大学院Graduate School

環境から得られるGift-美術教育における格差と環境の重要性-
木田実希
青森県出身
吉田卓哉ゼミ

 本研究では美術教育における格差を研究した。教育全体の格差は先行研究で示されているため、本研究では、「美術教育においても格差はあるのか」「どうしたら是正されるのか」と問いを立て研究を進めた。その結果、美術教育においても格差はあり、その是正には公教育の整備が必要だという結論に至った。
 先行研究で美術における地理的な地域格差、ジェンダー格差、美術教育の機会格差が示されている。1つ目は美術博物館、美術教員採用、美術の教員免許が取れる大学は制度としては一律だが、地域差がある事だ。2つ目は芸術文化の教育は女子に志向される傾向があり、現代日本の美術大学は女性比率が高いが、職業では一変する。美術教員は中学高校までは男女差はほぼないが、美術大学の女性教員は圧倒的に少なく、美術館の学芸員は女性が多く、館長は男性が多いという差がある。教育は志向されるが、職業に結び付ける事、キャリアを築く事に繋がっていない。3つ目の美術教育は、私教育である美術予備校の数に地域差がある。また大学毎で学生の予備校経験の有無に差があり、出身地や親学歴も関わる。
 先行研究が示す格差が、美術系大学の学生を対象とした本研究アンケートでも確認できた。それはSocio economic Status (社会的背景 通称SES)、地理的な地域格差、文化資本格差だ。(図2)(図3)教育サービスは教育熱が高い地域に集中する(松岡2019)ため、私教育では格差是正に繋げる事は難しい。では現在、公教育の美術教育はどうなっているのか。山形県と宮城県の中学、高校の美術教員を対象とした本研究アンケートから、学校間で美術教員の雇用形態、教室環境、予算等で差がある事が分かった。これらの事から美術教育における格差是正には公教育が重要であり、この整備が必要と言える。
 本研究のアンケートで、その人にとって「美術」が唯一差異化・卓越化の可能性であった内容の記述が確認できた。例えば「これしか誇れるものなかった」「周りと同じレベルの大学に行ける学力がなかった」等だ。これは芸術が社会階層の中で自分自身を差異化・卓越化させる行為(ブルデュー1990)と関わる。美術を含め芸術全般に 時代超越的で社会階層横断的な側面がある。芸術は評価軸を複数持っているため、違う軸に自分を移す事で、それまでの辛い状況から抜け出すツールになりうる。だとすれば、SES(社会的背景)が低い生徒が唯一受けられるであろう公教育が重要であり、整備がきちんとされるべきだ。

図1.修了展示風景

図2.SES(社会的背景)格差

図3.文化資本の格差