山形市内に現存する石鳥居群の劣化特性に関する比較研究
早坂峻一
山形県出身
保存科学ゼミ
東北芸術工科大学文化財保存修復研究センターでは、平成17年度に行われた石鳥居群の調査から現在に至るまでに、山形市内に現存する元木の石鳥居の調査研究が行われてきた。山形市には元木の石鳥居の他に成沢八幡神社の石鳥居(成沢の石鳥居)が現存しているが、劣化状態の調査や保存処理などはほぼ手付かずの状態だった。本研究では、成沢の石鳥居に関する本格的な調査研究に向けての現状調査、気象分析を行い、周辺環境、劣化状態について元木の石鳥居との比較研究を行った。
令和3年8月19日(木)に成沢の石鳥居の現地調査を行う際、SfM-MVSを用いて成沢の石鳥居の三次元モデルを作成し、過去に作成された元木の石鳥居の三次元モデルも用いての比較を行った。この手法を用いることで、間近での観察が難しい部分の状態も詳細に観察することができるようになった。本研究で作成した成沢の石鳥居の三次元モデルは、これからの成沢の石鳥居に関する研究はもちろん、未来の成沢の石鳥居との状態の比較としても活用できるだろう。
元木の石鳥居との劣化状態の比較研究と気象分析では、元木の石鳥居は正面西側が、成沢の石鳥居は背面北側の劣化が進行しており、劣化の進行具合としては、成沢の石鳥居の方が元木の石鳥居よりも比較的状態は良いように見えた。片面のみ劣化が著しく進行していく原因としては、過去の研究から元木の石鳥居は北西の風による雨雪の影響を受けていることが確認されており、元木の石鳥居では正面西側が、成沢の石鳥居では背面北側が劣化しやすいと考えられる。また冬季間では凍結融解現象が、それら以外の時期では乾湿によるスレーキング現象が起きている可能性が明らかとなった。同じ材質の凝灰岩が使われているにも関わらず、劣化の進行に差が出る原因としては、石鳥居の周辺環境が関係していると考えられる。
本研究では行うことが叶わなかったが、成沢の石鳥居周辺にデータロガーを設置しての気象分析、CADを用いた2基の石鳥居の損傷率の計測、2基の石鳥居に付着している地衣類の同定、元木の石鳥居と同様に針貫入試験や音響トモグラフィーによる構造調査など、2基の石鳥居に関する研究はさらなる進展が期待できる。