歴史遺産学科Department of Historic Heritage

マスクという仮面 ―多様化するマスク利用と文化的機能―
石橋航太郎
山形県出身 
松田俊介ゼミ

目 次 はじめに/概要/先行研究/調査/考察/終わりに

本研究では、「マスクで顔を隠す行為」を主題とした研究である。しかし、マスクについての研究は、専ら心理学分野が主であり、文化人類学的視点からの研究はあまり十分には行われていなかった。そこで、文化人類学および民俗人類学で盛んに研究がなされていた、仮面に着目し、マスクと仮面の関係性と、マスクが今後担っていくであろう文化的機能について、先行研究と調査を交えて考察したものである。

仮面とマスクについての先行研究とマスクについての調査を経て、仮面とマスクの多くの類似点を確認することができた。顔の表面に意味を発生させる仮面と価値観や人生目的を表明するマスク。また、おしゃれマスクなどは自分の顔の表面を変更しているという側面もある。そして、秘儀性や変容性を持って、自然体の自分や自分の属性、名前を隠す仮面と、顔を隠し、自信のない自分を隠すマスク。また自己をよく見せ、本当の自分を守るために着けるマスク。これらの類似点からわかることは、現代の我々にとってマスクは仮面の一種であるということである。

しかし、仮面とマスクの相違点も見えてきた。それは、特定の人間、もしくはハレの場にしか着用を許されなかった仮面の神聖性と、一般的に普及し、現在多くの人が日常的に着けることができるマスクの遍在性の違いである。マスクは仮面と異なり、一般の大衆に普及した。そのことにより、仮面とマスクの間に決定的な差異が生じた。それは、マスクがファッションとして発展し、豊かな多様性を獲得した点である。マスクははじめ医療用として開発され、発達してきた。しかし、マスクはいつしか顔を隠すという機能を期待され、用いられはじめた。だてマスクという言葉が使われはじめた2010年代前半が顕著な転換点だと言える。そして、このマスクの利用目的の変化は新型コロナウイルスが流行し、マスク着用を強いられる現状で、曖昧にぼやけている裏で皆が気付かないうちに急速に進行していった。

コロナ禍はマスクを遍在化させただけでなく、多くの利用目的をもたらし、文化的機能に変化を与えた。この変化のただなかに生きる我々は、マスクに対する無自覚な意識変化を認知し、マスクと適切な距離感で付き合っていく必要がある。