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2022年 パンデミックからの卒業

2020年初頭から猛威を振るった新型コロナウィルスの世界的なパンデミックは、たまたまこの時代に生きた若者たちを翻弄し続けました。本学でアート&デザインを学ぶ学生たちも例外ではありません。人と直接会うこと、旅に出ること、取材をしたり、学外で発表したり、仲間と集まるという、ごく当たり前の「大学生活」の、おおよそ全てに細かな制限を受けた学生たちは、前例のない学び方、制作方法、研究プロセスを探究しながらしなやかに乗り越え、ついに卒業を勝ち取りました。

2022年度の卒業・修了研究/制作展には、この困難な時代と葛藤した学生たちのそれぞれの工夫が溢れています。刻々と変わり続ける世界のパンデミック情勢に振り回された国家や大人たちの混乱を、まるで嘲笑うかのように、学生たちは時代の空気を敏感に感じ取り、まさにパンデミック禍だからこそ生み出せるアート&デザインを見事に見せてくれました。

今回の 卒業・修了研究/制作展 でも、例年通り「買える卒展」が行われ、作品販売ブースの設置や、作品データのQRコード掲示、映像による紹介が多用されました。動画コンテンツ時代の真っ只中に生きる学生たち。彼らにとってはあたりまえのテクノロジーを駆使し、軽やかにコミュニケーションの別解を示してくれる姿は、もう「新しい」卒展という型を超えて、新時代に旅立っていく若い表現者たちの逞しい背中そのものでした。

アート&デザインを、決して特殊な人間の特別な営みとは考えず、あらゆる社会の場面に有用な、重要なテクノロジーの一つであると提唱する本学は、今年も彼ら卒業生を様々な業界に輩出します。

本学設立の宣言にもあるとおり、科学技術と経済理論によって支配され、決して皆が幸せにはなれなかったこの時代を見返す時が来ています。芸術的創造と人類の良心によって科学技術を運用する「新しい世界観」の創造に、卒業生たちがいろいろな場所で挑戦してくれることを願っています。

彼らなら、きっと必ず、この世界の課題に応えてくれるでしょう。


東北芸術工科大学学長 中山ダイスケ