。世界のトップビジネスマンや起業家たちが、アートを愛好していることを見ても、アートが新しい時代の必須科目であることは明らかです。
さらにデザインは、見た目を飾ったり、物を売るための手段ではなく、今や社会全体の考え方にまで進化しています。世界の構造を大きく変えたスマートフォンも、ソーシャルメディアも、デジタルマネーも、みんなデザインの発想から生まれたものです。これまでの仕組みでは成し得なかったことを、デザインという思考で変えていけるのです。アイデアと工夫次第で、弱点を利点に変換させることも可能です。デザインという考え方は、世の中のあらゆる分野の課題や問題を、和らげてくれるでしょう。
時代はもう更新されました。アート&デザインを学ぶことは、もうイラストが好きな人だとか、美術部出身者だけのものではなく、教科科目やスポーツ、趣味や妄想に夢中になってきた人など、今を生きる全ての若者に開かれた時代の「学問」であり、未来の社会を豊かにするための必須の「教養」なのです。
ローカルである強み
きっと近い未来には、もっと当たり前に、多くの人がアートやデザインを学び、社会全体が想像力や創造力を活用し、新しい価値を生み出す、そんな柔らかな人間たちの社会が生まれるはずです。しかし、まだまだ日本では、アート=描き方(技法)、デザイン=ルール(作法)としか教えてくれない古い考えの学校が多く、新しい目線でアート&デザインの活用や応用を実践している学校は限られています。
その点、芸工大は、新しいアート&デザインを学べる貴重な場所です。その大きな理由は、本学が山形という地方都市にあること。単なる自然に囲まれた、のどかで美しい東北という側面だけではなく、たくさんの社会課題に対面した「課題先進県」でもあるからです。山形は、この先、必ず日本全国が直面することとなる重要な社会課題に、10年も早く向き合っています。言わば山形は「未来の日本の姿」なのです。
長きに渡って解決することのできなかった社会課題に、芸工大の学生と教員は、アート&デザインの力で立ち向かっています。机上や教科書で学ぶのではなく、生きた課題に向き合いたいなら、ここ芸工大こそが、新しいアート&デザインの最前線です。
本学では学生と教員が一体となって、小さなアイデアをたくさん実現しています。たとえば、駅近くの空きビルをデザインし直して、学生が住むアパートにしたり、郊外の空き家を子育て世代に向けてリノベーションしたり。おばあちゃんが一人でやっている小さな本屋さんをカフェに改装して新しい人気スポットをつくったり。行政と組んで、子どもたちや高齢者の健康を映像やビジュアルでサポートしたり、人々の集まりやお祭りを自分たちの手で作ることにも挑んでいます。
産業と組んで、地域の良いもの、大切な歴史をたくさん発掘し、デザインをやり直して世界に発信したり、卒業生たちが働ける場所を新たに作ることにも積極的です。そういうリアルな事例をたくさん作りながら、コトやモノをクリエイトし、街自体を大学のキャンパスと捉えて学ぶことができる稀有な大学です。
本学が地域から依頼される案件は、年間100件を超えています。芸工大の演習の大部分はリアルな課題であり、学びと実践の場が大学内外に広がり続けています。その結果、「クリエイティブってどう活用するのか」ということを、実社会との関わりの中から学んでいくので、社会との対話力に長けた学生が自然に育つのです。
《CHANGEMAKERS(=社会を変革する人)を育てたい/学長・中山ダイスケ(後編) に続く》
(撮影:志鎌康平 取材:渡辺志織、企画広報課・須貝)
東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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