「好き」を深掘りし、思いを伝えて異世界を描き出す /株式会社カプコン・卒業生 前田寛人

インタビュー

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思いを伝えるコミュニケーションが、ハイクオリティーなゲームを創出する

――現在のお仕事の内容について教えてください

前田:コンシューマー系のゲーム開発部門で、ライティングアーティストをしています。ライティングアーティストというのは、3Dの空間上でライトを置いてキャラクターを照らしたり、被写界深度や露出などカメラの設定、カラーグレーディングなど、照明に関わることを全般的に行う職種です。僕が担当しているのは、大まかに言うと、ステージライティングとカットシーンライティングの2つ。もともとは背景を作る方が兼任していた分野ですが、最近は専門職として認知されていますね。1枚絵を作る意識で、光のあふれ方などの提案をしています。

――ライティングのやりがい、醍醐味はなんでしょう?

前田:ライティングは、制作全体の流れの中では後の方なんです。背景を3Dでパーツ一つ一つ作ってくれる方がいて、その空間の上を歩くかっこいいキャラクターを作った方がいて、そのキャラクターが違和感なくリアルに動かせるようにセッティングしてくれる方がいて。本当にいろいろな人が培った状態で、「ライティングさん、かっこよくしてください」というパスがくる。頑張らなきゃな、という思いはとても強くなりますよね。そして、頑張った結果「いいね!」と言われたときは心から嬉しいし、期待に応えられたという喜びがあります。プレッシャーもありますけど、そういったところにやりがいをすごく感じています。

――これまで手がけられた作品は?

前田:最近発表された『ストリートファイター 6』です。現在はクローズドベータテストをしている段階のものですが、そのカットシーンの演出とライティングの一部を担当させていただきました。有名なタイトルですし、カットシーンができるなんて思っていなかったので、すごく嬉しかったですね。

株式会社カプコン 前田寛人さん ストリートファイター6
前田さんが制作の一部を手掛けるシリーズ最新作『ストリートファイター6』
株式会社カプコン 前田寛人さん ストリートファイター6

――人気作品ですね!そもそも、この仕事を選んだきっかけは?

前田:小中学生の頃、毎日のように友達の家に集まって、弊社のゲーム『モンスターハンター』とか『ロックマン』、『バイオハザード 4』でめちゃくちゃ遊んでいたんですよ。最初は友達3人だったのに気が付いたら8人くらいに増えていて、ゲームを通じて知らない子とも友達になったりして。僕は小さい頃、口下手なところがあったのですが、ゲームが終わると誰とでも友達みたいな心地よい関係ができていたんです。それで、ゲームってもしかしたら他のメディアにはない、人と人をつなげる力があるんじゃないか、と考えるようになりました。

今、少しだけ大人になり、僕のようにコミュニケーションが苦手な小さな子にとって、友達の輪が広がる手助けになるものが作れたらいいな、と思いゲーム業界を志望しました。思い入れのある作品を生み出したゲームメーカーに入れてすごく幸せに感じています。

――ライティングという職種を選んだ理由は?

前田:入社時は、3DCGで空間を表現する背景モデラーとしての採用でした。新人研修の中で僕がどういう人間なのかを見ていただいたようで、ライティングの統括の方から「ライトをやってみませんか?」とお話をいただいたんです。先ほど言った通り、ライティングは背景の一つ一つ、キャラクター、空間など多くの人の手によって作られるものに関わりますから、いろいろな人と円滑にコミュニケーションを取る必要があります。当時、僕はそういうことをわかっていなかったのですが「前田くんは、誰とでもニコニコして喋っているから大丈夫そう」と言われて(笑)。背景もやりたかったけど、ライトもいい経験になりそうだなと思い、やってみることにしました。

――適性を見出されたんですね。小さな頃は口下手なところがあったとおっしゃっていましたが、コミュニケーション能力が評価されるまでになったのはなぜなのでしょう

前田:自分でもよくわかっていないのですが、コミュニケーションは「やらなきゃ」という意識でやっていました。自分が成長するために行動していたら自然と「前田はコミュニケーションを取る人だ」と認識されたと考えています。疑問に思ったことや自分の想定が各セクションと合致しているかを逐一確認し、いわゆる報告・連絡・相談を徹底していた部分ですね。

これはおそらく、大学と大学院で自分の考えを言語化してきたことが大きく影響しているんじゃないかと思います。例えば大学院では、2年間をどういう計画を持って過ごすのか、文字にして提出し承認を得ることが必要でしたから、自分が思い描いていることを言語化しなければなりませんでした。学部生の時も、自分が作りたいものについて何回も発表しフィードバックをもらって、ということをしていました。その過程で映像系メディアを制作するときの思いの伝え方がすごく勉強になったんです。全てを言語化しようとしてキーワードを並べると、コマーシャルになって面白くなくなったりするので、いいあんばいで伝える。きちんと話を聞いてくれる教授とのコミュニケーションを通して、自分が思っていることをある程度伝えられる力がついたのだと思っています。

僕は頭の中にビジュアルがパッと浮かぶタイプですが、それをきちんと言葉に変換して初めて人に伝わるし、ものごとが動き出すんですよね。そして、僕のようにビジュアルが浮かぶ人もいれば、言葉で構築していく人もいて、相手がどういう考え方をする人なのかを意識して、コミュニケーションをすることが大切だと気づきましたし、それは今の仕事をする上でも役立っています。学生の頃は、自分が思っていることがどうやったら伝わるのかを考え続けていました。

――大学での学びが生かされているんですね。ほかにも学生時代の経験で役立っていることはありますか?

前田:まず、1年次に映像に関わる流れや技術について一通り知れたことですね。例えば実写の撮影技術や映画の撮り方。プロットを書いてVコンテを作り、それに合わせて撮影していくことや、カメラの露出や絞り、シャッタースピードなどいろいろな技術を使って現実を写そうとしているということ。アニメーションの成り立ちや3DCGについての知識も役に立ちました。もしこういった前提知識がなかったら、背景からライトセクションに移った時に、スタートダッシュができなかったと思います。

僕は今、ものづくりをする集団として会社に入っていますが、大学でも同じような環境だったからすんなり会社でも働けている、ということもありますね。芸工大では、日本画であったりグラフィックデザインであったり、違う分野の人たちからのインプットがたくさんありましたから。視野を広げ、今のように違うセクションとのコミュニケーションが取れているのはこういった環境が大きいです。

あと、自分で映像学科を選んでおいて妙かもしれませんが、学生時代は自分が好きなものは他の人から見たら変なんじゃないかと思い込んでいたところがありました。それでも好きなものを形にしたら見せるしかないし、言葉にしたり途中の段階であっても見せていく。その過程が、恥ずかしさを克服するいい機会になりました。誰かに見せた方が手がかりがもらえたり進展するということを体験できましたし、大学はそういったトライをする機会が多かったです。

――現実にはない世界を魅力的に描き出していくという仕事をする上で、前田さんが大切にしていることはなんでしょうか?

前田:まずは締切などの時間間隔も含め、責任感を持って「絶対かっこよくする」という意識を持つこと。しっかりコミュニケーションを取ること。あとは新規のインプットでしょうか。ライティングもそうですが、3DCGというメディア自体が過去百年足らずの歴史しかないんです。絵は数万年、映像は200年ほどで 、CG という分野はまだ発展途上です。 AI のディープラーニングなど新しい技術が次々と出てくる中で、新鮮な気持ちで「これなんだろう?触ってみよう」とインプットしていくようにしています。

この少し堅苦しい3点を含めた上で、「仕事を楽しまなきゃ」という意識を大切にしています。これだけでやっていると、どこかで苦しくなってくることがあって。その時に自問自答して「いや、でも楽しいわ」という答えが出ることがとても幸せなんですね。結局、自分のやりたいことができてること自体が心の支えになっているので、楽しもうという気持ちは忘れないようにしています。

就職する時に、自分がなぜ漫画やアニメ、映画、ゲームが好きなのかを考えたんです。それらは現実とは違う世界や魅力的な物語で、自分に潤いを与えてくれる存在でした。中でもゲームは、コントローラーやゴーグルでを使いその世界に一歩踏み込むことができるとともに、コミュニケーションツールになるという、ほかにはない魅力があります。自分の人生が楽しいな、と思わせてくれたゲームという媒体に対して、少しでも貢献できるように会社の業務をしたり、プライベートでのものづくりを続けていきたいなと思っています。

――では最後に、芸工大へ進学を考えている高校生にメッセージをお願いします。

前田:大学進学は、自分の将来に関わる大事なポイントです。その上で芸工大などの美術系大学を選ぶ方は、自分はこれが好きかもしれない、というものがあって志望しているのかなと思います。そんな皆さんに意識してほしいのは、好きなことに対して「なぜこれが好きなの?」という問いをもってひたすら考えてほしいということです。それを少しずつ言葉にできたりすると、自分の未来への方針が立ち、仕事にしようという決断も、もしかしたら仕事にはしないという決断もできるのではないでしょうか。僕自身、芸工大の映像学科という空間で学び、考え、悩んだ結果今があるので、4年間、自分自身を深掘りしてほしいなと心から思います。

株式会社カプコン 前田寛人さん ストリートファイター6

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アニメや漫画、映画、さまざまな映像作品を「好きだ」と感じる心の根幹を見つめ、ゲーム業界に入った前田さん。好きなこと、表現したいことの本質を捉え、伝える努力を続けてきたことが、現在につながっています。多くのプロフェッショナルとともに仕事をすることで成長し、たくさんの子どもたちが夢中になるゲームを、世界に届けてくれることを期待しています。

(取材:上林晃子、入試広報課・土屋)

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東北芸術工科大学 広報担当
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