街の人の魅力をつなぐ場所を作りたい/櫛田 海斗(くしだ・かいと)建築・環境デザイン学科4年

インタビュー 2020.12.22|

建築・環境デザイン学科で学ぶ櫛田海斗(くしだ・かいと)さんは、山形市内の空き物件をリノベーションし、デザインやアートをコンテンツとして、人と人、場と場をつなぐ活動をこれまで展開してきました。

自分の感覚を大切にして、楽しい、やりたい、と思ったことは臆せずに行動に移してきたという櫛田さんの周りには、彼の人柄を慕って集まる仲間がたくさんいます。その仲間たちと、どのように場をデザインしてきたのかインタビューしました。

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出会った人たちと、場を作る

――リノベーションに興味を持ったのはいつ頃だったのですか?

高校から大学へ進学するタイミングで、古い建物を新しい視点で活用するリノベーションの考え方を知り、建築を学びたいと思って芸工大の建築・環境デザイン学科に入りました。

東北芸術工科大学デザイン工学部建築・環境デザイン学科で学ぶ櫛田海斗さん
東北芸術工科大学デザイン工学部建築・環境デザイン学科で学ぶ櫛田海斗さん

――建築を専門的に学びながらも、イラストや絵、店舗のロゴデザインなども制作されていますね

絵を描くことが好きで、制作した作品をSNSで発表していたら、徐々に店舗のロゴデザインの依頼を頂くようになりました。依頼者の中には一度も会ったことがない方もいますが、電話やメールでやり取りしながら、ショップカードやフライヤー、ロゴデザイン、Web用のマップなどを制作して、今もたくさんの場所で使っていただいています。

櫛田さんが手掛けた

――櫛田さんが手掛けるそうしたデザインは、人と場を出会わせるための手法となっていますね

そうですね。これまで取り組んできたイベントや、期間限定で運営していたギャラリースペースなどは、そうした場所で過ごす人たちが「どんな使い方をして、どんな空間を欲しているのか」に着目して、その場所を使う人と一緒に空間を作るようにしてきました。

大工の祖父と父が、現場で動きながら物を作っていく仕事を身近に見てきたこともあってか、あらかじめ自分が計画してしまうよりも、そこにいる人たちで意見を出し合って即興で生み出す環境が、自分に合っていると思います。

山形市内の空き店舗をリノベーションし、画廊としてオープンさせた「画廊10」
櫛田さんが仲間とリノベーションし、街なかの画廊としてオープンした「画廊10」(山形市)での活動風景。“楽しいという感覚”を自分たちでまずは感じるため、それぞれが食べたいもの、みんなに食べて欲しいものを持ち寄った。本学学生のほか、山形大学の学生、仙台の大学に通う学生たちも参加。(2020年2月)

行動をためらわないことも大切に

――日々の活動に、自分の得意なことや好きなことを、どのように生かしているのですか?

直感で楽しいと感じたことを忘れないようにしています。感覚的に自分が好きだと感じたものを見ることや作ることも積極的にしています。時々非現実的過すぎてボツになることもありますが、学科の課題やプロジェクトでアイデアを出す時も、「こんな事や物があったら楽しい」という視点から考え出すと大体うまくいくので、他の人がためらったりすることでも、まずはやってみることを大切にしています。

――アートを介して人と人が出会う仕掛けをつくる活動は、建築・環境デザイン学科の先生方や先輩たちからの影響もありますか?

僕が芸工大の建築・環境デザイン学科へ進学しようと思った理由の一つに、馬場正尊(ばば・まさたか)教授がいたことがあります。馬場先生は過去に、都内の空き物件を、期間限定でカフェやギャラリーにリノベーションするプロジェクト「Central East Tokyo」(略称CET)を開催しました。現在僕が行っている、街と人とのつながりをつくる「術ノ街プロジェクト」のヒントにもなっています。

※山手線の東京、神田、秋葉原あたりの東側一帯の空き家や空き物件をリノベーションし、寂れた問屋街に小規模なショップ、カフェ、レストラン、ギャラリーなどを集積するきかっけをつくったプロジェクト。

〈術〉を持つ人たちとの出会い

――そもそも、街の人々をアートでつなげたいと思うようになったのはどうしてですか?

そして今度は僕自身が、その人の持つアートやデザインなどの「術」を通じて何かできないかと考えるようになりました。人が集まりやすい中心市街地に、実験的に「画廊10」(山形市十日町)を設置し、芸術、技術、街をつなげるための「術ノ街プロジェクト」をメンバーと共に立ち上げました(2020年2月8日〜30日)。

その後、2020年9月にはこの「画廊10」を「アトリエテン」と改称して作家のアトリエとして機能させつつ、もう一つの物件「大原マンション」(山形市十日町)も借り受けて、同時に展示・オープンアトリエを行いました。コロナ禍ではありましたが、たくさんのお客様にご来場いただきました。

作品を展示する場所としてオープンした「画廊10」は、その後、アーティストが制作する「アトリエテン」として機能させた
作品を展示する場所としてオープンした「画廊10」は、その後、アーティストが制作する「アトリエテン」として機能させた。普段見ることができないアーティストの作品制作風景を覗くことができた。/撮影:映像学科2年 柏倉流生
東北芸術工科大学 櫛田さんが企画・運営していたもう一つの場所、通称「大原マンション」
櫛田さんが企画・運営していたもう一つの場所、通称「大原マンション」。美術科日本画コース2年の保住朱里(ほずみ・あかり)さん、グラフィックデザイン学科2年の江沼美佑紀(えぬま・みゆき)さん、コミュニティデザイン2年の野内杏花里(のうち・あかり)さんの企画展示を実施した時の様子。/撮影:青山京平

街に溶け込み、自らが住人の一人として

――そうした活動は、櫛田さんにとってどのような経験となりましたか?

「画廊10」の時は、一人で運営していたので疲労がたまり白髪がたくさん生えてびっくりしました(笑) でも、街で一定期間活動を続けていると、街に溶け込めたような、住人の一人として「ここにいてもいいよ」と認めてもらえたような感覚になりました。

ギャラリーの前を通りかかる人たちが気軽に入ってきてくれたり、常連になってくださったマダムがいたり、小学生が学校帰りに遊びに寄ってくれたりもしました。中には「私の作品も飾ってほしい」と一般の方からもお声がかかることもありました。滞在アーティストと街の方々との交流も生まれ、街の中にあるオープンなギャラリーだからこそ人が集まりやすいのかなと思いました。

二つが連携してお客さんの流れを作ったり、運営に協力してくれた後輩、友人、アーティストやクリエイターたちの間に新たなつながりが生まれていたこともうれしい経験となりました。

東北芸術工科大学デザイン工学部建築・環境デザイン学科で学ぶ櫛田海斗さん

――来年度からは地元の仙台に戻られるそうですね

入社後は、各部署でいろいろな仕事を経験しながら、設計の視点と、それを形にするための大工的な視点を養い、将来的には、多くの方に直感的に「楽しい」と思ってもらえるような場を作りたいです。全国にはまだまだ素敵な「術」を持つ人がたくさんいると思うので、今後は他の場所でも「術ノ街」を立ち上げて楽しい場を作り続けたいと思います。

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場に集う人、協力してくれる人たちの思いを丁寧に形にしていこうとする櫛田さんの活動には、自らが企画者となって活動し得られた現場感覚があると感じます。臆せず行動することを大切にしている櫛田さんの今後の展開も楽しみです。
(取材:企画広報課・樋口)

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東北芸術工科大学 広報担当
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