森の発生/森の腐敗

東北芸術工科大学で伝統的な漆の技法を習得した古川紗帆は、山形県小国町の伝統的な猟師集団・マタギの協力を得て、朝日連峰での狩りや獲物の解体、またそれに伴う様々な儀礼の場に立ち会い、彼らから譲り受けた熊、鹿、狸、兎などの毛皮を漆で固めて作品化している。新作『The rifle of the deer』は、狩りで実際に使用された猟銃を乾漆で複製し、鹿の毛皮と組み合わせたものだ。漆掻きや狩猟など、山の民の古くからの生業が、エレガントとグロテスクを同居させて造形化されている。

昨年、同大日本画大学院を修了した土ヶ端大介は、黒いストッキングを裂いたりのばしたりすることで動植物を描いてきた。しかし、動物たちのフォルムそのものは便宜的なもので、土ヶ端の興味は、生物が死んで腐敗し、微生物に分解されていく過程の実況中継のような制作行為そのものにある。そして、都市の片隅で人知れず朽ちているはずの、カラスや猫の遺骸に明るい路上で唐突に出会うような、直接的なマテリアルで観る者を待ち構える。

同じく山形で日本画を学んだ中田朝乃のドローイングでは、植物たちが人の「顔」をプランターにして繁茂する。杉植林の後遺症により帰るべき里山を荒廃させ、肥大化する都市の隙間に詰め込まれるようにして暮らしている、私たち一人ひとりの肖像にも見えてくる。ここに牧歌的な自然観はなく、都市生活によってねじ曲げられた変異体としての「植物(人間)」たちが佇む。

2008年度のI'm here.シリーズ最終回となる本展『森の発生|森の腐敗』は、工芸や日本画の伝統的なスキルが、山形の風土と混ざり合いながら生成させた、アートにおける新しい生態系を陳列する。東京と山形、自然と人工、これらの差異を縫合するかのように彼らから提出される「森」のイメージは、現代における生と死のフォークロアを静かに物語っていくだろう。

宮本武典[東北芸術工科大学主任学芸員]


終わりと始まりの者た

“終わりと始まりの者たち”
(熊の毛皮、鹿の毛皮、漆、鉄、写真、他/2007—2008年/Photo by Yuji Abe)
 古川紗帆|Saho Furukawa

Human Portrai

“Human Portrait”
(紙本着彩/2008年/Photo by Yuji Abe)
中田朝乃|Asano Nakada

creatur

“creature”
(パネルに和紙、ストッキング、他/2009年/Photo by Yuji Abe)
土ヶ端大介|Daisuke Tsuchigahata

●Events

  • ◯レセプション&スペシャルトーク
  • 講師=赤坂憲雄[民俗学者]×岡村桂三郎[日本画家]
  • 日時= 2009年1月24日[土]18:00−20:00
  • 会場=表参道画廊
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  • 岡村桂三郎/中田朝乃
  • 右:岡村桂三郎/中央:中田朝乃
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  • 古川紗帆/赤坂憲雄
  • 中央:古川紗帆/左:赤坂憲雄
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