大学院Graduate School

日中装潢の歴史と変遷
康鑫(芸術文化専攻 保存修復)
中国出身
東洋絵画修復ゼミ

目次 第一章 装潢に関する基礎研究/第二章 装潢様式の起源/第三章 日中掛軸様式の変遷/第四章 装潢に関する典籍の研究

 漢字の発明と伝播に伴い、東アジアを主体とした漢字文化圏が形成された。文化の運び手としての文字の伝播に伴い、国や地域間の交流も盛んでいた。「装潢」という技術もほかの文化と同じように、漢字文化圏に流通しており、各地の風習と融合し、地域の特徴を持つ多様な技術となっていった。この技術は中国発祥で、朝鮮半島、日本またベトナムなどにも伝播し、発達を遂げた。装潢技術はその発展につれて、単なる書画作品に対する保護手段としてだけではなく、書画芸術の一部分となっていった。私たちは、装潢修理作業を行う前に、この技術の歴史に基づいた基準を明確にするべきである。
 本研究では、絵画作品と典籍を中心に、中国と日本における装潢の起源と変遷を検討し整理する。
 装潢という伝統的な技術の発生は、ある時代に突然出たわけではなく、書写習慣、美術審美、宗教信仰や社会生活などの影響を受けてから徐々にできたことである。装潢技術の歴史を明確化するために、「装潢」という名称の由来と各時代に使われた類語を明確するのは重要である。日中両国における装潢の用語と技術の変化を検討してから、装潢の起源も再考した。文献資料と作品に基づいて、掛軸は屏風から外されたものという可能性があり、屏風に起源する可能性があるという仮説を立てる。各時代の装潢様式を振り返ることにより、日中装潢の歴史と発展の筋を整理することができた。書画の装潢が時代と地域により特徴があるため、装潢の様式や材質から書画を鑑定することに参考になれると思われる。
 装潢技術は長い間に基本的に口頭で伝われていた。当時の装潢技術を知るには、散見される書論や画論を頼る他ない。装潢に関する最も古い記録がある『歴代名画記』の内容を基に、装潢の起源と早期の形式を整理する。さらに、初めて現れた装潢の諸経験を集め、中国の装潢の歴史において屈指の地位を占めている『装潢志』を研究する。
 装潢は千年以上の歴史を持っている伝統的な技術として、実用の目的から生まれ、絵画芸術における不可欠な一部分になってきた。装潢に関する歴史と変遷を再確認するのは今まで伝われた装潢技術の参考とし、新たな技術への進路を開けると考えられる。