歴史遺産学科Department of Historic Heritage

太田峻平|塩竈市沿岸地域の景観変遷 〜高度経済成長期を中心とした歴史動態的研究〜
宮城県出身
田口洋美ゼミ

目次 研究目的/調査結果/考察

 筆者は、地元である宮城県塩竈市における都市化やまちづくりの課題を踏まえ、沿岸地域の様子を歴史的変容から明らかにしていくことが必要であると考えた。現在の研究では、塩竈市を対象とした昭和30年代以降の景観変遷に関する研究はなされていない。よって本研究では、塩竈市沿岸地域を対象とした景観変遷の記録。そして景観変化の要因を歴史動態的な立場から明らかにしていくことを目的とする。
 塩竈市の沿岸地域の景観は、生活形態と産業構造の動態的変化。加えて高度経済成長期の全国的な開発による都市化の影響によって変化してきた。さらに行政事業や社会構造の変化によって、視覚的な変化だけではなく、地域の都市構造に影響を与えていたことが明らかとなった。また、塩竈のどうくじ的な景観として考えられるのは、旧本塩釜駅を中心とした観光都市と港湾都市の両特性が混在した空間である。
 本調査を踏まえて、塩竈の普遍的な価値を事例として挙げてみたい。それは鹽竈神社境内(志波彦神社手前)からの塩竈湾の眺望である。調査事例として考えられるのは、地域の人々は常に港町として生きてきた意識があったこと。そして地域の歴史的な文脈と、塩竈湾への眺望の意識から、地域の普遍的な価値が読み取れるのではないかと推察している。本論では景観変遷の要因について議論し、生活環境が反映されていることを考察した。つまり、我々の日常生活の延長に景観が形成されていることが言えるだろう。だからこそ、景観の保全を行っていく中で、地域の歴史的な文脈から関わってきた港との関係。すなわち景観との関係性について議論していくことが重要である。塩竈市では現在、港の埋立と海上高架線の計画を検討しており、景観の変化は現在も進行している。こうした事業を進めていくのに対し筆者は、塩竈が持つ天然の良港と呼ばれる独特の地形と、その歴史的環境の中で人々が暮らし積み重ねてきた価値を育んでいくこと。それらを踏まえてまちづくりを進めていくことが極めて重要であるということを述べておきたい。さらに、未だ調査が行われていない地域の中にも、文化的景観として重要な価値を持つものが含まれている可能性がある。よって、引き続きこの分野での文化的景観に関する調査研究を行っていくことが今後の課題となる。

B04-1. 空中写真による比較分析の様子

B04-2. 定点撮影による比較分析の様子

B04-3. 鹽竈神社境内(志波彦神社手前)からの塩竈湾の眺望