今さら聞けない! 世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」ってなんだ?

インタビュー 2020.12.18|

はじめまして。企画構想学科2年の大室日菜(おおむろ・ひな)と申します。
この度ひょんなことから、ライターとして記事を書かせていただくことになりました。
どうぞよろしくお願いします。

さて、突然ですが、みなさんは「日本の世界遺産」と聞いていくつの場所が思い浮かびますか?

大阪府の「百舌鳥・古市古墳群」、山梨・静岡県の「富士山」など…近年、日本国内の世界遺産は急激に増えており、全てを思い出すことは難しいかもしれません。

そして、現在東北では、秋田・青森県の「白神山地」と岩手県の「平泉」の二つが世界遺産として認定されていますよね! 手付かずの大自然を味わったり…歴史の登場人物に思いを馳せたり。ぜひ一度は足を運んでみたいものです。

そんな中、東北で新たに世界遺産への登録を目指しているスポットがあるとの噂を聞きつけました。
その名も「北海道・北東北の縄文遺跡群」! 北海道・青森・岩手・秋田の4道県にある縄文時代の遺跡、とのことなんですが…

同じ東北地方に住んでいながら、「そんな活動知らなかった」「縄文って聞いても、社会の授業で教わった程度のことしか思い出せない…」なんて人も多いのではないでしょうか。

そこで! そもそも北海道・北東北の縄文遺跡群って何なのか?一体何がすごいのか?そんな疑問を解決するため、専門家にインタビューを行いました!

お話を伺ったのは、考古学・骨考古学の研究者で、東北芸術工科大学・歴史遺産学科の青野友哉(あおの・ともや)先生。北海道の遺跡で発掘された遺物(いぶつ)を洗浄中の学生たちに囲まれながら、記念すべき第1回目のインタビュー、スタートです!

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北海道・北東北の縄文遺跡群には、世界でも稀な特徴がある!

青野先生、本日はよろしくお願いいたします。

青野友哉(あおの・ともや)東北芸術工科大学・歴史遺産学科准教授/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」

よろしくお願いします。

青野友哉(あおの・ともや)東北芸術工科大学・歴史遺産学科准教授/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」

青野友哉 (あおの・ともや)

東北芸術工科大学 歴史遺産学科 准教授

1972年、北海道小樽市生まれ。明治大学文学部史学地理学科考古学専攻卒業。北海道大学大学院文学研究科博士後期課程修了。伊達市噴火湾文化研究所・学芸員、室蘭工業大学大学院・非常勤講師、洞爺湖有珠山ジオパーク推進協議会・学識顧問を歴任。2019年4月より現職。

早速ですが、北海道・北東北の縄文遺跡群には、どんな特徴があるのでしょうか?

青野友哉(あおの・ともや)東北芸術工科大学・歴史遺産学科准教授/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」

はい。北海道・北東北の縄文遺跡群の最大の特徴は、私たちの祖先である縄文人が培った狩猟採集民の文化や思想がいっぱい詰まっているという点です。

ところで、縄文時代の次は弥生時代と習いましたよね? 縄文時代は、山でイノシシを捕ったり、海で魚を捕ったりといった狩猟採集文化、一方の弥生時代は米を作る農耕文化と、全く異なる文化です。

世界史の教科書には、農耕文化になってから一つの場所に留まって暮らす「定住」が始まったって書いてある。でも、縄文時代は狩猟採集文化でありながら、人々はすでに定住していたんです。これが世界的にとても珍しいんです。

どういった点が珍しいのでしょうか?

青野友哉(あおの・ともや)東北芸術工科大学・歴史遺産学科准教授/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」

定住する・しないは文化的に大きな意味を持ちます。縄文時代より前の旧石器時代では、一箇所にとどまらず、狩りをしながら移動生活をしていた時代でした。もちろんその中で、生きていくための知恵が生まれ、子孫に伝えたりということがあるのですが、それは必要最小限の実用的なものでしかないわけです。つまり、一つの場所にとどまっていたからこそ、芸術や文化が発展したんです。

火焔型土器/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」

世界でも珍しい遺跡群が同じ東北にあるなんて、何だか少し誇らしいです!
北海道・北東北の縄文遺跡群は、全国の縄文遺跡と異なる点があるということでしょうか?

青野友哉(あおの・ともや)東北芸術工科大学・歴史遺産学科准教授/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」

そうですね、縄文遺跡は全国各地にありますが、その中でも特に有名なのが青森県の三内丸山遺跡だと思います。三内丸山遺跡では、縄文ポシェット や大型建築に使われたとされる栗の木の柱などいろいろなものが出土して、センセーショナルな報道がされました。つまり、今までこうだろうな、と思われていた縄文時代のイメージを大きく覆す発見があり、北海道・北東北というのは一つの文化圏が長く続いていたということも分かったんです。

※樹皮で編まれた小さな袋。完全な形で出土した。

そこで、まず北海道・北東北の縄文遺跡群が日本の代表として世界に打って出て、知ってもらえたら、他の縄文遺跡の存在も知ってもらえるかな、という作戦なんです。

三内丸山遺跡に復元された、大型掘立柱建物跡(おおがたほったてばしらたてものあと)。巨大な栗の木柱による六本柱の建物/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」
三内丸山遺跡に復元された、大型掘立柱建物跡(おおがたほったてばしらたてものあと)。巨大な栗の木柱による六本柱の建物で、それぞれの木の直径は1メートルほどもある。

北海道と青森・岩手・秋田県でまとめているということは、もしかして宮城・山形・福島といった南東北とは同じ東北でも異なる点があるということですか?

青野友哉(あおの・ともや)東北芸術工科大学・歴史遺産学科准教授/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」

そうなんですよね。やはりいろんな文化が地域ごとに違うんですよ。例えば貝塚から発見されたものが北海道と関東では違っていたり、気候環境が異なるから、食べるものや暮らし方に地域的な差が生まれるんです。そして、土器の形や模様の違いといった文化にも当然差が出てくるわけです。

しかし、狩猟採集文化という大枠で見れば変わりません。縄文時代というのは小さい地域差はありながらも、日本列島中が同じような狩猟採集文化なんです。

北東北と南東北の縄文文化は細かく見れば違う、そしてそれは気候に応じた生活様式が営まれていたから…ということですね。

青野友哉(あおの・ともや)東北芸術工科大学・歴史遺産学科准教授/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」

そうですね。でも地域差というのは個性であって、どちらが優れているとかではないんですよ。それぞれの文化があって、豊かな縄文文化があったということです。そしてこれは、山形の芋煮の味が地域によって違うとか、現代にも言えることなんです。

世界遺産登録への道のりも、あと残り僅か!

世界遺産登録を目指して、北海道・北東北の縄文遺跡群ではどんな取り組みを行っているのでしょうか?

青野友哉(あおの・ともや)東北芸術工科大学・歴史遺産学科准教授/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」

はい。ユネスコにはすでに、価値と保全をアピールするための推薦書を提出していて、2020年9月にユネスコの協力機関であるICOMOS(国際記念物遺跡会議)の現地調査を受けました。もし何か課題を示されたら、今後はそれに対して応えていくことになります。

※世界遺産に登録されることは、条約に基づいてその資産を永久に「保全」することを世界中に約束することでもある。

その他の活動としては、外国の方たちに向けたパンフレットの制作、現地をガイドする方々に縄文文化をしっかり伝えてもらうためのトレーニングなどを行っています。あとはWebサイトでの情報発信、展示会の開催など、活動は多岐に渡りますね。

へぇ~! 世界遺産登録前から、様々な取り組みが必要になるんですね。

青野友哉先生へのインタビューの様子/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」
青野友哉(あおの・ともや)東北芸術工科大学・歴史遺産学科准教授/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」

様々な取り組みを行って、ある程度完璧にした状態で審査を受けるんですが、それでも課題を指摘されることがあるんです。それらを解決して、本番のユネスコの大会に臨むんです。

おそらく、2021年の夏頃には、登録されるか・されないかの結果が出ると思いますよ。

おおー! そうなんですね!!

世界遺産登録を目指すのは、様々なメリットがあるから

世界遺産に登録されるためには、多方面からの努力が必要なんですね。
ところで、世界遺産に登録されるとどんなメリットがあるんですか?

青野友哉(あおの・ともや)東北芸術工科大学・歴史遺産学科准教授/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」

そうですね。メリットの一つは、世界中の人たちに縄文文化の価値を知ってもらえることですね。

なるほど…他にもメリットはあるのでしょうか?

青野友哉(あおの・ともや)東北芸術工科大学・歴史遺産学科准教授/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」

もう一つは日本や地元の人たちが、北海道・北東北の縄文遺跡の価値に気付くこと。縄文の遺跡って地味で、ピラミッドやコロッセオみたいに、見てすぐにすごさが伝わるものではないじゃないですか。地元の人たちにとっては当たり前のものなので、価値として認めてくれない場合が多いんです。

そういう意味では、これから世界遺産に登録される→世界から注目される→日本や地元の人たちが価値に気付く というプロセスも大きなメリットですね。そして価値に気付けば、それを誇りに思って守ってくれる人が増えていく。世界遺産への登録が、遺跡を守ることにつながるんです。

青野友哉先生へのインタビューの様子/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」

世界遺産登録の可能性は? そして、縄文遺跡の楽しみ方をご紹介

率直にお聞きします。北海道・北東北の縄文遺跡群の世界遺産登録の可能性は、現段階であるのでしょうか?

青野友哉(あおの・ともや)東北芸術工科大学・歴史遺産学科准教授/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」

僕は十分あると思います(笑) 特に欧米では、「JOMON」ってその価値が高く評価されているんですよ。縄文時代の造形物には、国境を越えて世界の人たちの感性に訴えるものがあるんだと思うんです。

日本国内では、ライバルとなる他の世界遺産候補と厳しい戦いをしてきたんですが、世界ではすんなり認められるんじゃないかという気がしています。

それを聞いて、世界遺産への登録がさらに待ち遠しくなりました!
世界遺産に登録されたら、きっと縄文時代の遺跡に足を運ぶ人も増えると思うんですが、縄文文化初心者でも楽しめる方法ってありますか?

青野友哉(あおの・ともや)東北芸術工科大学・歴史遺産学科准教授/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」

まずは出土品の美しくて不思議な模様や形をたくさん見ていくことですね。これを作った人はどんな人だったんだろう、どんな思いを込めて作ったものなんだろう…と、想像しながら見るとまた違った見方になって楽しいと思います。

もう少し言うと、現代人の僕たちは農耕社会に生きていますが、縄文人が生きていたのはそれとはちょっと考え方が違う狩猟採集文化です。だから、現代の尺度で縄文を捉えても、正しい答えに行き着くとは限らない。縄文人はもしかしたら、もっと違うことを考えていたんじゃないか、というところまで思いを巡らせてほしいですね。

それは、自分たちとは違う価値観・考え方を持つ人たちに耳を傾ける力を得ることにつながるはずですから。

青野友哉先生へのインタビューの様子/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」

世界遺産に登録される日が楽しみです!
先生、本日はありがとうございました!

青野友哉(あおの・ともや)東北芸術工科大学・歴史遺産学科准教授/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」

こちらこそ。

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今夏、青野先生と歴史遺産学科の学生たちは、北海道伊達市の「有珠モシリ遺跡」を発掘調査して、大発見をしたそうです。 有珠モシリ遺跡は、縄文時代の終わりころの遺跡です。

およそ2,800年ほど前のものとは思えない保存状態の良い出土品や人骨は、普段物欲のないという青野先生でも、思わず声を上げてしまうほどだったそう。

有珠モシリ遺跡から出土した遺物/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」
有珠モシリ遺跡から出土した遺物/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」
有珠モシリ遺跡から見つかった、再葬墓されたとされる人骨/世界遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群

この発見を通して、縄文人のどんな姿が解き明かされるのか、とっても気になりますよね…!
インタビューを通して、歴史のロマンと、青野先生の探究心をひしひしと感じました。

北海道・北東北の縄文遺跡群に、今後も要注目です! 
(終わり)

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大室 日菜
大室日菜

東北芸術工科大学 企画構想学科2年
福島生まれの青森育ち。
趣味は映画鑑賞、甘いものを食べること。
だが、一度にたくさん食べれないのが悩み。
将来の夢は上手にマカロニを茹でること。