新たな布陣で2020年度をスタート「コミュニティデザイン学科」

レポート 2020.05.12|

東北芸工大では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、6月末までの授業を、学生が登校しなくても在宅で受講できる「リモート授業化」することとしました。2020年の春をこのような混乱の中で迎えるとは、誰も想像していなかったでしょう。特に新入生は、同級生や教員と直接会うことなく大学生活が始まります。

今年、コミュニティデザイン学科は教員体制が大きく変わり、3人の教員が新たに就任しました。教員にも戸惑いはあります。入学式もガイダンスもなかった今季、新任教員は画面を介して初めて学生と対面するのです。学生も教員のことを詳しくは知りません。

そこで、新しい3人の教員が、どんなキャリアを持っていて、どんな思いで学生に向き合い、どういった活動を山形・東北で展開するのかをそれぞれ寄稿してもらいました。

コミュニティデザイン学科には、1年半の間、特定の地域に通い、その土地の方々とチームで課題解決の本質を学ぶ「スタジオ」という授業があります。つまり、この記事を読んでいただいている皆さんのまちが、今回紹介する教員のスタジオのフィールドになる可能性もあるのです。

コミュニティデザイン学科は、形ではなく関係性で地域をデザインするというあり方が実学として実現されているとして、学科そのものが「2018年グッドデザイン賞」を受賞しています。

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檀上祐樹(だんじょう・ゆうき)准教授

――これまでどんな仕事をされてきましたか

私のコミュニティデザインの活動は、当初は行政計画づくりや住民の暮らし方の方針づくりなどでした。一方、大学で都市計画等の研究活動をしていく中で、農業などの地域の産業や伝統工芸/デザインなど、地域の文化的な資源の価値を、私たち消費者が再認識・再解釈することも今、必要になってきているんじゃないかと思い、農業関係者やデザイナー、作家の方たちにもご協力いただき、地域の文化的な資産に対して、今の生活がどのように向き合えるかを住民が話し合う場をデザインしています。

地域ブランディングや公共空間づくり、地域資源の活用方法づくりなどをさせていただいていますが、「住民が参画したまちづくりを行う」―ことの目的は変わらず、お仕事させていただいています。

――教育における抱負、コミュニティデザイン学科の学生へのメッセージを

地域に足を運んで美味しいものを食べたり、人と話をして、楽しい・悲しい思いをすることがコミュニティデザインの最初の一歩だと思っています。感情の変化は好奇心を呼び起こす薬ですので、まずは学生といろんな地域に行って、いろんなものに触れるところから始めたいと思っています。

――これからコミュニティデザイン学科の教員として、山形・東北の地域に関わっていくことになります。どんな地域を目指すのかビジョンを教えてください

いろんな技術が発達して、気候や地域性に関係なく、都会でも過疎地域でも同じような生活が送れるようなツールが登場してきています。その中でも東北は、東北の気候の中での生活の知恵が豊富にありますので、それを大切にできるような地域を目指していきたいと思います。東北が東北である、山形が山形であることを大切にできる地域を目指したいです。

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西 直人(にし・なおと)准教授

――これまでどんな仕事をされてきましたか

20代は主に北海道で暮らし、起業した30代は東京を拠点に。そして現在、40代は暮らし・仕事ともに山形・庄内と東京のダブルローカル(デュアルライフ)を楽しんでいます。

――教育における抱負、コミュニティデザイン学科の学生へのメッセージを

一方通行の教える学びではなく、「ともに学ぶ」という双方向・全方向の学びを大事にしています。
僕の好きな言葉は、哲学者・鷲田清一さんの「コミュニケーションとは対話が終わったときに自分が変わる覚悟を持っている、そういう覚悟のもとで行われるもののことである」。学生のみなさんとたくさん対話して、学生のみなさんが自ら素敵に“変わる(成長する)”ための刺激役・お手伝い役をめいっぱい頑張ります!そして僕自身もまだまだ“変わる”ことで成長したいと思っています。共に脳に汗をかきたいです。

――これからコミュニティデザイン学科の教員として、山形・東北の地域に関わっていくことになります。どんな地域を目指すのかビジョンを教えてください

自分の会社を起業する時に掲げた理念は「人間だけでなく、地球上すべての“命あるもの”に配慮し、一人一人が『Peaceful Life』を実践できる持続可能な社会づくりに貢献する」。この考え方は、地域におじゃまし、コミュニティデザインで関わらせてもらうときも共通だと思っています。加えて、その地域の当たり前の風景の中にあふれる、先人から受け継がれてきた価値を再認識し、守り、、生かし、発展させ、受け継ぐこと。さらに、そこに暮らす人たちが「このまちで暮らせてよかったなぁ」と心から実感できること。そんなコミュニティづくりの裏方・強力なサポーター役になりたい(もちろん主役はそこで暮らしていくみなさん)。

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牛木力(うしき・ちから)専任講師

――これまでどんな仕事をされてきましたか

島根県立津和野高等学校で、高校魅力化コーディネーターという仕事を4年間務め、総合的な学習の設計、高校生のプロジェクトのサポートなどを担っていました。アメリカでも、TOMODACHI ソフトバンクリーダーシッププログラム(東北の太平洋岸3県の高校生が対象)というプロジェクト型のプログラムづくりに関わっていたので、かれこれ8年ほど、教員ではない立場から、高校生の教育に携わってきたことになります。

――教育における抱負、コミュニティデザイン学科の学生へのメッセージを

この学科は、小中高大を通して今、全国で実践される「探究的な学び」と大変親和性が高い。この学科で蓄積されたノウハウが、日本の教育のベースになる可能性もあると思います。少なくとも僕はそれを自分の「探究のテーマ」としてここに来ています。学生にも、自分たちがRight Place(一番良い場所)にいることを実感してもらいたいですし、進路情報が溢れる中で、この大学・学科を探り当てた嗅覚にまず天才!と言ってあげたいです。

どんな手段であっても「人の只中で学ぶこと」「人と人とをつなぐこと」「人との関わりの中で解決策を見いだすこと」にこだわり続ければ、この学科の価値は消えないし、こんな時代だからこそ輝きを増すと思っています。

――これからコミュニティデザイン学科の教員として、山形・東北の地域に関わっていくことになります。どんな地域を目指すのかビジョンを教えてください

東北は、今の僕を形作ってくれた場所です。仲間がたくさんいますし、「帰って来た」という感覚が強いです。ただ、山形というキーワードでビジョンを語るには、僕はまだ山形に浸る時間が足りないと思っています。それでも、スタジオを通して関わらせていただいている新庄市にあった雪害研究所からインスピレーションをもらっています。戦前に、誰もが当たり前に耐え忍ばなくてはいけないものだと思っていた雪というものを社会課題と定義し、きちんと数字を与えて議論していった。自然の猛威をどう封じ込めるかではなく、どうやって少しでも豊かにそれと共存していくかを、社会保障の観点だけでなく、空間や場づくり、民芸の知見も盛り込みながら探究したシンクタンクです。この場所が与えてくれる社会モデル、生活のデザインといった視点や、「愛」「芸術の本当の目的」「縄文」といった芸工大が発するメッセージを手掛かりに、山形からでしか導き出せない教育や社会のあり方を探っていきたいです。

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そして4月28日。もともとこの日は、Zoomによるコミュニティデザイン学科1年生対象のガイダンスが行われる予定でしたが、学科教員の「高校生から大学生になる気持ちの区切りをつけてあげたい」との思いから、急きょZoomによる「学科入学式」が行われました。

紅白幕の背景画像を用意して入学式を演出。根岸理事長や中山学長がそれぞれリアルタイムで式辞を述べた。

新1年生の多くが、高校の卒業式、入学式を経験できていません。家にいて単調な生活を送らざるを得ない日々が続いています。まもなく開始する前期授業を前に、学生たちのモヤモヤした気持ちを少しでも解消してあげたい。普段、人の関係性や気持ちなど、目には見えないものをデザインしている、コミュニティデザイン学科の教員ならではの企画なのでした。

コミュニティデザイン学科は、ご紹介した3名を含む新たな布陣で2020年度をスタートします。例年とはいろいろと状況が異なりますが、コミュニティデザインを学ぶ意義や面白さを、今回の入学式同様、アイデアに富んださまざまな方法で伝えていきます。
(取材:企画広報課)

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東北芸術工科大学 広報担当
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