世界遺産・平等院へ模刻像を奉納。稀有な経験から学んだこと/大学院保存修復領域2年 門田真実

レポート 2021.05.17|

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――2021年の3月に、平等院に模刻像を奉納されてきたそうですね

はい。制作プロセスや研究概要などの報告と奉納を3月17日にさせていただきました。卒業研究で模刻を手掛けてから1年以上経っていますが、今回の奉納でやっと卒業研究を終えられたような気持ちです。

今回はただの模刻ではなく、「文化財の継承に携わる人に仏を刻むという覚悟で挑み学んで欲しい」というご住職の神居文彰(かみい・もんしょう)様のお考えから、彫り上げた仏像を奉納というかたちで覚悟を示すことを条件に、ご許可を頂きました。

仏像が作られた当時の模刻技術や古色付け(経年したような風合いを出すために漆で着色をする保存修復の技術)も学ばせていただきました。この模刻像を敷地内の総合博物館「凰翔館」に保管してくださるとも伺っていてとてもありがたいです。

平等院の春季彼岸会の日に、模刻像を持参。
奉納当日の様子。写真左から、平等院のご住職 神居文彰(かみい・もんしょう)様、指導教員の柿田喜則(かきた・よしのり)文化財保存修復学科教授、門田さん。

――どのような理由から卒業研究で仏像を彫ろうと思ったのですか?

この仏像が制作された平安後期の彫刻技法を技術的な側面から把握したかったからです。中学の美術の時間に古典美術に興味をもって、「仏像のそばにいられる仕事をしたい」と思ったことがきっかけでこの大学を選んだのですが、文化財の保存修復には、修復の知識はもちろん、造形力も必要だということを知って、仏像を自分の手で作ったことがないということに順番的な矛盾を感じたと言うか、まず彫ってみるべきだと考えました。

そして、4年生の卒業制作時に「何を彫りたいか」を考えた時、平等院鳳凰堂のご本尊の周りを囲む52体の「木造雲中供養菩薩」を彫りたいと思いました。仏像と言えば一般的にどっしりとしたイメージがあると思いますが、他の仏像と違って浮遊感があって素敵だなと思ったんです。

門田さんが模刻した「木造雲中供養菩薩像」。

――木を削る作業は失敗が許されない緊張感のある作業だったと想像します

3年生の授業で保存修復士としての造形力を学ぶ木彫の授業があったり、スケッチやデッサンはしていたのですが、これ程の立体物を作るのは初めてで、粘土のように付けたり削ったりできない作業だったので進みが悪い時もありました。

でも文化財保存修復研究センターの研究員の方に彫刻刀の使い方を教えていただきながら、4年生の7月から半年をかけて彫ったのですが、制作しているうちに手先が徐々に慣れ、仏像の形が見えてくるについてれ形と形のつなげ方が分かりやすくもなり、完成させることができました。

東京藝術大学文化財保存修復彫刻研究室所蔵「木造雲中供養菩薩像」のレプリカを傍に置き、模刻する卒業研究時の様子。

――今回の経験をどうとらえていますか?

うれしいという感情よりもむしろ、私が生きている間は自分が行った方法で良かったのかをおフロに入った時などにふと思い出して反省しそうです(笑)。でもだからこそ、自分が行ったことを絶対に正しいとは思わず、いつも最善の方法を考えていきたいと思っています。

文化財保存修復研究センターを訪ねた時の様子。奉納直前の仏像を前に「仏像の胸の張りや肌の質感の滑らかさが気に入っています」と門田さん。

――現在は、どんな研究・プロジェクトを行っているのですか?

「龍澤山 善寳寺」(山形県鶴岡市)にある五百羅漢の修復を行うプロジェクトに関わっています。このお寺の五百羅漢像は江戸時代の終わりごろに作られたもので、その時代の仏像はあまり研究されていないんです。

模刻経験後は、仏像がどのようにして彫られたのかという制作者側の視点で眺めるようになったので、このプロジェクトでも仏像の構造(造像技法)研究として模刻をさせていただいています。

「善寶寺(羅漢堂)」(山形県鶴岡市下川字関根100)「善寳寺五百羅漢修復プロジェクト」PVは、こちらからご覧ください。

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東北芸術工科大学 広報担当
東北芸術工科大学 広報担当

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