FRP素材を主とした屋外現代アート作品の紫外線劣化と実地調査に関する研究
川島帆乃夏(芸術文化専攻 保存修復)
茨城県出身
保存科学ゼミ
今日、我々の身の回りにはプラスチックが溢れている。日常に溢れている「素材」であるからこそ、プラスチックは美術作品、特に近現代以降の美術作品の素材としても使用されてきている。プラスチック作品の劣化や損傷の例がある一方で、筆者が調べた限りでは現在、日本ではその保存や修復方法に関する研究は依然進んでいない状態である。従って本研究では、試験的にプラスチックの劣化現象の要因と影響の度合いを調査し、美術作品の素材としてのプラスチックの物性を把握することで、作品の保存に対する情報を得ることを目的とする。
屋外作品の劣化を主として想定し、美術作品の素材として使用されていると仮定したプラスチック試料に紫外線を照射して強制劣化させ、その変化を分析した。変化に生じる差異を確認するため、屋外と屋内それぞれの環境下で曝露試験をした。分光色差計により分光反射率の変化を、デジタルマイクロスコープにより表面の状態を観察した。化学構造の変化に関しては、フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR分析)による構造分析で評価した。(図1)また、プラスチック作品が置かれている現状を把握するため、実地調査をした。
曝露試験において、全ての試料で変色が起きていることを確認した。(図2)積算紫外線量から、実際のプラスチック作品はより紫外線による影響を受け劣化していると推察した。(図3)
実地調査では主に、塗装に関する損傷が問題になっていることが判明した。剥離・剥落の他、変色による美観の低下が起きていることが分かった。また、物理的な鑑賞者との接触による衝撃や荷重等によって、亀裂やひび割れが生じることも確認した。以上を踏まえて、近現代美術作品の展示、保存、修復方法に関しては、作品がもつ特性や機能、表現を失わないよう折り合いをつけつつ検討していくのが重要であると考えた。
今後の課題として、FRPと塗装の劣化関係に関して、加えて凍結融解劣化の可能性を踏まえた水との因果関係について、調査研究を進めていく必要がある。本調査のみでは事例が少ないため、更なる実地調査を要すると考える。プラスチック作品の保存修復を考えるうえで、今後様々な種類のプラスチックに関しても本分野で調査研究を進めていくことが、必要な課題である。