なぜ、芸工大は教員採用試験の「現役合格率」が高いのか vol.2 /上坂涼乃(美術科工芸コース4年)

インタビュー 2020.10.28|

※進学猶予:大学院在学者・進学者に対する特例で、大学院在学や進学を理由に採用を辞退した者に対し、次年度以降の採用選考試験における特別選考の実施や採用候補者名簿登載期間の延長・採用の延期など、特例的な措置を講じるもの。

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たくさんの「教える」機会をとおして本気になれた

――関東圏にも美大や芸大はありますが、どうして山形(芸工大)に入ることを選んだのですか?

作ること、手を動かすことが好きだったのですが、進路で美大進学を考えていた時、関東よりも地方に目を向けました。私の地元の習志野市は、いつも人や情報が動いていて一人になりにくいというか、もっと静かなところでものを作ったり考える時間を作りたかったのかもしれません。

コロナ禍で試験に臨み、地元 千葉県の中学校・高等学校の美術教師および北海道の中学校の美術教師に見事合格した芸術学部美術科工芸コース4年の上坂涼乃(こうさか・すずの)さん

工芸という分野は、テレビの情報や家族からの情報で知りました。技術を使ってものを作ることに興味を持っていた頃に、幕張メッセで開催されていた大学入試説明会で芸工大のことを知って、実際に足を運んでみてこの環境がいいなと思って決めました。

――教員になろうと思ったきっかけはいつ頃だったのですか?

高校の時から大学に入ったら教職を取ろうと思っていたのですが、本気で教員になりたいと思ったのは、大学での教職課程の先生方の指導が面白く、県内の小学校の研究授業の見学や、大学として依頼を受けた金属工芸のワークショップなどで、実践の機会、対話的な機会がたくさんあって、机上の理論だけではなく、「教える」という現場を体験できたからだと思います。

コロナ禍で試験に臨み、地元 千葉県の中学校・高等学校の美術教師および北海道の中学校の美術教師に見事合格した芸術学部美術科工芸コース4年の上坂涼乃(こうさか・すずの)さん
工芸コース演習室にある自分の制作スペースで作品を制作する上坂さん。今は卒業制作を手掛けているそう。

仲間と思いを共有しながら、試行錯誤の試験対策

――専門課程と教職課程の両立で、毎日かなりの時間を制作と勉強が必要だったと思います

教員採用試験の勉強中は、8時から12時までの午前中は自習室で勉強し、午後12時から21時までは工芸コースの工房で作品を制作と、時間で区切って両立していたと思います。でも、制作をしているときでも教職を意識して、「自分が教師として教えるならこうしよう」「まだまだこういう点ができていない」というようなことも、並行して考えていたように思います。

――教職課程を学ぶ仲間たちとの雰囲気は、どのようなものでしたか?

教職課程専用の自習室は壁がガラス張りになっていて、教職を教えてくださる教授たちの研修室もすぐ近くにあり、先生方がいつも声をかけてくれる環境にありました。自習室に行けば、他の学生も必ずいたので、美術の知識や技術的なことで分からないことがあれば、他のコースの人に教わることもできました。

教職課程専用の自習室の様子
合格を目指す仲間たちとの勉強の跡。出題予測などを書き出した資料がホワイトボードを埋め尽くすように掲示されていた。

特に8~9月という時期は、就職活動をしている同級生たちの内定話が聞こえてきて、10月まで合格発表を待たなくてはならない教員採用試験を受ける者にとってはかなり焦りを感じる時期なのですが、このコロナ禍であっても、そうした焦る思いを誰かと共有できていたことが、精神的な支えとしてとても大きかったと思います。

教職課程専用の学習室に並べられた参考書と問題集の数々。学生たちが自由に利用できる。
教職課程専用の学習室に並べられた参考書と問題集の数々。学生たちが自由に利用できる。
コロナ禍で学生同士がリアルで会える時間が制限されるなか、合格を目指す思いと存在感を伝え合った。
コロナ禍で学生同士がリアルで会える時間が制限されるなか、合格を目指す思いと存在感を伝え合った。

――コロナ禍の影響で、試験対策で例年との違ったところや苦労したことはありますか?

先輩方からは、4~5月に集中して勉強を詰め込んで、6月の数週間を教育実習で経験値を上げながら、そのままの実習の勢いと達成感を維持しながら6月末からの採用試験に臨むと良いと聞いていましたが、このコロナ禍で教育実習は延期になってしまいました。

――どのように克服したのですか?

参考書を何冊かに絞って、繰り返し勉強して、自分に足りない部分の克服に努めました。何度も繰り返し問題を解くことで、見たことがない問題が出ても解くことができました。でも、合格したいという思いだけでは勉強は続かないので、実際に生徒の前に立つことをイメージしながら、技術的なものや人間的なものがまだまだ足りないと思うことでも自分を鼓舞していたように思います。

工芸コースの坂井直樹(さかい・なおき)准教授(写真左)。千葉県の教員採用試験は一次試験でデッサンが科せられていたが、コロナ禍で大学に行けなかったため、坂井准教授がオンラインで上坂さんのデッサン指導を行った。
工芸コースの坂井直樹(さかい・なおき)准教授(写真左)。千葉県の教員採用試験は一次試験でデッサンが科せられていたが、コロナ禍で大学に行けなかったため、坂井准教授がオンラインで上坂さんのデッサン指導を行った。

工芸コースでの学びがもたらしてくれたもの

――教職の先生方の指導は、上坂さんにとってどのような自信につながりましたか?

一つの理想像に私たちを近づける指導ではなく、学生のポテンシャルを見つけて伸ばしてくれました。他の学生たちと一緒にグループワークをしている時もそれぞれの学生の良さを認めてくれるので、そうした場で、互いの良さも自分の特徴も分かってとてもプラスになり、自信につながりました。

――専門での学びも生きていると教職担当の先生方はおっしゃっています

そうですね。例えば工芸コースの専門科目の制作時に、「何故その作品を作ろうとしているのか」「その素材なのか」「作品で何を伝えたいのか」というようなことを先生にプレゼンするなかで、自分を分析できる思考法を学んだように思います。

工芸コースでの4年間は、工芸的な技術を学んだだけではなく、社会に出た時にどう生きるのかというような抽象的な思考も経て自己肯定感が高まり、採用試験でもその姿勢を生かせた

高校では普通科だったので、美術の技術面では劣っているかなと思ったのですが、高校時代にサッカーをしていて体力には自信があったので、制作を頑張れましたし、失敗したことも受け止めてくれる先生たちがいたので積み重ねてこれました。

私はあまり人前に出たりもしなくて自分に自信がなかったのですが、工芸コースでの4年間は、工芸的な技術を学んだだけではなく、社会に出たときにどう生きるのかというような抽象的な思考も経て自己肯定感が高まり、採用試験でもその姿勢を生かせたと思います。

――学外の人や地域をフィールドにした関わりからも得られるものがあったようですね

山形市内の小学校での研究授業やワークショップ、その他にも、毎年本学を会場に開催する卒業制作展を観に来てくれる中学生たちを見学ツアーで案内する機会もありました。また、天童市にあるホテルの中庭のイルミネーションを、予算をいただいて制作するお仕事でも、普段なら自分が納得すれば良い作品ということになってしまうところを、「社会に出す作品はどうあるべきなのか」を考える機会となりました。

普段なら自分が納得すれば良い作品ということになってしまうところを、「社会に出す作品はどうあるべきなのか」を考える機会となった

――「教えること」を今後どのように実践していきたいですか?

生徒たちにほんの少しだけ手を差し伸べたり支援するだけで成長する姿が私は好きなので、子どもたちとのリアルな教育現場ではうまくいくことばかりではありませんが、自分を分析したり、学んで成長できたプロセスを、今度は子どもたちの成長プロセスにも生かしたいと思っています。

自分を分析したり、学んで成長できたプロセスを、今度は子どもたちの成長プロセスにも生かしたい

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教職課程を教える渡部泰山(わたなべ・たいざん)教授は、本学の教員採用試験の「現役合格率」が高い理由について「地域をフィールドに学ぶ芸工大の教育方針が、学生たちに自分の社会における立ち位置や役割を自覚させ、自己肯定感を醸成し、2次試験で試される“総合力”や“人間力”で最終的な評価順位を上げていく」と話します。

今回のインタビューでも、コロナ禍で特に必要だったタイムマネジメントの他にも、上坂さん自身が自分の成長プロセスを客観視する力と、それらをこれからの教育現場に生かそうとしている思考力を感じました。
(取材:企画広報課・五十嵐、樋口)

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東北芸術工科大学 企画広報課
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