ものの入口と出口を紡ぐ、エフスタイルの仕事/デザイナー 卒業生 五十嵐恵美・星野若菜

インタビュー

ともに新潟生まれの五十嵐恵美(いがらし・えみ)さん、星野若菜(ほしの・わかな)さんのお二人によるデザインユニット「エフスタイル(F/style)」。山形県中山町にある穂積繊維工業とのコラボレートによるマットシリーズや、新潟の伝統工芸品であるシナ織りのバッグなど、各地の地場産業の本質を損なうことなく、普段の生活に寄り添う商品に仕立てるお仕事で知られています。

お二人は東北芸術工科大学・生産デザイン学科(現在のプロダクトデザイン学科)の同級生。在学中に取り組んだ産学連携の演習がきっかけで、芸工大を卒業した2001年にエフスタイルの活動をスタート。

新潟市内にあるオフィス兼ショールームに伺って、在学中のこと、お仕事をするうえで大事にしていること、エフスタイルのこれからなどをお聞きしました。

大学から「地続き」でつながる今

――お二人とも新潟のご出身ですが、出会いは大学に入学されてからですか?

星野:高校生の頃に通っていた画塾(新潟美術学園)が一緒なんです。芸工大を受験したのも、画塾で芸工大を紹介されたことがきっかけです。

もともと私は、芸工大とは別の大学に行こうとしてたんですが、画塾内で行われた芸工大の説明会で、「生産デザイン学科(現・プロダクトデザイン学科)なら、たくさん選択肢があって、いろいろ学べる」という説明を受けたんです。木工もプラスチックも金属もテキスタイルも、とりあえず全部触れられるって。自分が何に向いているのかなんて分からなかったから、説明を聞いて「芸工大にしよう」って思いました。滑り止めもなくて、芸工大しか受験しなかったです(笑)
それなのに試験当日、ホテルに受験票を忘れて(笑) 取りに戻って会場に着いた時にはもう試験が始まっていました。わーっとアイデアを書き出したんですが、きちんと清書できなかった。「あー、もう絶対に落ちたな…」と思って絶望してたんですが、受かっていました(笑)

左:星野若菜さん 右:五十嵐恵美さん

私たちの学年は、卒業制作の展示を初めて体育館で行ったんです。そんなことをやろうとしたものだから準備も大変で。

五十嵐:でもすごかったよね。がらんどうの体育館にゼミのブースを作って、サインやキャプションを考えて。

星野:ねー。自分の作品だけじゃなくて、みんなで一緒に空間をつくる。すごくいい思い出です。

――エフスタイルを始めるきっかけは、在学中にデザインされた「犬のマット」なんですよね

星野:大学を卒業して、エフスタイルの活動を始めたのが2001年なんですけど、その年の夏に、穂積繊維工業さん(以下、穂積)※1にサンプルとして織ってもらった犬のマットを、新潟市内のインテリアショップに持ち込んで展示させてもらったのが初めての個展でした。その個展を、当時新潟に住んでいた穂積の現社長がたまたま見にきてくれて。「このマット、うちの実家でも織れそうだな」と思って裏をめくったら、穂積繊維のタグが付いていた(笑)※2 本当にこのことがきっかけで、現社長は家業を継いでくれたんです。縁というか、一つひとつのできごとが地続きで繋がっている感じがします。

エフスタイルの代表作であるマット。こちらは猫柄の「RONDO」。穂積繊維工業が製造

――マットのデザインに取り組まれたきっかけは?

星野:私たちが大学4年生のとき、産学連携の演習があって参加したんです。今はファクトリーブランドが注目されていますけど、そんな言葉もまだないころで。下請けの工場は、受注生産や頼まれ仕事で、工場の名前も出せずに量産して、問題が起きたら全部工場の責任にされるような状況でした。各工場が企画力を持って、オリジナルの商品を生み出せるようになろうというのが産学連携の狙いで、具体的には、私たち学生が「こんなものがほしい」っていうアイデアを出して、工場の技術で商品化できるかを試すという流れでした。

例えば穂積繊維さんは、当時受注の大部分を占めていた、大きなホテルや企業のロビーなどに敷く何百万円、何千万円という絨毯の仕事が、その先もずっと続くとは思っていなくて、個人向けの、フローリングでの暮らしに取り入れてもらえるような小さなサイズのマットの製造を検討されていました。
ウール100%だと、どうしても重厚感があるので、麻とウールをミックスしたライトな印象のラグを作ろうと、ハンドフックの機械を麻用に改良されたり。だからまず前社長に「麻とウールを使った商品を企画してくれ」って言われたんですね。

犬のマットは、元々五十嵐が飼っていた犬が亡くなって、その犬のために描いた絵本がベースになっています。当時、お洒落なペットショップを街で見かけるようになったこともあって、室内犬用の犬小屋みたいなマットを提案しましたんです。

企画やデザインの打ち合わせは一年がかりでしたが、サンプルを作って学内で展示したところで終わりになってしまって、その時点では商品化されませんでした。なんかそのときに、売るのってそんなに大変なことなのかな、っていうのは2人ともすごく思って。どんなにいいものでも、その後誰かがリスクを負わないと、物って届かないんだなと。大学を卒業して、ひょんなことから2人で活動を始めることになって、「まずあのマット売ろうよ」ということになりました。

――大学での学びが本当に地続きで今につながってるんですね

五十嵐:そうなんです。大学を卒業してすぐに始めたので、エフスタイル以外の仕事はしたことがない(笑) 地続きですよね。

星野:犬のマットに関しては、もちろんデザイン料ももらえなくって。今も小さな工場は、自治体の助成金や補助金をもらって、それを元手にやっと企画やデザインを依頼できる状況です。でも、新たに染めるとかじゃなければ、余ってる在庫の糸があるよ、って言ってくれたり。私たちも、お金はないけど作ってくれたら営業しますよ、って。お金のないもの同士が知恵を出し合う、物々交換みたいな感じで進めていきました。

創業当時、私たちはまだ22~23歳。でも、例えば「ユナイテッドアローズ」さんとか「私の部屋」さんは、時間を作ってちゃんと会ってくれた。私たち全然商売っ気がなくて、「掛け率って何ですか?」なんて聞いちゃったり(笑) なのにしっかり話を聞いてくれて、アドバイスもくれた。そうやって、2枚、3枚と少しずつマットが売れていきました。

時間をかけて、耕し育てる関係性

――ほかの商品はどのような経緯で手がけるようになったんですか?

星野:私たちは、ものを作りたいデザイナーではなくて、創業当時から今も「産地に仕事をつくりたい」というスタンスでいます。だから、最初に関係が築けた穂積さんと、たくさん仕事を作りたいと思っていたんですね。でも、穂積さんの方から「山形県鮭川村にスリッパの工場があって大変そうなんだけど、一緒に仕事してみないか」と紹介されたことがきっかけで、スリッパの製造を手がける豊田工業さんとお仕事させてもらうようになりました。私たち自身が作り手さんを探すというよりは、ご紹介いただくことが多いですね。

亀田縞のスリッパ。新潟県亀田町の伝統織「亀田縞(かめだじま)」を使い、接着剤等を用いず、全て縫製で丁寧に仕立てられている。(山形県鮭川村の有限会社豊田工業 が製造)(写真:エフスタイル提供)
シナ縄を使ったあんぎん編みのバッグ。とても丈夫で、使い込むほどしなやかになり、艶が出て育っていく。(写真:エフスタイル提供)

五十嵐:唯一「シナ織り」は気になって、場所もよく分からないまま産地の村に行ったんです。そして、ここでも運命的に保存会の代表の方と出会えました。
シナ糸にもいろいろあって、ちゃんとしたいい糸は機織りに使われるんですけど、シナのくず糸で綯われた縄は、在庫が山積みになっていたんです。シナ布って、夏の帯とかに用いられる高級呉服の世界の商材。でも縄の方は、その野良っぽい、民芸的な魅力に当時誰も気付いていなかったんですね。「うちはシナ布じゃなくてこっちでやりたい」って交渉しました。普通の服にも合わせやすい、すごく素敵なバッグができると思ったんです。

シナ縄で編まれた「花かご」

――本当に人の縁を感じるお話ですね

五十嵐:亀田縞(かめだじま)の時もそう。以前は自分たちで縫製もしてたんですけど、ミシンの調子が悪くなって、ミシン屋さんに修理を頼んだら、その社長がすごくいい方で。「亀田縞っていうのがあるんだよ」って新聞記事の切り抜きを持ってきてくれた。「紹介するから」って。そうした方たちがつないでくれていますね。

星野:うちの一番の特徴は、作り手と一緒に考えて作ったものを、私たち自身が流通させていることだと思います。ものの入口と出口、大事なのはどちらも「人」だと思ってて、どんなにいいものでも、心ある取引先さんっていうか、手渡してくれる人にエネルギーがないと、商品は育っていかないと思うんです。だから、どんな人に手渡すかっていうのも、私たちのなかではとても重要。種をまいて発芽させるように、時間をかけて関係性を耕し育てながらものを売っています。

どのお店も、継続していくためにどんどん新しいものを見せていかなきゃって焦るんですけど、うちの商品は20年間ずっと変わらないんです。そうしたうちのスタンスを理解して、同じものをずっと仕入れて売ってくれるお店がいて成り立っている。チーム戦ですよね。一昨日まで福岡のお店の売り場にいましたが、そのお店とももう15年来くらいの付き合いがあるんですよ。

エフスタイルの展示会は全国各地の取り扱い店で行われている。その都度お店に出向き、売り場に立つこともお二人が大切にしていることのひとつ。(写真:エフスタイル提供)

――取り扱ってくれるお店が、少しずつ全国に拡がっている感じでしょうか

星野:そうですね。協力者が増えている感じです。お金だけの行き来じゃなくて、私たちの想いを一緒に伝えようとしてくれている仲間のお店がたくさんある。そこがうちの特徴かな。

私たちの商品って、すごく普通のものなんですよね。売り場にあっても、声も小さいし、主張しない。売り場に陳列された状態では、まだ50~60%っていうか、力を発揮できていないんですけど、家に連れて帰ってもらえれば、生活のなかでどんどん育ててもらえる隙がある。そういうものって、本当に売り場では弱いんです。だけど、それを仕入れて売ってくれる人たちは、言葉を添えて手渡してくれるから、人の生活に入っていける。ありがたいですね。

――スタート時の商品が今も看板商品であり続けているというは素敵なことですね

星野:継続して作ってくれる人がいて、それを変わらず売ってくれる人がいる。私たちはその関係を耕し続けています。

コストを減らすため、商品のタグも手作り。検品から梱包まで全てお二人の手で行われている。

――お二人が惚れ込んで「この素材でこんな商品を作りたい」と思うことと、すでにあるものを前に「こうすればもっといい商品になる」と思うこと、どちらの思いがお仕事の原動力として大きいのでしょう?

星野:そのどちらでもなくて、「それをつくりたい人」かな。私たちはものづくりをしたいわけじゃなくて、その人たちの一番素敵な姿をものに落とし込めたらいいと思っていて。だから「こういうのが好き」とかじゃないんです。例えば、穂積さんだったら、麻とウールを組み合わせたものが、彼らの一番の表現であり、スタイル。だから私たちはそれを使って考えたい。作り手の素晴らしさを「私たちはこう見てるよ」っていう視点をデザインしている感じがありますね。

――エフスタイルを参考にしたい人たちは全国にたくさんいるのでは?

星野:そうですね。全国の産地の方々が訪ねてくださいます。
でも、私たちは最終的に自分たちみたいな役割がいなくなることがゴールだと思ってるんです。工場が自立して、ちゃんとその良さを伝えられる流れができれば、はっきり言って私たちみたいな存在はいらないって思うんですよ。「今まで一緒に作ってきたけど、今年からは自分たちでやります」っていうのも実際増えてきてる。でもそれは多分、いいことなんだと思うんです。

継続して作ってくれる人がいて、それを変わらず売ってくれる人がいる。私たちはその関係を耕し続けています。

ものづくりをする人自身がSNSで情報発信できるようになって、ものを買いたい・使いたいっていう一般の人と直接出会えたりするから、私たちみたいな中間業者って本当に必要か?って思ったりもするんです。でも、一つひとつの仕事をとおして、今までに見たことない景色が見えることもあって。それを味わうと「一緒にやれてよかった」って心から思いますね。

五十嵐:それがエネルギーの素になってるような気もします。いろんな人の暮らしが豊かになればいいなって思うんですよね。「何のために作っているのか」「何のために売っているのか」って考えた時に、それぞれの暮らしがすごく充実して、楽しく暮らしていることがすごく大事で。私たちはそのためのものを作っているわけだし、そうしたことを共有できる関係がすごくいいんじゃないかなって。最近強く思いますね。

――お二人の関係性はずっと変わらないですか?(ケンカとかしないですか?)

星野:ケンカは…ない!(笑) すごく忙しいので、日々の仕事をチームワークでどうこなしていくかっていう感じなんです。

五十嵐:どっちが良い・悪いでもないですしね。

星野:やっぱり主張し合うっていうか、自分が突出したいって思うとケンカが起きるんじゃないかな。お互いにそうした気持ちはなくて、むしろ「おまえが行け」みたいな(笑) 商品からも自分たちの色をできるだけ消したいと考えているくらいなので。

五十嵐:それぞれ得意・不得意もあるけど、得意な方がやればいい。どの仕事も、いろんな人たちと関わり合いながら進めていますが、基本的に違う人間なんですよ。だから理解しにくいこともあるけど、それは素質でもある。否定せずに尊重することがうまくやっていける秘訣かな。

――芸工大の後輩たちにメッセージを

星野:私たちの商品を扱ってくれるお店は、デザインや美術関係のところもあれば、民芸店、本屋さんの場合もあって多種多様です。だからお客様も多様。でも、共通する感覚、例えば郷愁だったり、心を落ち着けたりっていうのは誰もが持っていると思っていて、私たちはそうした感覚を紡いでいるのかもしれません。
デザインの仕事は、人と違うアプローチをしなきゃって思いがちなんですけど、結局のところ、私たちは「同じこと」を探してるんだと思います。触れたときにほっとしたり、ざわっとしたり、そうした感覚に通じる扉のあるものが、私たちは美しいものなんだろうなって思います。だからうちの商品は、線引きして分けていくんじゃなくて、どこにでも開けているものを意識しています。それは多分、いろんな人と接して、素晴らしい部分をたくさん見てきたから。学生のみなさんには、いろんな場所に自分をさらして、たくさんの人たちのなかに、自分の役割を見出してほしいと思いますね。

創業からこれまでの道のりは、決して平坦なものではなかっただろうことは想像に難くありません。そのなかで培ってきたエフスタイルの仕事は、借りものではない、自分たちの経験則の積み上げで、示唆に富むのも当然なことのように思います。

お二人が大切にしている、手で触れてみること、人と直に会って話すこと、自分たちで考えること。とてもシンプルですが、信念を持って続けることは、現代において、特にビジネスの現場においては容易なことではありません。でも、だからこそエフスタイルの手がける商品は、その一つひとつが滋味深い魅力を持っているのだと感じました。
(撮影:三浦晴子 取材:渡辺志織、企画広報課・須貝)

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東北芸術工科大学 広報担当
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