社会における彫刻の意義/卒業生大展覧会「脈動する彫刻」レポート

レポート 2019.10.28|

現在、本館7階ギャラリー THE TOP、1階 THE WALL、水上能舞台などを会場に、美術科・彫刻コースの27年間の教育成果発表・卒業生大展覧会「脈動する彫刻」が開催されています。彫刻コース卒業生による作品展は、17年ぶり2度目の開催となります。

彫刻コースは、本学の開学時から変わらず続いている芸術学部における根源的な表現領域です。開学からこれまでの27年間に巣立った卒業生はおよそ330名で、驚くことに、その5人に1人が彫刻家として活動を続けています。
この作品展を企画した、彫刻コース長の吉賀伸(よしか・しん)准教授に、展覧会に対する思いを聞きました。

卒業生の5人に1人が作家として活動

――1期生も出品している今回の企画展ですが、全国各地の卒業生と連絡を取ることだけでも大変な作業だったのでは?

吉賀:もともと少人数のコースなので、仲間同士の固い結束があります。それぞれの学年で同期会が開かれており、我々教員とのネットワークも脈々と続いていました。昨年12月、各学年の同期会が集結する「大同窓会」が東京で開かれ、そこで横と縦の軸が繋がりました。その会場で、今回の企画案を発表したのです。

美術科・彫刻コース長の吉賀准教授

――この展示を企画した理由を教えてください

吉賀:彫刻コースで学ぶことの魅力や、卒業生がどんな活動をしているのかは、学内でも実はあまり知られていないのではないかと思います。それを塊で見せたいと思いました。これまでの卒業生全体の「芸工大の彫刻」という大きな塊で、です。

「花賛歌」 2019 杉、松、ふじつる/丹野智子(2011年大学院修了)
華道草月流の師範でもある丹野さんは、70歳を過ぎてから本学大学院に入学し、現在も彫刻と華道の融合による作品を制作している。

学内で展示をすることにも理由があります。在学生に、先輩がどんなことを考えて創作活動を続けているのか、どんなキャリアを歩んでいるのかを見せて、刺激を受けてほしい、自身の大学卒業後のキャリアに生かしてほしいと思ったのです。今回出品している作者全員に「社会のなかで制作活動を続ける意義について自由に語ってください」という問いかけをしています。その答えは作品紹介のキャプションパネルに書かれていますので、ぜひ読んでみてください。

「虚実皮膜 神饌 面」 2017 樟/松本 涼(1996年卒業)
松本さんは、技巧を駆使し、驚くほど薄い彫刻作品を生み出すことで知られている。
「蝕」 2019 ミクストメディア/田中晋太郎(1999年大学院修了)
田中さんは、千葉県内の高校で美術の教鞭を執る傍ら制作活動を続けている。鉄を素材に用いた構築的な作品が多いが、今回は素材も表現も異なる意欲作だ。

吉賀:もう一つ、7階ギャラリーの展示で、在学生に伝えたいことがあります。彫刻コースでの学びを、さまざまな業種・職種で生かしている卒業生をパネルで紹介しているコーナーなのですが、ここでも一人ひとりに「芸工大で彫刻を学んだことが今どのように生きていると思いますか?」という質問を投げかけました。彫刻コースのみならず、全学生、そして大学で芸術を学ぶかどうかを迷っている高校生にも見てもらいたい。いろんな迷いが吹っ切れるはずです。

仕事も住む場所も多種多様な彫刻コース卒業生。彼ら一人ひとりの生き方・考え方から、在学生は大きな示唆が得られるはずだ。

彫刻思考

――芸工大の彫刻の特色について教えてください。

吉賀:彫刻と社会を結ぶ「彫刻思考」という演習があります。彫刻作品制作の演習は、まず展示会場にメジャーを持っていって、ドアの間口を計測することから始まります。作品が会場に入るのか(笑)、作品が置かれる空間のイメージから考えます。そして、素材の質感を踏まえて作品のコンセプトを考え、コンセプトをドローイングにより平面で可視化します。

「Element」 2013 鉄、ニッケル/高田純嗣(2007年 大学院修了)
高田さんは、廃校を活用したアートスタジオ「アプリュス」を埼玉県川口市で運営、アーティスト支援を行っている。

石彫であれば石を削り始めたら後戻りできません。完成時の姿をしっかり見据えてプランニングします。そして作品は展示され、社会に開かれるのです。「作品を仕上げるためのコンセプトづくりとプランニング=彫刻思考」で、社会のなかでの彫刻の意義を考えていくのが、芸工大・彫刻コースの特色です。

このお話の内容が、ある卒業生の作品キャプションに書かれた言葉と結び付きました。1999年卒業の髙谷廉(たかや・れん)さんの「芸工大で彫刻を学んだことが、今どのように生きていると思いますか?」に対する答えです。

髙谷さんの職業は、アートディレクター、グラフィックデザイナーです。世界最大級の広告・コミュニケーションのアワードである「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」、カンヌ国際広告祭、クリオ賞と並ぶ「三大広告賞」である「ONE SHOW」で受賞するなど、海外でも高く評価されています。

髙谷さんは次のように答えてくれています。
「彫刻は立体です。現在は“情報を立体に捉える”という視点で彫刻を学んだことが生かされています。デザインはいくつかのフェーズに分かれて進行し、事象を客観的に見ることが求められます。そのため、ビジュアライズする前のインサイト(調査、観察、情報収集、問題発見、考察、整理など)がとても重要です。
このフェーズではクライアントのオーダー(課題)に対し、さまざまな情報を多角的に捉え検証していく作業をします。この“情報を多角的に捉え検証していく作業”こそが、彫刻で培った“情報を立体的に捉える”ということに共通しているのではないかと考えています」

「Number」 2016 ファインペーパー/髙谷 廉(1999年卒業)
2016年、ファインペーパーの開発・販売で知られる竹尾の青山見本帖で開催した展示のために制作したもの。
http://www.takeo.co.jp/

この作品展は、個々の作品と作者である卒業生のメッセージとが連動し、タイトルである「脈動」が上手く表現されています。またそれは、全国各地の芸工大・彫刻コース卒業生が、力強く脈打つように活躍している様子と言い換えられるかもしれません。

吉賀准教授には、作品展で特にうれしかったエピソードが。中学校の教員として働くある卒業生。仕事が忙しく、制作から遠ざかっていましたが、今回の作品展での仲間の活動に刺激され、再び作品を作り始めたのだそう。この作品展は、そうした新たな脈動も生み出しています。

出品に係る搬出入の費用や交通費は、卒業年度を問わず、出品者である卒業生一人ひとりが自己負担したそう。作品展のいたるところから、卒業生同士の繋がりの深さや、彫刻コースへの「愛」を感じる作品展でした。
(取材:企画広報課・五十嵐)

彫刻コース27年間の教育成果発表・卒業生大展覧会
「脈動する彫刻」

会期:2019年10月21日(月)~11月9日(土) ※休館日:10月22日(火)・27日(日)・11月3日(日)
時間:9:00~19:00 ※土曜日のみ17:00まで
会場:東北芸術工科大学 本館7Fギャラリー  THE TOP(山形県山形市上桜田3-4-5)

主催:東北芸術工科大学 美術科・彫刻コース
助成:東北芸術工科大学校友会、東北芸術工科大学卒業生後援会、2019年度アート・サポート事業(公財)山形県生涯学習文化財団

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東北芸術工科大学 広報担当
東北芸術工科大学 広報担当

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