コンセプトは、誰かのための何か、をデザインする人。小さな「困った」をすくい上げることで、きっと世界は豊かになる/カベミミデザインズ デザイナー・卒業生 庄司拓郎

インタビュー

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「モノ」として完成することの価値と喜び

――はじめに現在のお仕事内容を教えてください

庄司:フリーランスデザイナーとして、主にデザイン開発事業と、部品の再生や製作事業に取り組んでいます。起業するまでの9年間は、スズキ株式会社のデザイン部でクレイモデリングと3D CAD(3次元コンピュータ設計支援)の業務に従事してきたので、その経験を生かしながらという感じですね。近距離モビリティを製造販売している企業様へ技術協力したり、大学の産官学連携プロジェクトに参加して自動運転車の開発をしたり、電機メーカー様のCADモデリングアドバイザーをしたりと様々な依頼をいただいてきました。

それから、前橋工科大学の工学科や金沢美術工芸大学の工芸科で、非常勤講師としてデザインの授業を担当させてもらっています。芸工大でもゲスト講師として授業を行うこともあります。前橋工科大学では学生と一緒にALSや筋ジストロフィー患者の方へ向けた杖を研究しているのですが、学生研究だと立体化する時のモデルのコントロールや、実際に使用できるだけの強度を持った試作モデルの作成がなかなか難しくて。そのため私の方で実際にデータを作りながら、FRP(繊維強化プラスチック)の張り込みと複製、塗装などを行っています。杖先のゴム部品も3Dプリンタで作ったパーツをシリコンゴムで複製して、実際に作ることができるかどうか確認しながら量産化していくという流れですね。そのように試作まで全部任せてもらえるというところをずっと目指してきました。

カベミミデザインズ 庄司拓郎さん 芸工大でもゲスト講師として授業を行う
芸工大でもゲスト講師として授業を行う庄司拓郎さん。

――3Dプリンタを使えることが大きな強みになっているわけですね

庄司:そうですね。私は「くるまマイスター検定」の1級を所持しているクルマ好きなんですが、例えば3Dプリンタでできることとしてクルマの部品の復元があります。クルマに使われているプラスチックの部品というのは、長く時間が経つとどうしても折れて壊れていってしまうんですね。それを救いたいという思いから、3Dプリンタでの部品再生に取り組んでいます。またコロナ禍において、3Dプリンタを用いてフェイスシールドのフレームを作るプロジェクトにも参加しました。私のスタジオではトータルで4000本くらい作って、全国の医療機関やお付き合いのある学校さん、また美容師さんなどに届けさせてもらいました。そんなふうに歩行支援だったり医療支援だったり、誰かの「困った」のために私はデザインして生きているんだなというのを最近すごく感じますね。

カベミミデザインズ 庄司拓郎さん 3Dプリンタで作られた部品
3Dプリンタで作られた部品。細部まで精巧に造形できるのが強み。

――庄司さんの中では、不特定多数の人たちのためというよりも、小さな声を拾い上げてその人たちのためにデザインしていきたいという感じでしょうか?

庄司:そうしていかないと世界って豊かにならないと思うんです。困った人は切り捨てる、みたいな世の中を何とかしたいなって。当然、何百個、何千個と売れるものであれば大手メーカーさんが製品化していきますよね。でも、例えば電動車椅子は自動車のように月に何万台も売れるわけではない。だからこそ、そういったものづくりに取り組んでいるベンチャー企業さんの心意気に私は賛同するというか。

ものを作るって誰にでもできることではないからこそ、それをできる人間がここにいて、そこに「困った」という声があるなら、その希望に応えてあげたいといつも思っています。「誰かのための何か、をデザインする人」というのがカベミミデザインズのキャッチコピーです。

カベミミデザインズ 庄司拓郎さん 一貫して「誰かのために」デザインをすることが軸に。
一貫して「誰かのために」デザインをすることが軸になっているという庄司さん。

――このお仕事のどんなところにやりがいを感じますか?

庄司:やっぱり、ちゃんとした「モノ」になるところですね。作ったデータが実際に立体になっていって、それがクルマだったら最終的に乗れる、動かせる。価値を持つのはあくまでも製品になった「モノ」だと私は思っています。そういう意味では試作品のモックアップモデルには価値はなくて、たとえ完成までのプロセスに多くの時間を費やしたとしても、それは使う人に伝わるものではないんですよね。よく、余計なコストをかけて「人が気付かないところに気合い入れました!」っていうデザイナーさんがいたりしますけど、それで製品の単価が上がってしまったら何の意味があるんだろう?って結構シビアに考えていて。

――仕事としてやっていく以上、確かにコストについて考えることは大切だと思います

庄司:そういうコストに対する考え方や価値観、そして今の自分のデザインにおける技術と知識は、スズキ株式会社に入社して学ばせてもらったものです。ご存知かもしれませんが、スズキという会社は前会長のユニークな会社経営と厳しいコスト管理で有名な会社です。そのような会社でデザイン開発に携わり、クレイモデリングを学び、3DCADを学び、設計要件や厳しいコスト管理を学び、優しく育ててもらいました。近年は私が3DCADの授業をしているので彫刻コースでもCADに触れる機会がありますが、私が学生だった頃はCADの授業はなかったので、入社してから教えてもらった技術です。他の会社に入社していたら今の自分はなかったと思いますし、一人でなんでもできるようにはなっていなかったかもしれません。そこで学んだCAD技術で講師をしていることを考えると、スズキに入らなかったら今の自分はなかったな…と最近よく思いますし、スズキ株式会社には退社した今でも本当に感謝しています。その一方で、クレイモデラーはモノを作ることに特化しないといけない仕事なので、彫刻コースで学んだ技術が別業種であるデザインの現場でも活かされていたと感じています。

自由に学べたからこそ育まれたバイタリティ

――そもそも芸工大の美術科彫刻コースを選んだ理由は?

庄司:高校の時に美術の授業を選択したんですけど、粘土で動物を作っていたら、その時の美術の先生に初対面でいきなり美術部に入ることと美大に行くことを勧められて(笑)。ちょうど入っている部活もなかったので、「じゃあ、やってみます」って言ってそれがスタートになりました。その後、進学先をどうするか考えていたら、その美術の先生が芸工大の彫刻コースのことを教えてくれて。もちろん都内の美大も見に行ったんですけど、なんだかすごく狭く感じたんですよね。ここで作業できるのかな?って疑問に思ったというか。なので芸工大に初めて行って、池の前のあの広い空間を見た時、「あ、俺はここに入学するんだな」って思えてすぐに気に入りました。

彫刻コースの学生としては全然優秀じゃなくて、漆芸とか日本画とか版画の先生には「君、筋いいね」ってほめてもらえることも多かったんですけど、彫刻をやるにはちょっと繊細すぎたみたいです(笑)。でも彫刻の保田井智之先生がずっと面倒を見てくれて、「別に彫刻じゃなくてもいいから、モノを作ることに興味を持ってそこに特化していけばいい」ということをずっと言い続けてくれていました。

カベミミデザインズ 庄司拓郎さん 思い出の金属アトリエにて
思い出の金属アトリエにて

――特に思い出に残っていることは?

庄司:やっぱり自由にやらせてもらえたことが一番大きいですね。保田井先生も「こういうのは彫刻作品じゃないけど別にいいんじゃない?面白いから作ってみなよ」って言ってくれたりして。3年からは金属彫刻を専攻したんですけど、プロダクトデザイン学科にいた仲のいい学生たちが「課題で金属の縁が必要だから作ってほしい」とかいろいろ発注してくるので、それを外注として請けていました(笑)。その頃から、自分で何かを作りたいというよりもそうやって人に依頼されて作ることの方が楽しくて、それが今もずっと続いている感じですね。

――今後、何か挑戦してみたいことはありますか?

庄司:世の中は今、EV(電気自動車)にシフトしていますよね。私自身も電動アシスト自転車に乗っていたり、また自動運転EVの開発プロジェクトに参加していたりと電気に関わる機会は多いので、小さい電気自動車を買って生活の中で実際に使ってみようと思っているんですが、そこで圧倒的に困ったことがあって、どこで買ったらいいかが分からないんです。私が今住んでいる埼玉県本庄市の本庄早稲田区域というところはいわゆるスーパーシティ構想の対象区域で、自動運転の研究ができるように道路が整備されているんですね。そういう場所にオフィスがあるわけですから、その中でEVの正規販売代理店みたいなものを持てたらいいなと考えています。実際に試乗体験できたり、あと商談ルームも設けて、海外製のものと日本製のもの、さらには自分が携わったものも扱えたらな、と。そして、そこでデザインの開発までできたらすごくいいですよね。そんなふうにEVシフトに対して私ができることを世の中に提供していけたらと思っています。

カベミミデザインズ 庄司拓郎さん CADデータの一部作成を担当したWHILL株式会社の近距離モビリティ
“Product Designer Masahiro Toriyama,Hiroyuki Tsukamoto(WHILL.inc)”

CADデータの一部作成を担当したWHILL株式会社の近距離モビリティ「WHILL Model F」(左)、「WHILL Model C2」(右)

――最後に、これから芸工大を受験する後輩たちへメッセージをお願いします

庄司:芸工大で学んでみて感じたのは、何を学んでも無駄にはならないということ。今はプロダクトデザインを仕事にしていますが、彫刻コースで学んだことが身になったからこそ今があると思っているし、そもそも何を選んでも間違いなんてないと思います。そこで学べるものを一所懸命頑張ることは絶対に将来につながってきますから。そして、学びの場というのは何も学校だけではなくて、普段の生活やバイト、言うなれば生きるすべて、行動すべてが学びなんですよね。だから学びを止めないこと、考えるのを止めないことを大事にしてほしいと思います。

カベミミデザインズ 庄司拓郎さん 熱くお話をする庄司さん。

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彫刻コースで手を動かすことにより習得したアナログな技術と、社会人になってから身に付けたデジタルの知識。その両方が、デジタルモデラーでありクレイモデラーであり、そして3Dプリンタを用いて設計までを行う庄司さんのハイブリッドなお仕事を土台から支えていると感じました。

また今回紹介したお仕事以外にも、コピーライティングを手がけたり、山形にある築120年の古民家を体験型シェアハウスとしてリノベーションするなど、多岐にわたり活躍されている庄司さん。今後も目が離せません。

(取材:渡辺志織、入試広報課・須貝、土屋)

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東北芸術工科大学 広報担当
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