三内丸山遺跡「子どもの墓」遺構内における水分変化に関する解析研究
嵯城花佳
保存科学ゼミ
全国各地で発掘される遺跡の中で、その場から移動できない人類の活動した痕跡を、遺構という。これらの遺構は、人々や後世に歴史を伝える手段として保存・活用されている。遺構はその場から動かすことができない以上、外環境と地続きになったまま、保存・活用が図られる。しかし、そのような状況では遺構の劣化要因の侵入を許すことになる。特に、遺構の劣化の大半は土中の水分量変化によるものであり、これを把握し制御することが重要となるが、複雑に絡み合った土中の水分を把握することは難しく、全ての遺構に有効な調査方法や保存対策案は提唱されていない。
そこで、本研究では、実際に水の浸み出しが起こっている青森県青森市に所在する三内丸山遺跡の子どもの墓遺構(図1)について、遺構の水の浸み出しの要因や過程、保存対策案について解析を行い、遺構に対する解析の一例となることを目指した。研究方法としては、子どもの墓遺構で起こる、年に数回、保護施設(図2)に覆われている公開遺構面の窪みに水が溜まる(図3)という問題を対象とし、①遺構周辺のどのような環境要素が水の浸み出しに関係しているのかを知るための環境調査、②遺構に浸み出る水と気象による水分供給との関連性を知るための遺構面の観察と気象調査、③遺構周辺土壌の水分移動に関する特徴について知るための計測・解析、④遺構に水が浸み出る過程について知るためのシミュレーション解析をおこなった。
①②の調査や観測結果から、保護施設の外から、夏季には降水が、冬季には積雪と気温上昇による融雪水が浸透することで、遺構土部分の地下水位が上昇し、遺構土に水の浸み出しが生じていると考察した。この考察を実証するために、年間を通しての地下水位の変動を、地盤内水分移動解析プログラム(HYDRUS2D/3D)を用いて解析をおこなった(④)。その結果、前述した考察のとおり、降水および融雪水の浸透が、遺構土部分の地下水位の上昇を示す結果を得ることができた。なお、解析に用いた土の透水係数および水分特性曲線は、それぞれ、飽和透水係数測定装置(KSAT)と水分特性曲線測定装置(HYPROP)を用いた(③)。これらを受け、保存対策案としては遮水壁の設置など、地下水位を下げる方法が有効だと考える。今後は、シミュレーションや解析を通してより効果的な保存対策案を提示することを目指す。