文芸学科Department of Literary Arts

世界が青くて逃げ出した
大沼桐也
山形県出身 
石川忠司ゼミ

<本文より抜粋>
 家を出るときに母校の中学校を見て別れを告げる。クソッタレの中学時代と縁を切る。たとえ何があろうと一部の友人たち以外の彼らに興味関心など抱かないと心に決める。全てを逃げ出したくなり始めたのは大学2年の7月21日。巧也は久しぶりに中学の同級生と出会うことを心待ちにしていた。巧也が住む町は成人式が夏に行われる。8月の15日に行われ、翌日の16日には町内の祭りで神輿を担ぐ。それがこの町での伝統だ。この日集まったのは、これからの練習計画や予算の確認を、役所の人と打ち合わせをするため。打ち合わせに参加するのは巧也の年代の同級生であり、地元に残っている人らで行われる。巧也はこの日を心待ちにしていた。あまりいい思い出が残っていない同級生たちだが、20を越える年になればそれなりに成長していて、そんな彼らと話をしてみたいと思っていた。しかし、巧也の気持ちは全くもって叶うことはなかった。「予算?去年と一緒でいいんじゃね」「コレの責任者はこの場にいないけどアイツでいいべ」「えぇー、アレわたしがやるの~。めんどくさいんだけど~」「なぁ、これさっさと終わりにして飲み行こーぜ」「…(なんだこれは)」巧也が抱いたのはここで会話をしている人達が本当に同級生なのか疑問に思った。役所の職員が気まずそうに彼らの会話を聞いている。終始グダグダと進み、なんとなく、これでいいだろといった曖昧な形で進行していった。彼らも彼らの考えがあるのだろうと自分を納得させ、喉まで出かけた罵倒の言葉を飲み込み、とにかくこの会議が早く終わることを願っていた。確かに地元に残った人達は、あまりいい思い出が残っている人らではなかったがここまでとは思っていなかった巧也は明らかな失望感を抱いた。巧也は何も言わずに帰路につこうとも考えたが、少なからず楽しみにしていたイベントが最悪の形になることは避けるべきという良心を優先した。会議中に曖昧に決まったところを、メモっておき役所の職員に会議後に相談を持ちかけた。予算は昨年に比べてどうか、一人頭の徴収額が足りているのか、そもそも今年は何人が参加予定なのか。なぁなぁで決まった部分を細かに打ち合わせする。職員さんたちがうまく調整するとのことで、その日の会議は無事終わった。その後の飲み会に強制的に参加させられた巧也をまたしても失望感が襲う。