2020.02.07インタビュー

なぜ、芸工大は教員採用試験の「現役合格率」が高いのか

芸工大は近年、教員採用試験の“現役”合格率の高さで、注目を集めています。受験者数はそう多くありませんが、「美術」の教員採用試験合格率が抜きん出ているといわれています。どのように学生たちを導き、試験突破までの熱意や意識をつくっているのか、教職課程の指導にあたる渡部泰山(わたなべ・たいざん)教授にお話を伺いました。

――近年、小学校~高校の教員が大量に退職している状況のようですが、本学学生の「現役での教員採用試験合格率の高さ」は、そうした理由で採用数が増えているということでしょうか?

渡部泰山教授(以下、渡部と略):そうではありません。なぜなら、美術の採用枠は全国をみても各県1~2名程度で、この20~30年、狭き門であることは変わっていないからです。今年度の山形県の高校美術教員の採用数も1名で、2005年に大学を卒業した方でした。そしてその方も、芸工大の卒業生です。

教員採用試験の現役合格者数・合格率

年度 受験者数 現役合格者数 現役合格率
2019 15 12 80.0%
2018 11 9 81.8%
2017 10 10 100%

※合格者数には、私立学校、常勤講師職を含む  ※2019年度の合格者数は12月末現在のもの

――今年度は、15名が公立学校教員採用選考試験を受験し、12名が合格というとても高い合格率です。事前に受験生を選抜するなどしているのでしょうか?

渡部:特にしていません。今年の4年生は、約60名が教職課程を履修し、そのうち90%が教員免許をとりましたが、教師になろうと決断したのが15名だったというだけです。
でも、教員採用試験を受験しなかった学生たちも100%就職が内定していて、とても優秀な学生たちです。学士の修了に必要な単位に加え、教職課程に必要な約30単位も取らなければならないというものすごい学修を乗り越えてきたのですから、今後どんな職業に就いても活躍できる人材だと思います。

教員採用試験の一次試験で課されることの多い小論文試験。何度も繰り返し書く練習を積み重ねることで、どのようなテーマが出題されても対応できるようになるそう。一枚一枚の答案に目を通し、朱入れする作業はとても大変だと、渡部教授は笑顔で話してくれた。

――渡部教授は他大学でも教鞭を執られた経験がありますが、本学の教職課程の指導が他大学と違う点は何だと思われますか?

渡部:学生たちの強い意欲を4年間持続させる「計画的な指導」です。まず、国立大学の教育学部の学生と本学の学生の違いは、「スタート時点のモチベーション」にあると思います。そもそも全員が全員、最初から教師になろうと思って芸工大に入学しているのではありません。ですから、本学では1年生の時から、教育現場や教師の仕事の面白さ、社会における役割を伝えて、学生が強い意欲を4年間持続できる「計画的な指導」を行っています。

また、教職の科目では、一方通行の授業がありません。60名の授業でもグループワークで論議する時間があります。身近な社会の出来事を授業で扱い、常に考え、気付きを与えます。教員の間でも、日頃どんな素材を使ってどう授業を組み立てるかを話し合い、それを共有しています。授業、小論文指導、面接も指導方法を平準化しています。

――教職課程独自のFD活動 ですね

渡部:そうです。ゼミ制にもしていません。3人の教員が全学生の担当教員として、ローテーションで指導できるようにしています。
※ファカルティ・ディベロップメントの略。教員が授業内容・方法を改善し向上させるための組織的な取り組みのこと。

教職課程の指導にあたる3人。左から寒河江茂(さがえ・しげる)教授、渡部泰山教授、吉田卓哉(よしだ・たくや)准教授。教職課程の教員に一番求められるのは、学生の夢を後押ししたい、後進を育てたいという熱量の大きさだ。

――「本学の学生は一次試験を突破すれば、二次試験で逆転する」とお聞きしましたが、どういうことでしょうか?

渡部:例えば、今年、神奈川県の中学美術を受験した学生がいますが、その学生は一次試験の時は、合格者の9名中9位でした。しかし、二次試験では、3人の採用枠に入って合格しました。つまり、7つ順位を上げて逆転しているということになります(神奈川県は試験結果を順位とともに公表)。芸工大生は、ほとんどがこうした逆転勝利を勝ち取っています。

――なるほど。では二次試験を逆転勝利で突破できるための指導とは、どのようなものなのでしょう?

渡部:二次試験は、小論文、個人・集団面談、模擬授業、実技、集団討論が主流ですが、これに対して「教員全員」で指導にあたります。全ての教員がどの項目でも指導できることが強みなのだと思います。

でも一番は、地域をフィールドに学ぶ芸工大の教育方針が、ここで生きてくるのだと思います。二次試験では、総合力・人間力をプロが審査しますが、本学が各学科・コースで日々取り組んでいる教育環境が、学生たちに、自分の社会における立ち位置や役割を自覚させ、自己肯定感を醸成し、最終的な評価順位を上げていくのだと思います。

教職課程専用の学習室にて。撮影日当日、寒河江教授の指導を受けていた建築・環境デザイン学科の若月優弥(わかつき・ゆうや)さんは福島県の教員採用試験(高校/工業)に合格した。
壁面の本棚には、参考書や問題集などとともに、教員採用試験を受験した卒業生たちの残していった資料が多数ストックされている。
問題集とどう向き合ったのか、勉強の跡が残るノートなどもその一つ。これらは合格に必要な学習量を見える化してくれる。

――人間的な魅力が醸成されているのですね。逆に一次試験は、いわゆる筆記試験が多いかと思いますが、どのように指導されているのですか?

渡部:これはあまり話したくないのですが(笑)、合格するために必要な最小限の問題集と参考書を、何度も繰り返して徹底的に学ぶということをしています。

――個々の学生たちの「教員になる覚悟」のようなものも、指導されていますか?

渡部:そうですね。教員は人間の人生を左右するかもしれない職業なので、教員の覚悟という意味では、その「怖さ」を、すべての授業で伝えているつもりです。

――本学の教職課程指導のポリシーがいろいろありそうですね

渡部:「欠席するのがもったいない」と思わせる授業をしようと教員たちで言っています。そのため、非常勤講師も皆でスカウティングします。学生が教師の道を諦めるのは簡単ですが、そうさせないよう、意欲・関心を引き上げられる戦略的な指導力、ともに頑張れるコミュニティづくりを意識しています。

最後に、今年度の教員採用試験に合格した学生の声をお届けします。

日本画コースの源由華(みなもと・ゆか)さんは、埼玉県(高校/美術)、宮城県(中高/美術)、北海道(中学/美術)の採用試験にそれぞれ合格し、4月からは本学の大学院(美術教育領域)に進学します。最終的に源さんが勤務先に決めた埼玉県は、2年後の大学院修了を待って、採用する措置 をしてくれました。
※大学院在学や進学を理由に採用を辞退した者に対し、1年間または2年間「採用候補者名簿」への登載期間が延長される制度。

1年生の時は軽い気持ちで教職課程を受講していましたが、この4年間で、教職課程の先生方の体験談を教えていただいたり、現職の高校教員のみなさんの研究授業に参加させていただくうちに、先生たちが子どもたちに真摯に向き合う姿に人間的な魅力を感じるようになっていきました。また、「教員である前に、人としてどうあるべきか」を学べたように思います。
仲間たちとのグループワークや集団討論で、「地域・社会と自己」という広範囲な視点で学び合いを積み重ねられたことも、二次試験に自信を持って臨めたことにつながっていると思います。

 

今回は、難関といわれる「美術」の教員採用試験の芸工大の“現役”合格率にスポットをあてましたが、冒頭の今年度の山形県の高校美術教員合格者のように、卒業して何年か後に教員になる卒業生も増えています。
毎年、夏のある一日、卒業生の現役教員が全国から芸工大に集まってきます。教職課程の主催する「情報交換・交流会」に参加するためです。昨年からは、秋に採用試験を控えた4年生も参加し、卒業生から多くのことを吸収していました。後輩の大学生にアドバイスする卒業生はカッコいい教師でした。

(撮影:志鎌康平 取材:企画広報課)

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東北芸術工科大学 企画広報課
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