菊地望|日立風流物の現状と課題
茨城県出身
田口洋美ゼミ
私の地元である茨城県日立市は、西は山、東は海に挟まれた海岸段丘上に広がっている。阿武隈高地の豊富な地下資源は日立市の近代産業を支え、地域の経済発展を飛躍させた。本論文で取り上げる日立風流物は、江戸時代の頃からその地域の人々と苦楽をともにし愛されてきた。有名な祭りの多くは旧領主や有力な町人が携わるものとされたが、日立風流物が生まれた地域は、城下町でも宿場でもない、貧しい農村であった。村の人々の手で作られた人形山車の祭りを、約400年も伝承し、華々しく発展してきた。日立風流物は現在もその華やかで力強い巨体とユーモラスな人形仕掛けで、人々を楽しませている。しかし、令和2(2020)年より世界的に流行した新型コロナウイルス(COVID-19)のあおりを受け、全国的に様々な祭りやイベントが開催中止となった。日立風流物が毎年お披露目される、日立さくらまつりも例外ではない。令和元(2019)年に行われた神峰神社大祭礼を最後に、日立風流物に関連する祭りが3年連続で中止となった。祭り再開の目途は今のところ立っていないという。
私が日立風流物を取り上げたのは、地元の文化財であり、長い歴史の中で日立市民に親しまれているためである。私が日立市で暮らしていた頃は、地元の祭事やイベントに赴く機会が少なく、また日立風流物を管理する町から離れた場所にいたため、当時は日立風流物への関心が薄かった。進学を機に山形県に移ってから、地元への関心が湧いた。加えて、日立風流物は、新型コロナウイルスの感染拡大にともない、令和元(2019)年5月に開催された大祭礼の後は、一度も披露できずにいるという。慢性的な後継者問題に加え、相次ぐ祭りの中止により実践的な技術継承が行えない状況にある。これに危機感を覚えた。本論文では、日立風流物の歴史をまとめ、その現状と課題を分析する。この論文を機会に、日立風流物の周知に貢献したいと考えている。