自分の興味に基づく行動と熱量を原動力に/横田勇吾(美術科 総合美術コース3年)

インタビュー 2020.08.19|

開湯1900年の歴史を持つ「蔵王温泉」(山形市)のメインストリートに、若い世代を中心に新たな蔵王の楽しみ方を提案するフリースペースが生まれつつあります。その活動を提案・企画したのは、美術科・総合美術コース3年生の横田勇吾(よこた・ゆうご)さん(以降、横田さん)です。

横田さんは、国内外で活動を展開しているアニメーションダンスチーム「EdeeT(エディート)」のメンバーで、ニューヨークの「アポロシアター」から異例のオファーを受けて出演した経験も持っています。

2020年9月のグランドオープンの準備をしている横田さんに、高校時代からこれまで経験されてきたことと、これからの活動についてインタビューしました。

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人生を楽しむ自信のなかった高校時代

――大学進学もできたと思いますが、どのようにダンス界に入ったのですか?

高校1年の頃は絵に描いたような落ちこぼれで、高校2年では勉強にはまって成績上位にいたりもしたのですが、大学に行く目的もなく進学することに疑問を持ってしまい、3年生でパッタリと勉強の手が止まってしまったんです。

それからはバスケットボールにはまり自分で練習スケジュールを作って朝5時から夕方まで練習したり、みんなとワイワイするのが好きだったので居酒屋で熱心にアルバイトをする日々でした。それぞれの活動は一生懸命にしていたのですが、自分の興味に基づいて行動するほど、進学への思いが薄れていきました。

そんな時、中学時代の先輩が仕事と両立しながらダンスを続けている姿をYouTubeで見て衝撃を受けました。その時は、ダンスだけでやっていけるとは思わなかったのですが、自分の人生を楽しむ自信もなくどうせダラダラ生きるならダンスをやってみるか死ぬかくらいに考えていました。

――エンターテインメントに目覚めたきっかけは?

元々人前で面白いことをするのが好きだったんですが、高校の文化祭の時に、持ち前の身体能力を生かして器械体操やムーンウォークを全校生徒の前で披露して大歓声を受けたことが、ステージに立つ気持ち良さを体験した初めての出来事だったように思います。

yokota yugo

地元と連絡を絶ち、東京でダンス修行

――高校卒業後すぐに、東京での本格的なダンス修行を開始されていますね

親にもかなり呆れられましたが、なんとか説得して上京を2年間だけ許してもらい、高校卒業後すぐに東京で一人暮らしをしながらダンスの専門スクールに通う生活に入りました。

午前中はアルバイト、午後は練習の日々。地元の友達は大学生活を楽しく過ごしているような話も聞こえる中で、寂しさから地元に帰りたいと思う気持ちがありました。でもそうした友達との連絡を断って東京でのダンス生活に集中して半年が過ぎた頃、ポップダンスというジャンルで活躍している先生と出会い、そこに通うスクール生たちとの練習やステージ出演をしていく中で、学校という場所しか知らなかった自分の世界がどんどん広がっていきました。

――現在のダンスチームに入るきかっけは?

自分の1つ上の先輩たちが、宮下公園(現:ミヤシタパーク)でよく練習していたのですが、そこで一緒に練習をさせてもらったことが今のメンバーと出会ったきっかけでした。その後に僕を気に入ってもらいチームに入りました。

実は「EdeeT(エディート)」というユニット名は、僕が考えたんです。アニメーションダンスという括りの中にあっても、ダンスのスタイルが違うメンバーたちと一緒に新しいショー(世界観)を作りたいという思いを込めました。

"EdeeT

――ダンス界で活躍されている中で、大学進学を目指したのは何故ですか?

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僕も出場して仲間から認めてもらっていたんですが、審査員がバトルの優劣を決める感じが肌に合わないと思うようになりました。もちろん、そうしたダンス界に馴染めなかった理由は自分の技術力のなさもありますが、徐々に練習に力が入らなくなりダンスから離れたいと思うようになりました。

――素直に楽しめなくなってしまったのですね

高校時代にのめり込んでいたバスケットの練習を思い出して、あの時のような練習の積み重ねができているのか、とか・・・。今も自分の行動の判断基準になっていると思います。

取り戻した表現者としての熱量

――大学では、どうして「美術」を学ぼうと?

僕にダンスを教えてくれた先生の一人が美大出身で、物事の追求の仕方とか、踊りの表現が芸術的だったんです。だからその追及方法や芸術的感覚というものが美大で得られるものなのかなと思ったことが、美大の存在を知る最初のきっかけでした。

今までの場所からなるべく遠く離れた場所に行ってみようと思っていた時、母親がこの大学のことを教えてくれたこともきっかけの一つでした。そして今自分がいる総合美術コースの「社会と人をアートでつなぐ」というコンセプトに興味を持ちました。

――芸工大ではどんな出会いが?

この大学では「好きだから絵を描く」みたいな熱量を素で持っている友人たちとの出会いがありました。友人たちのそういうところをとても尊敬しています。僕もダンスはすごく好きでずっとやってきたのですが、何時からか、「結果を出さなくては」という思いが強くなっていたのかもしれません。そのことに気が付き、忘れていた感覚を思い出して自分を見つめ直すきっかけになりました。

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教授たちもフレンドリーで、話しをしていて楽しいです。僕は、周りの友達にすごいって言ってもらいたくてダンスをやっていたようなところがあったんですが、ダンサーたちにしか見てもらえずダンス界の評価しかなかったので、自分は大したことないと思っていたんです。でもここに来て、「ニューヨーク行ってたの?紅白出たの?すごいね!」と肯定してもらえてうれしかったです。

あと、芸工大に来るまでは美術をなめくさっていて「デッサン」の意味も分からなかったくらいですが(笑)、授業を通して課題として与えられて取り組むものでも夢中になれるものがあることを知りました。こんなに熱中したのはダンスや高校時代のバスケットボール以来の体験でした。

木炭の使い方が分からず、日本画コースの友人に使い方を教えてもらった。右が横田さんが初めて描いたデッサン。
最終的にダイナミックに描けるようになったデッサン。木炭の使い方を習得するため毎日のように大学や自宅で練習した。短期間での上達ぶりは、芸術学部の先生たちを驚かせた。

――作品制作用のアトリエも、仲間と作っているそうですね

はい。空き家を探してリノベーションしているところです。この空き家を探す時、自分が住んでいる町内でチラシの投げ込みで見つけたんです(笑)。町内会長さんにまずは相談しようと思って探していたら、町内の人にチラシの投げ込みを勧めてもらいました。

持ち主の方にも自由に使っていいよと言っていただいたので、芸術学部の仲間たちと改装しながら使用しています。借り始めた当初は週末はダンスの練習で東京、平日は大学の授業とアトリエのリノベーション作業をしたりしていました。

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茶の間だった1F。不要な家財道具は業者に頼らず自分たちで全て解体し、仲間同士でミーティングや団らんができるカウンターやテーブルを自作。
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2Fの一室は横田さんの活動スペース。白い壁と木製の床で透明感のある空間に。天井にはスポットライトも。
yokota yugo横田さんがアトリエで制作した作品。「総合美術演習1」の授業にて。「手から生まれる形」を課題に、自身が決めた同じ行為を繰り返し、形態の面白さ、自身の身体性の変化、空間の変化を言語化する。

「⾃然とつながる」をコンセプトに

――9月から蔵王でフリースペースをオープンしようとしていますね。

そうなんです。今はフリースペース やギャラリーとしてプレオープンして週末に活動していますが、9月のグランドオープンに向けて、カフェ機能をプラスしたり、ワークショップやトークショーを開催する場所にしたり、色々な人が気軽に立ち寄れるような様々なフックを作っています。

大学1年生の頃から、自宅から6時間かけて蔵王に登ったりして何度か通っていたんですが、自分たちが楽しめる場所がなくて、足湯にちょっと入って帰る感じでした。

でもある時、総合美術コース13年生の合同演習で、「ラウンドテーブル」という様々な仕事をされている方をゲストで招いて対話する授業で、蔵王温泉の老舗旅館「タカミヤグループ」社長の岡崎博門(おがざき・ひろと)さんと出会いました。

何度かお話しさせていただくなかで蔵王への思いを伝えたところ、今の場所を提供してくださいました。これまで自分のアイデアにあまり自信がなかったのですが、僕のアイデアを「面白いね!」と言って任せてくださることが素直にうれしかったし、自信になっています。

yokota yugo店舗内の椅子やテーブルは横田さんが友人たちと全て制作。壁との色合いも統一感がある。道行く人々が気軽に入ることができ、店内からは目の前のゲレンデをゆっくり眺められる。
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店内には芸工大の学生たちが作品を展示できるギャラリースペースも。現在、学生たちが集まり9月のグランドオープンに向けて準備を進めている。

――今、具体的に決まっていることはありますか?

蔵王の岡崎さんと、宮城や山形で蔵王に特化した地域プロデュースを手掛けている「株式会社LABEL LINK(レーベルリンク)」の竹 直也(たけ・なおや)さん(同社代表取締役社長 )ともミーティングを重ねながら、9月のオープンに向けて話し合いを進めています。

蔵王温泉街は、オフシーズンや悪天候での楽しみ方が限定されていて、若年層があまり来ないという課題があるので、若者が楽しめる場所や、滞在しやすい空間を考えています。

将来的には、ダンスや音楽のイベント、学生たちの作品展示・販売なども考えています。ダンスのような積み重ねがない新しいことに挑戦していて、運営や経営について考えるのは大変ですが、未知のことを頑張るのが好きなので今は楽しさのラインがこれまでで過去最高です。僕の新たな原動力になっています。これを持続させていくことができれば大きな自信につながると思います。

――臆せず自らアプローチして、自分のやりたいことを実現している感じですね。

周りの人からよく言われます。僕としては人と普通にコミュニケーションしているだけなんですけどね(笑)。でも今があるのは、高校の頃の部活動で自分の自信を砕かれて挫折し、その後もそれについての教えを乞うことができなかった経験と後悔があるからかもしれません。自分で考えて動く事の重要性を体感しながら学んでいます。 

――横田さんによって、蔵王での活動はどんなものになりそうですか?

友人たちはよく「楽しいからつい来ちゃう」と言ってくれるんです。寝る間も惜しんでここ(蔵王)に来てくれる友人たちが周りにいてくれてすごくうれしいし、楽しい事がたくさん起こりそうだなと思っています。こういう場所を蔵王にどんどん増やしていきたいです。

yokota yugoカフェをオープンさせるために店舗内のテーブルやイスを制作。横田さんの友人たちが学科・コースを超えて集まる。

諸々の設備を整えるためのDIYや、ワークショップの企画運営方法、カフェのメニュー開発、ギャラリーの機能確立、アーティストとのコンタクトなどやることが盛りだくさんですが、自分の知識と経験値も高める必要があると思っています。

地域の人たちとも関わりを深めて、僕が蔵王にフラッと遊びに来た時に「あ、横田くんこんにちは〜!」って声を掛けてもらえたらとても幸せなことだなと思っているので、そこを目指しています。

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ダンス界から芸術大学へ、そしてアートを学びながら地域で活動。振り幅が大きい転換点が幾つもあって、「君はなぜそれをやっているの?」と聞かれることもあったそうです。でもその答えは「自分に忠実だった」結果なのだとお話しを伺いながら感じました。

惰性ではない自分らしいあり方を追求する視点は、表現者としてのクールな一面をつくっています。でも実際にお話してみると底抜けな笑顔で話してくれる自虐ネタが超面白い。その両面を持っている横田さんだからこそ、身近な日常から「おもしろい」を抽出して「かたち」にできるのだと思います。互いにリスペクトし合える仲間たちと作る「PALETTE」のオープンを楽しみにしています。

(取材:企画広報課・樋口)

ワールドカフェ「PALETTE」
住所:山形県山形市蔵王温泉940−5(Google Map
営業時間:10:00~18:00
営業日:土曜日、日曜日のみの営業

横田勇吾さん

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東北芸術工科大学 広報担当
東北芸術工科大学 広報担当

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