世界的パリコレデザイナーと考える、「好きに着る、好きに生きる」ということ/「TUAD TALK」レポート

レポート

中山ダイスケ学長がファシリテーターとなり、学内外からゲストを招いてさまざまな分野の話題を掘り下げる在学生対象のトークイベント【TUAD TALK】。 「好きに着る、好きに生きる」をテーマに、ファッションブランド「White Mountaineering」のデザイナーで、ヤマト運輸の制服デザインや北海道コンサドーレ札幌のクリエイティブディレクターも務める本学客員教授の相澤陽介さんと、ファッションブランド「spoken words project」のデザイナーで工芸デザイン学科の飛田正浩教授をゲストに迎え、ファッションについてさまざまな角度から深掘りしたものを以下、レポート形式でお伝えします。

「TUAD TALK」の様子
「TUAD TALK」の様子

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好きなことすべてを仕事につなげていく、だから楽しい

この日、飛田教授がデザインしたパジャマと相澤さんがデザインしたパンツを合わせたスタイルで登場した中山学長。 実は相澤さんが浪人時代に通っていた予備校で、中山学長が講師をしていたのだそう。それ以来、友達であり教え子という関係性が続いているという二人。そんな出会いを経て、19歳で多摩美術大学へ入学した相澤さん。話題は自然と大学時代の話に。

相澤:「僕が学んでいた染織デザイン科は歴史があり、なんと言うかすごくクラフト的で、技術的なことや伝統が中心にあって。それはそれで大事なんですが、デザインとか自己表現がしたいと思って大学に入った自分としては、描いていた方向性と違っていて、染織デザインというものが一時期非常に嫌になって。それよりも中山さんやその周りにいる人たちの前衛的なデザインやクリエイティブに憧れて、大学時代は中山さんのアトリエに入り浸っているような学生でしたね」

相澤陽介さん(White Mountaineering・デザイナー/本学客員教授)
ゲスト・相澤陽介さん(White Mountaineering・デザイナー/本学客員教授)

生地を作るといった技術的な学びには面白さを感じて一生懸命やっていたものの、表現するとなると古典的なものは自分にフィットしなく、中山学長はじめ自由に表現をしている人たちと一緒に自分の将来を考えていたという相澤さん。そういった思いを抱えながら卒業を控え、就職活動に取り組んでいた時、ある1枚のポスターに出会います。

相澤:「コム・デ・ギャルソンの求人ポスターに『Stay strong(強くあれ)』って書いてあって、それを見た瞬間、すごいかっこいい!と。僕は一度も洋服を作ったことがないし、ファッションの勉強もしたことなかったんですけど採用試験を受けました」

ベルギーのアントワープ王立芸術アカデミーやロンドンにあるセントラル・セント・マーチンズなど、名立たるファッション学校で学んできた学生たちが試験を受ける中、なんとこの年唯一の企画部採用者となった相澤さん。とは言え、洋服についての知識はほぼゼロ。そんな状態で最初に配属されたのが企画部。その時の経験が、現在のクリエイティブディレクションに大きく活かされていると当時を振り返ります。

相澤:「企画部というのはイメージをまとめたりアイデアを提案したりする、クリエイティブを作る根源の場所。1年目は工場とかをまわる役回りをしていて、プリント工場に行くと失敗したプリントがいっぱいあったり、ニット工場に行くとニットの切れ端があったりして非常に面白い。いわゆる捨てちゃう部分とか見過ごされている部分を工場から持ってきて、企画としてどんどんプレゼンするんですね。結果、洋服を作る技術は身に付いていないんですけど、洋服を作るためのアイデアをまとめるという作業を5年間やりました」

その後、28歳で「White Mountaineering」を立ち上げた相澤さん。当時はゼロからブランドを始める人が多く、普通のブランドをやったら埋もれてしまう、とあえて中学1年生でも分かる英単語で、しかもモードの中には無さそうな変わった名前を付けたと言います。 現在の主戦場は、パリファッションウィーク(通称:パリコレ)。認められたブランドだけが参加できる権威あるファッションショーで、相澤さんは今年で参加9年目。6月に春夏、1月に秋冬のメンズコレクション発表を続けています。

また、パリコレの際は相澤さん自らスタイリストを務め、流す音楽などもオリジナルで作成しているそう。それを聞いた飛田教授は、「ファッションデザイナーと言っても、会場に行って空間を見なきゃいけないし、ヘアメイクも見なきゃいけない。チェックしなきゃいけないことが本当にいろいろあって、ここまでのショーをやるとなると(ファッションデザインだけではなくて)トータルで見られる目線がないとまずいよね」と話します。

工芸デザイン学科 飛田正浩 教授(spoken words project・デザイナー)
ゲスト・工芸デザイン学科 飛田正浩 教授(spoken words project・デザイナー)

相澤さんは、「この仕事がすごく楽しくて、毎回ワクワクするんです。僕は音楽も大好きで、若い頃はDJをやったりバンドで楽器をやったり、あとテキスタイルの絵を描くことも大好きだし、かっこいい映像を作ることもすごく好き。『楽しい』と思ったことが積み重なっているだけなんです」と心境を語ります。そして学生たちに、「みんなには楽しい“引き出し”を作ってほしい。その引き出しをどんどん増やしていくと、それを誰かが見てくれているっていうのがあるから」とアドバイス。

常に楽しい気持ちがベースにあるため、クリエイティブなものをアウトプットする時のつらさはほとんど感じたことがないという相澤さん。それよりも「売れないことの方がつらい」と言います。

相澤:「デザインやファッションの仕事に対して、自分が一番大事にしているのはビジネス。シンプルに言うとお金を稼ぐということ。反感を買うこともありますが、クリエイティブなことやデザインをやっていく上で“どうやって継続していくか”という点を最も重視しています。一度大きい挫折をしたことがあって、そこからビジネスマーケティングとか、どういうものをつくったら着てもらえるか、といったことを中心に考えるようになりました」

「それは服を一生懸命つくってお金をかけて展示会をしたけど、誰も買い付けてくれなかったってこと?」と問う中山学長に、「そういうことです」と頷く相澤さん。46歳を迎えた現在、同世代の多くはすでにファッションの仕事から離れていると言います。

中山ダイスケ 学長
ファシリテーター・中山ダイスケ 学長

相澤:「自分でブランドをやりながら継続していくってものすごく難しいんです。それはグラフィックデザイナーでも彫刻家でも、工芸をやっている人でも同じ。だからこそ、自分が若い頃に考えていたアイデンティティとビジネスをどうつなげていくかが大事になるんですよね。そういった考え方から批判を承知で僕は“ビジネス”というキーワードを使っています」

自分のアイデアとスキルを糧に、外へ仕事を広げていくことも面白い

相澤さんは「White Mountaineering」のデザイナーとして海外を舞台に活躍する一方、企業のブランディングを請け負う「サーティーンワークス」という会社も経営しています。自分のアイデアとスキルを使って、企業の案件に一緒に取り組んでいくことに面白さを感じているという相澤さん。これまで、大阪を代表する高級ホテルのリーガロイヤルホテルのユニフォームや、ヤマト運輸の配達員の制服などをデザインしてきました。

相澤:「今度、ヤマトの人に会ったらポロシャツを見てみてください。実はグラデーションになっていて、汗が目立たなくなるという視覚的効果を入れているんです。それから、そのグラデーションになっているボーダーの部分には、ヤマトの『Y』の文字と、“前を向いて成長していく”という意味を持つ日本の伝統的な矢絣の文様を使用しています。ちなみにこの制服はコンペで採用されたもの。“会社をどうやって運営していくか”を主軸に長年仕事されてきた経営陣の方々がジャッジするわけなので、面白いと思ってもらえる要素をどんどん付け加えていくんですね。“ここのブランディングにはこういう意味があるんだ”って。そうすると、その人たちがいろいろと気になってくれるんですよね」

さらに、トヨタの販売店の一つであるトヨペットのエンジニアウェアをデザインしたところ、就職希望者が増加。トヨタの販売店全体のエンジニアウェアをデザインするまでに至りました。制服というのは働く人にしてみれば、ほぼ一日中着用するもの。だからこそリクルートに欠かせない要素の一つであり、かっこいい制服を提案してあげることで人は集まりやすくなると相澤さんは考えています。 また、そんな相澤さんの活躍は服のデザインだけにとどまりません。プロサッカーチーム・北海道コンサドーレ札幌では、ユニフォームやグッズのデザインだけでなくポスター制作のディレクション、さらにはチームの取締役というとても大きな役割を与えられています。

相澤:「僕はファッションデザイナーとして長くやってきたんですが、気付いたらサッカーチームの取締役になってしまうという変わった経歴になっていました。今も取締役会に出て、このクラブをどういう風にしていくか、売上をどう上げていくか、優勝するためにどういう方向に持っていくか。そういったことを日々考えています」

おしゃれであることよりも、こだわりが見えるファッションを

ところで今回、トークテーマとして掲げられている「好きに着る、好きに生きる」。 中山学長は、「せっかく美大に来たんだから、誰かの目を気にして好きな服も着れずに生きていくんじゃなくて、好きな格好をして好きなところへ旅して、好きな人と会えばいい」と学生たちに度々伝えていると言います。その一方で、現在の芸工大生のファッションについてはこんな見解も。

中山:「好きな格好をしている変な教員というのはいっぱいいるけど、教員よりも個性がある学生はあまりいないような気がするし、好きな格好をしているようで割とみんな似た格好をしてる子が多いよね。古着屋に行けばデザイナーズブランドを買うことだってできるはずなんだけど、自分のことを『私、量産型なんで』とか言っちゃうわけ。僕はもっと個性出せば?って思うし、出す練習を見た目からしておかないといざという時に出てこないと思うんですね

それに対し、普段はシンプルな服ばかりを着ているという相澤さん。「自分はどちらかと言うと量産型」だと言います。

相澤:「でもそれは、逆にそうすることで“自分の作品にフォーカスを持っていく”という狙いがあります。素材やシルエットといったものに照らし合わせることで個性を出すというのが僕の考え。ただ、『どうでもいい』っていうのは良くなくて、自分だけにしか分からなくていいから、自分なりのこだわりを持っていて欲しい。それは、クリエイターというものを目指している、または、ものづくりをする人間として持っていて欲しいという意味合いでもあります」

TUAD TALK
自身のブランドについて語る相澤さん

また、学生に対して「あんまり着るもの気にしてないでしょ?無頓着すぎない?」と鋭い意見を放ったのは飛田教授。
飛田:「『かっこいい』とか『かわいい』って言葉の解釈にもうちょっとオリジナリティがあってもいいんじゃないかな。もっとマニアックに掘って、掘って、探す行為をしていけば、ある一連の情報よりももっと遠いところまでリーチできる。その先にまだまだ非常に面白い世界があると思うんだよね」

“自由に着る”という意味で学生はファッションに使えるお金が限られています。そんな中、種類や色、サイズが豊富でたくさんフィッティングできるショップなどを活用しながら、“自分なりのこだわり”を見つけるのが面白いと相澤さんは言います。

そして最後に、「今日、お金やビジネスといっためちゃくちゃ現実的な話に触れたのは、10年20年後にクリエイターとして何らかの形で残っていてほしいという思いがすごく強いからです。そこを避けては通れない世の中なので」と実体験から得た本音とアドバイスを学生へ伝えてトークが終了しました。

ファッションについての話はもちろん、今後の進路や大学での時間を過ごしていく上でヒントになる要素も数多く散りばめられており、参加した学生にとって非常に有意義な時間となったことでしょう。

 

(文:渡辺志織、撮影:企画構想学科1年 神谷凱斗、工芸デザイン学科)

■相澤陽介さん プロフィール
White Mountaineering・デザイナー/東北芸術工科大学 客員教授 1977年生まれ。多摩美術大学デザイン科染織デザイン専攻を卒業後、2006年にWhite Mountaineeringをスタート。これまでに、Moncler W、BURTON THIRTEEN、LARDINI by YOSUKE AIZAWA など様々なブランドのデザインを手掛ける。現在は、イタリアCOLMAR 社のデザイナーを務めるほか、サッカーJリーグ「北海道コンサドーレ札幌」の取締役兼クリエイティブディレクターにも就任。その他、多摩美術大学、東北芸術工科大学の客員教授も務める。

工芸デザイン学科 学科ページ

飛田正浩 教授 プロフィール

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東北芸術工科大学 広報担当
東北芸術工科大学 広報担当

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