自由に、興味を持った方へ。思いが向く先に自分の未来をつくる /株式会社ランブル・ビー・卒業生 吉田萌々香

インタビュー

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さまざまな経験が生きる、アシスタントディレクターという仕事

――現在のお仕事の内容について教えてください

吉田:私はテレビのバラエティ番組のアシスタントディレクター(AD)をしています。私が所属している株式会社ランブル・ビーは、テレビ番組の企画・制作をしている会社で、テレビ局からの発注を受けて企画会議に参加し、番組の方向性に沿ってさまざまな準備をしていくのが私の主な仕事です。

現在受け持っているのは、テレビ朝日系列で放送されている『家事ヤロウ!!!』です。家事初心者のタレントさん3人が 家事をゼロから学ぶドキュメントバラエティーで、簡単な料理のレシピなどを紹介していきます。例えば、<冬のパンまつり>という企画では、おうちでできるおいしいパンの食べ方やレシピをリサーチし、会議にかけてシミュレーション。食材を調達し、実際に作ってみて「もっとこうしたらおいしい」など、みんなの意見を重ねて内容をブラッシュアップしていきます。資料が整ったら、収録に向けて、カメラマン、技術さん、セットを組む美術さんと連絡を取り合って、一緒に番組を作っていくんです。そして収録後は映像の編集作業をします。

株式会社ランブル・ビー 吉田萌々香さん お話をされる吉田さん
お話をお伺いした吉田さん

――番組制作のほとんどの工程に関わるんですね。あらゆる能力が求められそうです

吉田:はい、番組づくりの最初から最後まで関わっていくのがADです。収録では特に細かな気配りや臨機応変な対応が求められますね。失敗もありますが、どちらかというと私は器用貧乏なタイプで(笑)。ADはなんでも70点くらいのクオリティで、どんどん仕事をこなした方が重宝されるので、私には合っているみたいです。

――ADになろうと思ったのはなぜ?

吉田:もともと、本だけでなく映像編集にも興味を持っていました。テレビは影響力が大きくて、自分が携わった作品が多くの人に見られ反応が得られる点に魅力を感じていたので、就活の際に映像編集も視野に入れることにしました。編集という仕事を探すと、出版よりも映像関係の方が求人が多いんですね。転職サイトで今の会社で募集を見つけて面接を受け、すぐに来れるなら、と採用をいただきました。大学では映像ではなく本づくりを学んだことをを伝えましたが、専門性の違いなどは特に問題になりませんでした。卒業に必要な単位は取り切っていたので、ゼミの先生に相談したところ「東京に出て挑戦した方がいい」と、応援してくれたのはありがたかったです。

――ADの仕事のどんなところにやりがいを感じていますか?

吉田:やっぱり、オンエアを見て、視聴率が良かった時ですね。私が『家事ヤロウ』の制作チームに入った時はまだ深夜帯の放送枠で、最近ゴールデンタイムに移動したんです。そうすると視聴率重視で縛りが多く、求められることも変わってきました。スケジュールもタイトになって、身体的精神的に苦しく感じることもありますが、実際にオンエアされているのを見ると救われた気分になるんです。自分が関わった作品が世に出ているんだぞ、という誇らしさがモチベーションになっています。番組のPRを担当すると、ツイッターやユーチューブの反応も見ることになるので、テレビの前の皆さんに番組を届けていることをより実感しますし、嬉しい気持ちになりますね。

株式会社ランブル・ビー 吉田萌々香さん お話をされる吉田さん
撮影前にはカメラ図を描いて打ち合わせを行う

――SNSなどインターネットを通じて届く視聴者の声は、吉田さんの力になっているんですね

吉田:はい。私はリサーチするときもツイッターを駆使しているので、情報収集の上でも活用させてもらっています。いわゆる「バズレシピ」などは1万以上「いいね!」されたものを指しますが、検索の精度と速さで褒められることが多いんです。リサーチは私に向いている仕事のひとつかもしれません。

――3年目の現在、ご自身の成長をどのように感じていますか?

吉田:仕事に慣れてきて、番組に自分の色が出せるようになってきました。例えばテロップの原稿などはディレクターがチェックするのですが、私がおもしろいと思って書いた部分がそのまま使われることが増えていて。番組のポイントを編集して15秒のCMをつくるときも、以前と比べて直しが少なくなってきています。

難しい仕事をいろいろ経験するうちに、ADとしての考え方や動き方が体に染みついてきたのではないかな、と思います。先輩に教わった部分もありますし、急に班編成が変わって引き継ぎが曖昧なまま、やらなきゃいけない立場になったことで仕事がメキメキと上達した部分もありますね。

――実践を通して成長していく職種なんですね。ADの仕事で大切なのはどんなことでしょうか?

吉田:入れ替わりが多いので、欠員が出たときにすぐにそのポジションに入れる人はとてもありがたいし、自分もそういう後輩でありたいなと思っています。

また、番組が持つそれぞれの色を大事にしていくことを大切にしています。番組は外部の人が多く関わりながらつくられますが、ずっと張り付いているADが 、それらの仕事が”番組の色” に収まるように気配りをしないと、番組の個性は失われてしまうんです。これは本当に、最近になってわかるようになってきたことですね。「ADが誰よりも番組をわかっていないといけない」という先輩の言葉を心に刻んでいます。

――今後の目標やビジョンがありましたら教えてください

吉田:ADのキャリアステップとしては、ディレクター、プロデューサー、アシスタントプロデューサーを目指すというのが一般的ですが……今は迷っていますね(笑)。ここで覚えた仕事が違う番組でも通用するのか、違うテレビ局ではどうなのか。一言でテレビ業界と言っても制作会社やテレビ局によって仕組みが違うので、今はADを極めていきたいと思っています。

株式会社ランブル・ビー 吉田萌々香さん お話をされる吉田さん
インサート撮影の様子

――文芸学科で学んだことで、今も役立っている知識や印象深い経験はありますか?

吉田:私が芸工大を選んだのは、本の作り方や編集のノウハウを学べることを知り、興味を持ったからです。最初は一般の大学を受けようと思ったのですが、人文学系の学部だと私が学びたいこととは少し違うなという感覚がありました。実際、1年次から文芸学科で発行している文芸誌『文芸ラジオ』の編集ができたり、他の大学ではできない実践的な経験ができたと思います。

『文芸ラジオ』は学生有志で作っていて、1、2年生が中心となり自分たちでどういう内容にするかを決めていきます。外部の作家さんに取材のお願いをするときのために、敬語を使ったメールのマニュアルがあったり、社会人としての言動が身に付いたことは社会人になって役立ちました。学生のときから外部との関わりを持てたこと、毎週企画会議をして3人の先生による細かなサポートを受けられたのも良かったです。

『文芸ラジオ』の活動として、芸工祭でインパルスの板倉俊之さんをお迎えし、公開インタビューをしたことも思い出深いですね。テレビや雑誌、著作からは見えない一面が見られました。

――著名人へのインタビューはなかなかできない経験ですね。出演交渉なども学生がするんですか?

吉田:先生の紹介を通して行ったり、自分たちでやることもあります。私はクリープハイプというバンドの尾崎世界観さんのファンなので、ぜひ芸工大に呼びたいと思い電話をかけました。その年は日程が合わず実現できなかったのですが、2021年のオープンキャンパスにリモート出演してくださっていて、『文芸ラジオ』7号にもインタビューが掲載されていましたね。尾崎さんを呼ぶことができた後輩に嫉妬しています(笑)。

――吉田さんの熱意とアクションがあってこそのご縁だったかもしれませんね。それ以外にサークル活動などはされていましたか?

吉田:山形のタウン情報誌『月刊ヤマガタ ZERO23』の学生ページを作るサークルに所属していました。こちらは『文芸ラジオ』ほどの重責はなく、取材したい場所を持ち寄って自由に企画していましたね。私は仙台市の出身なので、山形の知らない部分について調べ、地域に根付いた文化を追う企画が好きでした。山形の花火職人や、庄内のお餅料理について、地域の人たちにお話を聞けたのはすごくおもしろかったです。

ゼミの活動で大石田町の観光PR冊子を作ったのも楽しかったです。こちらは残念ながらコロナ禍で印刷スケジュールがなくなってしまったのですが、私たちが地域と関わることで住んでいる人も知らない魅力が引き出せたら、という思いで作っていました。

――「編集をやりたい」という気持ちを、学生時代にしっかり育み学びを重ねていたんですね。では最後に、これから芸工大へ進学を考えている方へメッセージをお願いします

吉田:私が一人の先輩として思うのは、「興味がある方に進むと、悔いは残らない」ということ。芸工大は学部がたくさんあって、皆さん迷って絞って学部を選択すると思いますが、どこに入ってもやりたいことはできます。私は映像と文芸の両方に興味がありましたが、文芸学科に進み、幅広いジャンルの授業を受けられるカリキュラムのおかげもあってどちらの可能性も捨てない学びを得ることができました。「文芸だから文芸だけ」という縛りはなく、いろいろなものを好きに吸収できる環境でした。

例えば、学生時代に授業で触れたフォトショップ、イラストレーター、インデザインなどのソフトの知識はとても役立っていて、急遽必要になった小道具の図鑑を作り、番組進行を助けたこともありました。芸工大をめざす皆さんには、興味があることがあったら、諦めず、我慢せず、進んでみた方がいいことがあるよ、という考え方を伝えたいです。

株式会社ランブル・ビー 吉田萌々香さん お話をされる吉田さん

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テレビ番組制作において ”番組の色” を大切にしていると語ってくれた吉田さん。現在の仕事には、文芸学科で経験した本作りから得た、一つの方向性を定め情報を整理し編んでいく編集の視点が生かされているのではないでしょうか。本質的な学びは分野を横断し、いつでもどこでもさまざまな場面で自分を助ける力となります。「興味がある方に進むと、悔いは残らない」という言葉の潔さに、吉田さんが芸工大で得た学びの大きさを感じました。

(取材:上林晃子、入試広報課・土屋)

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東北芸術工科大学 広報担当
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