プロダクトデザイン学科の卒業生、阿部真也(あべ・しんや)さんは、2017年に日産自動車株式会社に就職。カーデザイナーとして活躍しています。夢を引き寄せた学生時代の学び方と、カーデザイナーのお仕事についてお聞きしました。
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カーデザイナーの夢に一歩ずつ近付く、実践的な学び
――在学中は「カーデザインをやりたい」という意識が特に強い学生だったとお聞きしています。いつ頃からカーデザイナーの夢を抱いてましたか?
阿部:カーデザイナーという仕事を知ったのは大学に入ってからです。入学前から車に興味はあったのですが、高校生の頃は、ものを考えたり作ったりすることが好きで、漠然とプロダクトデザイナーになりたいとだけ考えていました。宮城県仙台市出身なので、東北でプロダクトデザインを学べる大学に進学したいと考えていたのですが、芸工大には、いろいろな企業でプロダクトデザイナーとして働いている卒業生が多くいることを知ったことが決め手になりました。
――大学では、どのようにプロダクトデザインを学んでいったのかを教えてください
>阿部:1年生の頃から、車に限らず家具やグラフィックなど、いろいろなジャンルの知識と技術が身に付けられました。企業との産学連携の授業があって、アウトドアメーカーのコールマンや、自動車メーカーでは2年次にスバル、3年次にはダイハツの課題に取り組みました。スバルの授業では、デザイナーである社員の方々から直接教わりながら、クレイモデルを実際に自分の手で作ることができたのが良かったですね。学生ではなかなかできない経験だったと思います。
――大学と企業が連携して実践的な学びの場を提供してくれるんですね
阿部:そうですね。どの企業との授業があるかは企業側のタイミングにもよりますが、自動車以外の企業とも一緒に産学連携する機会があって良かったなと感じています。プロダクトデザイン学科には、1年生のときから家具、家電、空間など、それぞれの分野でプロダクトデザイナーを目指している人がいて、みんなライバル意識がすごく高いんです。課題や制作で、誰かが何かいいアイデアを出したり、いい見せ方をすると、すぐにそれを超えていこうとする。みんな一番を取りたがって、バチバチと火花を散らしているんですね(笑)。それが全然、嫌味でなくて、すごく楽しかったです。そうした環境でプロダクトを学べたことが僕にはとても有意義でした。
また、教授との距離が近くて、学生に合った学びの機会を用意してくれたり、就職のアドバイスやサポートをしてくれたこともありがたかったですね。さらに先輩との距離も近いので、自分が求めている情報やスキル、そしてやるべきことが常に見える、将来のデザイナーとしての方向性を模索するに十分な情報がたくさんある環境でした。自分で動いたら動いた分だけ、全てが経験になって、結果その経験が自分自身にとっての財産になるので、大学は自分の目標に近付くための道を作っていく場所なんだと感じていました。
――授業だけでなく、課外活動の「モビ会」にも参加し、リーダーを務められたそうですが
阿部:はい。カーデザイナーを目指す学生有志が集まって、放課後にスケッチなどの練習しているのが「モビ会」です。
僕の1つ上の学年にはカーデザイナー志望がいなかったんですね。だから、1年生のときから3、4年生の教室に行って「スケッチを教えてください!」と頼みに行って、必死になって教えてもらいましたね。
僕が3年生のときには、もう上の学年にはカーデザインを教えてくれる人がいなかったので、部長になって後輩に教えながら自分も勉強していました。今、デザインセンターにいる後輩たちは、みんな歴代の部長経験者なんですよ(笑)。僕が入社したときは先輩が一人もいなかったので、後輩が続けてデザイナーとして入ってくれているのは、すごくうれしいですね。
歴史的な名車とイノベーションが生まれる場所で成長
――現在の仕事内容はどういうものですか?
阿部:今は、インテリアデザイナーとして車の内装をデザインする仕事をしています。カーデザインは、外装はもちろん、インテリアについても、ステアリング、シート、インターフェース、たくさんの小さなパーツも含めて、目に見えるところ、触れるところ全てをデザインします。絵を描くのはもちろん、実際にデータを取り、モデルを作って何度も検証します。スケッチを描いて世界観やテーマを提案するだけでなく、実際に使用する素材やパーツの細かな合わせ方、質感、色味、使い心地、乗り心地、そういったものを含めて考えながらデザインするので、とても難しいです。でも、そこにすごくやりがいを感じています。
インテリアデザインについては、大学では学ぶ機会がなかったので、何も分からない状態からのスタートでした。全て初めてのこと、勉強しながら仕事をしていますが、分からないところは周りの先輩が教えてくれますし、実車を見て触れることで得られる気付きがあります。インテリアのパーツは人が触るところが多いので、ただかっこいいだけではダメなんですよ。シフトノブだったら、握り心地だったり、スイッチの押しやすさだったり、人間工学に基づいた厳しい設計基準をクリアしたデザインが要求されます。そういうところが難しいのですが、仕事をする度に、どんどん知識や経験が増えていく実感があり、面白いです。
――仕事をする上で大切にしていることは?
阿部:日産はひと言で言うと、自由な会社です。熱意があればチャレンジする機会をくれる。例えば「この国に行って、こういうものを見てみたい、経験してみたい」と希望すればチャンスをくれますし、「今までにはない、こういうデザインを創ってみたい」と言えば「やってみよう」と応えてくれます。こちらが熱意と理由、意味をしっかり伝えれば承認され、実現可能に向けて動くことができるんです。反対に受け身で仕事をしていると誰の印象にも残りませんし、仕事もまわってこなくなるので、なるべく自分から動き出すことが大切だと思っています。熱量を持ってアクションを起こしていくことが大切です。
――決められた仕事をこなす感じではないんですね
阿部:会社にも評価基準があるので、あるレベルまでこなさないといけない部分はあります。ただ、最初からそこを目指しているとそこで止まってしまいます。会社の期待値を超えたとき、さらに評価してもらえるので、より高い目標を設定して動くようにしています。
――モチベーションになっているのは何ですか?
阿部:まだ4年目ということもあって、自分の仕事はまだ世に出ていないものも多いのですが、手がけている部品が最後までできあがったときに、モチベーションが上がるのを感じます。インテリアデザインとは別に、2019年の東京モーターショーに出展した「NISSAN REAF NISMO RC」のグラフィックデザインコンペティションで採用され、東京モーターショー会場やNISSAN CROSSINGで展示された時には、カーデザイナーとしてのやりがいを実感しました。
自動車の開発には4、5年かかります。今後、自分がデザインを手がけた車が、展示されたり、街を走っている姿を見たら、さらにやりがいを感じるんじゃないかなと思いますね。
やっぱり僕は車のデザインが好きなんですよね。インテリアの人間工学とスタイリングが合わさったデザインや、シートや小さなスイッチの形状、そしてエクステリアデザインも。自分の強い意向を表現して、きれいな美しいもの、面白いものをつくるカーデザインは、プロダクトデザインの究極とも言えると思っています。そして、車は風景の一部になります。人の目にたくさん映るプロダクトなので、それが自分の手で生み出せたらすごく面白いだろうな、とわくわくしています。
――今後、挑戦してみたいことは?
阿部:学生時代にさまざまなプロダクトを学んでいた頃から思っていたことですが、僕は時代や流行に流されないものをつくりたいんです。車で言えば、名車と言われるような車をつくりたい。日産には、フェアレディZ、スカイラインGT-R、シルビアなど、時代が変わった今でもかっこいいと思える車がたくさんあります。歴史的な車と先進的なイノベーションを起こせる車、その両方をつくれる会社なんですね。そういう会社にいて自分がデザインしたいと思うのは、自動運転などの技術が進化してライフスタイルが変わっても、記憶に残るような車です。先人たちが手がけたような名車がつくれたら、と思います。すごくドリーミーな感じですけど(笑)。
そのためには、まずは1台、自分で仕上げて自分の仕事としてやり遂げたいですね。あとは、現在はコロナ禍でなかなか難しいのですが、海外で生活しいろいろな経験を積みたいです。日産は海外にデザイン拠点があるので、実際にその土地に行き、自動車に乗り、現地の人と一緒に生活をして、その土地の文化や人の感覚をつかむ機会を得ることができます。そしてまた戻ってきたときに、自分ができることやアイデアの幅が広がると思うんです。
――これから芸工大を受験する後輩たちにアドバイスを
阿部:高校生のときに、自分が働いている姿は想像しにくいと思います。僕も「プロダクトデザイナーになりたい」とは思っていましたが、こうやって外国人がたくさんいるグローバルな環境で、英語を使って仕事をしているとは想像していませんでした。そういう想像できないところではあるんですが、少しでも自分が興味を持ちやりたいことがあるなら、それに近付いていくことが大事かなと思います。近付けばいつの間にか辿り着き、気付いたらそこも通り過ぎて、また新しい目標ができる感じです。そういうサイクルのなかで、好きな仕事ができるのはとても幸せなこと。皆さんにも、自分の好きなことを見つけてもらいたいなと思っています。
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プロダクトデザイン学科への入学を入口に、実践的な学びからカーデザイナーという夢を実現した阿部さん。産学連携の取り組みやインターンシップなど、さまざまなプロジェクトに積極的に参加した経験が、現在のお仕事につながっています。大学内だけでなく、社会とつながりを持ちながら学べる環境の有用性、自分の力でアクションを起こす大切さが分かるインタビューでした。
(撮影:永峰拓也 取材:上林晃子、企画広報課・須貝)
東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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