ひとつひとつの出会いを大切に、自分の感覚に正直に/卒業生 水野谷八重

インタビュー

東北芸術工科大学校友会では、2020年8月より、本学でアートやデザインを学んだ卒業生たちの「今」を紹介するリレーインタビュー「TUAD OB/G Baton」(ティーユーエーディ・オージー・オービー・バトン/TUADは東北芸術工科大学の英語表記の略称)をスタートしました。

1992年に開学し、2021年で30周年を迎える本学の卒業生は現在1万人を超えました。彼らの1万通りの日々と歩まれてきた人生をインタビューと年表でご紹介します。

※「GG」では、芸工大と卒業生の皆さんを再びつなぐ「TUAD OB/G Baton」をサポートしていきます。

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「漆」の常識を一旦外して自由な創作を楽しむ

第2回目は、漆作家として活動されている水野谷八重(みずのや・やえ)さんです。芸術学部美術科・工芸コース 漆芸専攻に1999年に入学。ゼミ担当教員は小林伸好(こばやし・のぶよし)先生、水上修(みずかみ・おさむ)先生でした。

水野谷八重さんが制作した漆のアクセサリー
水野谷さんが制作した漆のアクセサリー。たくさんの行程を経て手間暇かけて作られた唯一無二のアクセサリーは、とても味わい深い造形と質感で耳元を飾ってくれる。

――水野谷さんの芸工大での思い出を教えてください

工芸コースのみんなで料理をしたり、学外研修で日本各地に出向いて共同生活をしたことです。1年生の時に履修していた授業「異文化コミュニケーション」で、初の海外旅行を経験したことも思い出です。私にとっては初めての海外旅行。場所がタンザニアだったこともあり、いろいろ衝撃を受けまくりました。その時の体験は、今も私の人生に少からず影響していると思います。

――現在の活動を教えてください

水野谷八重さん
紐と漆を幾重にも重ねて作られる作品からは、水野谷さんの丁寧な暮らしぶりが見えるよう。独創的な成型プロセスを経て形が生み出される。
水野谷八重が制作した漆のバッグ
一見すると鉄製と見紛うほどの重厚さ。布と漆を何度も積層して形成した丸みのあるフォルムは、スタイロフォーム(ポリスチレン樹脂を主原料とした断熱材)で作った型に糊漆の麻布を貼り重ね、布目を埋めていく工程を繰り返して仕上げた逸品。

積み重ねた経験と、恩師の言葉を励みに

――制作を続ける心持ちを教えてください

卒業制作で大量のピアスを制作した時に、今は亡き和田守卑良(わだ・もりひろ)先生からいただいた「制作していくと困難な壁に突き当たる時がくるけど、あなたは軽やかに乗り越えられる気がする」という言葉です。また、卒業する時に寄せ書きに書いてくださった小林先生からの「継続は力なり」という言葉。水上先生からの「僕のチュートリアル無欠席だったのは水野谷だけだから」という言葉は、今も時々思い出して励みにしています。

――日々楽しみにしていることや、今、面白いと感じていることはありますか?

編み物や洋裁が趣味なのですが、誰かと交流しながらやりたいと思って、8年ほど前から自宅で手芸部を開催しています。1回に2~3人が参加するような自由な雰囲気です。同じようにものづくりをしている年齢もバラバラな8人がメンバーなのですが、情報交換の場にもなっていてとても大切な時間です。このコロナ禍で中断しているので再開が待ち遠しいです。

水野谷八重さんの工房兼ギャラリー
念願だったギャラリー「VINTON(ビントン)」を2018年にオープン。たまたまテレビで見かけた赤ちゃんの名前にピンときた、とか。

――このコロナ禍で制作活動が左右される状況もあったと思いますが、今後はどんな展開を想像していますか?

子育てが少し落ち着いたら自宅で「金継ぎ」教室を開きたいです。乾漆のバッグをたくさん制作してバッグ展を開催したいです。

水野谷さんの「自分クロニクル」
水野谷さんの「自分クロニクル」。人との出会いやつながりを大切にしながらも、自分の理想を見失うことなく真っすぐに進んでいる印象。

――在学生へのメッセージを

私の大学4年間の生活は、朝から晩まで制作に没頭し、「学費の元を取った!」と、胸を張って言えるくらいに全力で学びました。個人的な後悔からアドバイスするならば、他の学部生や先生と交流して、専門外のことにも目を向け、自分の興味の幅をもっと広げてほしい。そして山形という土地は本当に素晴らしい所なので、食・自然・文化をもっと満喫してほしいです(花笠まつりに参加しなかったことを後悔しています)。大学4年間は人生においてとても貴重な時間なので、とにかく行動してみることをお勧めします。

編集後記

「その可愛らしい笑顔の奥に…隠していたね。」

他学科に所属していた私と彼女の出会いはアルバイト先でした。第一印象はすっと背が高く、物腰も柔らかく、かわいい笑顔のおっとりさん。しかしながらそんな印象は、その後ことごとく覆されていきました。

「タンザニアに行ってきたから、お土産。」と、ある日のバイト先で手渡された鹿のような絵が描かれたコースター。それを受け取りながら、八重ちゃんとタンザニアが「=(イコール)」にならず「?」の無限ループ。「アグレッシブ八重」に書き換えられた瞬間でした。

漆を専攻する人の宿命か、彼女ももれなく「漆かぶれ」の餌食となりバイトも休むことになった時も、体調が悪くても自分で後任を頼んでくるしっかり者。常に漆かぶれと戦いながら制作を続けた彼女の卒業制作「漆のピアス」はとても魅力的で、買い取りを申し出なかったことを今も後悔しています。

その彼女が今、当時のように漆でアクセサリーを制作している。その姿は、学生時代に先生たちが彼女に送った言葉がそのまま彼女の未来を予言したかのよう。努力や継続する力がきちんと続き、今の「八重ちゃん」を形作っているんだなと感じました。

菅野あや(デザイン工学部生産デザイン学科 卒業生)

制作協力:東北芸術工科大学 校友会
インタビュー・編集:菅野あや(東北芸術工科大学校友会 事務局)

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東北芸術工科大学 広報担当
東北芸術工科大学 広報担当

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