先生とつくる、デザイン選手権大会

新山 浩 先生

新山 浩 先生|神戸市立科学技術高等学校 都市工学科

取り組みに充てている時間(授業、部活動など)

課題研究、美術部の活動として。それ以外に文化祭でその年のプレゼンを全校生徒に発表しますので、それを観て「私もやってみたい」という生徒を主に夏休みに指導しています。

対象となる生徒数

10名以下です。たくさんのアイデアが出たときには(稀ですが)、メンバー内の組み合わせを変えてチーム編成をします。

デザセンに取り組んでいる理由、目的

半年以上もの時間をかけて創り上げていく授業と、それが評価される場は、通常の学校プログラムでは実現し難い体験です。一般に高校生対象コンクールは作品の提出を持って終了です。成果は表彰状や冊子という形で目にすることはできますが、それはどこかバーチャルな感覚です。デザセンでは、全国から集った生徒たちが同じ時間、同じ舞台でリハーサルをすることで、決勝大会を共有します。本番では予想もできないドキッとするような審査員からの質疑応答に答えます。そんなライブ感は得難い体験です。数枚のA4レポートから始まる『デザセンという物語』を生徒たちに体験させてあげたいという気持ちで取り組んでいます。

プレゼンで一番ドキドキしているのは、実は観客にまぎれて座っている引率教員だったりします。私は他校の発表時には舞台上の生徒より引率先生を見ることが密かな楽しみです。その表情や行動から、これまでの先生と生徒の関わりの深さが感じ取れるような気がするからです。

もう一つの理由。実は大会の初期にデザセンの生みの親、長澤忠徳先生(現:武蔵野美術大学教授)の白熱教室(生徒でなく教員に対しての!)で心打たれたことが現在も取り組んでいる大きな動機です。英国留学から帰られた直後の長澤先生による「こんなデザイン教育をしなきゃ!」という深夜にまで及ぶ講義(居酒屋と深夜のミスドで)に心酔したのが現在、いわゆる常連校と呼ばれる先生たちです。「なんだか熱っぽくデザインを語るって楽しいなぁ。こんな気持ちに生徒をしなきゃなぁ」と感じたわけです。長澤チルドレンと呼んでください。

取り組みを通しての達成目標

「常に新しいアイデアで世の中の既存フレームを変更しようとする柔らか頭を持つ」
卒業後もそんな気持ちを持ち続け活躍する生徒たちを見ると僅かでも力になれたかなと思います。そんな気持ちは半年をかけてじっくりと生徒の心に熟成されるものかも知れません。デザセンを通しての指導が充実したものであれば大会に入選できるかどうかなんていうのはあまり意味がないことなのかもしれません。

取り組みを通しての達成目標

実際の指導方法

意識付け(導入部分)

生徒たちは先輩の活躍を学校行事や校内掲示で見ているため、改めて「デザセンっていうのはね」という説明を近年してないように思います。デザセン出場者はそれぞれに素晴らしい進路を獲得していますので、生徒間には《デザセンに出場すると"変わる"(何が!?)》という都市伝説もあるようです。また「この生徒をデザセンに」なんていう担任の先生の推薦があったりもします。驚いたことに最近では「デザセンに出たくって」という中学生が入学してくるのです。これは当初、予期していなかったことです。長く続けるって大切なことなのですね。

チームの編成方法

主に課題研究を選択した生徒の中で編成します。その年のプレゼンを1ヶ月後の文化祭で再演するので全校生徒も何となく知っている大会ですから、それを観た生徒が「やってみたいんですけど」と訪ねてくることもあります。躊躇する生徒は必ずと言っていいほどこう言います。「私、才能が無いんですけど」「私、センスがなくて、絵も下手くそなんですけど」決まって私はこう言います。「過去、決勝大会で優勝した先輩でさえ、才能があって、センスのいい人なんて一人もいなかったよ」と。「やってみたいという気持ちがあればOK。」実は1次審査通過までは3名でなく1名で作業を進めます。実際に3名が協力し合うのは2次審査通過後です。2名がアイデアにプレゼンのための枝葉を付けていくわけです。

問題、課題の発見(テーマの設定)

最初から「何が問題か」を導入にすることはありません。その手法の問題点は高校生のアイデア・知識の多くはステレオタイプで、そこから導かれる解決方法もどこか既視感のあるものに落ち着いてしまうから(と思うから)です。でもそれを否定はしませんし、おそらくデザセンの理想もそうであろうし、そのような手法(ちゃんと市場調査する)が本来のデザインですし、評価も高いでしょう(おそらくですけど)。

デザセンの指導を通して、私が高校生にこんなデザイン教育をしたいと思っていることは『イメージ生産の技術』『Edit Ability(イメージ・アイデアの編集能力)』を体験させることです。そういう主旨で最初から課題を設定することもしばしばです。  
例えば、『A』の画像を見せた上で『B』という社会問題をくっつけて何か面白いこと提案してみてください!なんていう具合に投げかけたりします。もちろんある種の正解が私の頭にあるわけでありません。このパターンがうまくいったときには、プレゼンを観て「ほー、あれが、こんなになったかぁ」と感慨深いものです。

基本的には「箇条書きでアイデア10個考えておいで」以降「面白くない」「これもうちょっと発展させてみて」「もし、これがこうなったらどう思う?」というような対話形式で進みます。リアルタイムで進行中のプランをご紹介しましょう。デザセン用にアイデア帳を渡している1年生がこんなアイデアを持ってきました(もちろんデザセン2012に向けて←スゴイでしょう)。

初公開!デザセン用のアイデア帳。

初公開!デザセン用のアイデア帳。

「ペットボトルがコロコロして鞄に納まりが悪いので、
鞄にぴったりの形にすればどうでしょう。鞄が型くずれもしませんし。」

という具合に、問題と結論を同時に持ってきます。そこで私は「自販機の問題」「弁当箱も同様では」「その平べったい形だからこそできる弁当レシピとは」という問い返しをしたわけです(生徒から来たボールをすぐに取って、すぐにピュっと送球する巧みなショートストップの感じ。よく分からない例えですね)。この過程こそが面白い所です。じっくり時間をかけ、腰を据えてというより、初期段階では朝のホームルームが始まる前に生徒のアイデアノートを受け取り、帰りのホームルームにはコメントを書いて返すといった作業の繰り返しです。

新聞記事や雑誌、写真、アートなどを見せることで発想の手がかりとすることがあります。現代美術をよく例に挙げることが「神戸のアイデアは大人びてコンセプチュアル」と言われる所以かもしれません。

『compare colors』 デザセン2005 第12回大会 優勝

『compare colors』 デザセン2005 第12回大会 優勝

『Made in ....』 デザセン2007 第14回大会 優勝

『Made in ....』 デザセン2007 第14回大会 優勝

宮島達男先生(デザセンの開催委員会会長)の作品「Mega Death」を見せて、生徒が何をどう感じるか聞いてみる。それについて話をする(何を感じるか、何を表現していると思うか、なぜこのように表現するのか、この手法で表現すれば効果的なものは他にないか、あるいはコノ問題を表現するのに他の方法は無いか)。このような会話を交わすうち、面白いアイデアが浮かんでくることがあります。このような授業は「デザイン・美術」なのか「歴史・倫理・哲学・現代社会」なのか?デザセンの指導はそんな風に教科科目を縦横無尽に横断しています。

Tatsuo Miyajima『Mega Death』at CAMK (2005) photo by Masaki Miyai

Tatsuo Miyajima『Mega Death』
at CAMK (2005) photo by Masaki Miyai

アイデアの拡散と収束

デザセンの指導=アイデアの拡散と収束の繰り返しといっても過言ではありません(拡散どころか多くは雲散霧消ですけど)。このやり取りが指導教員としての醍醐味でもあります。生徒が持ってきたアイデアを、役者(私)がパァーっと紙の蜘蛛の巣を拡散させるようなイメージです。締め切りが近付くと舞台上に散らかった紙をあわててかき集めるのですが。生徒たちの「知らなさ加減」に愕然とすることもありますが、ここは丁寧に教えているつもりです。結果、社会の諸問題について教科科目では知り得なかった知識や体験をすることも大切なことだと考えています。デザセンの評価基準と合致していなかったとしてもデザセンという場を利用して、ある種の目標が達成できればいいのです。生徒のアイデアにいかに助言できるか、見つけたネタの背景や関連知識や調べるべき資料についてのアドバイスが主な作業です。「こんなのどう?」と彼らの想像を超えて突拍子もないことを言ってしまうこともあります。生徒にとって、そのような異物と対峙することも必要な刺激ではないかと思うのです。

手がかりさえ困難な生徒には既成のアイデアを示した上で、そのバリエーションの展開を指示します。やがてオリジナルとはほど遠いアイデアにたどり着きます。
「学ぶ」とは「真似ぶ」ことです。

取り組みによって得られるもの

さすが長期にわたる取り組みに耐え抜いた生徒。プレゼン能力の向上(就職進学試験の面接においてしゃべれるということ)しているように思いますし、実際にそれぞれがすばらしい進路を実現しています。デザセンスピリッツを持って卒業してくれれば尚、嬉しいことです。

今後の課題、豊富など

『生徒がすべて考え勝手にやったので先生は付き添いだけ』という理想は少なくとも本校生徒には難しい指導方法です。生徒の興味•関心を引き長期に及ぶ作業を持続させ尚且つ、その過程で色んなことを感じさせる。面白い!と思わせる。生徒の目の向かないところに目を向けさせ見逃していることを教える。デザセンという形式を借りてデザイン教育の理想を実践しようとしているのかもしれません。

神戸市立科学技術高等学校

神戸市立科学技術高等学校

2004年に神戸市立神戸工業高等学校と神戸市立御影工業高等学校が統合して開校。新山先生ご担当の都市工学科のほかに機械工学科、電気情報工学科、科学工学科があります。
〒651-0072 兵庫県神戸市中央区脇浜町1-4-70

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