大学院Graduate School

善寳寺五百羅漢及び花巻人形から検討する近世末期から近代明治期における色材の共通性に関する研究
佐藤純一(芸術文化専攻 保存修復)
福島県出身
保存科学ゼミ

目次 思考編/データ編で構成

 文化財科学分野における本研究の位置は、作品の彩色箇所に使用された色材に関する研究(色材調査)である。それをふまえ、本研究の目的は2つある。1つ目は、先行研究をもとに、2019年度調査対象作品における「不明な点」を判明することである(目的1)。2つ目は、2019年度及び、2018年度調査対象作品に使用された色材について共通性を探ることである(目的2)。
 調査対象作品は、山形県鶴岡市にある龍澤山善寳寺五百羅漢堂に安置している像(A)及び、岩手県花巻市にある花巻市博物館所蔵の花巻人形(B)である。A及び、Bの全体数は500体及び、2000体を超えており、保存科学研究室では、2017年度から順次、色材調査をしている。本研究では、Aのうち17体、Bのうち5体の本体及び、剥落片に対して、機器分析をした。目的1のために、蛍光X線(XRF)分析、分光反射率測定、デジタルマイクロスコープ(DMS)観察、X線回折(XRD)分析、分析走査電子顕微鏡(SEM)観察をした。また、各結果を参考に、目的2のために、クラスター分析をした。
 各本体に対してXRFで431ヶ所を測定・分析後、剥落片20片に対して、DMS観察をした。観察後、剥落片1片に対してXRD分析をした。その結果、剥落片の赤色面(図1)の色材には、鉛丹(Pb3O4:四酸化三鉛)が使用されていることが判明した。さらに、剥落片及び、標準試料に対してSEM観察をした結果、貝殻胡粉に類似した表面状態(図2)、花緑青特有の粒子形状(図3)が確認できた。クラスター分析には、R[Ver4.0.3]を使用し、デンドログラムを作成した。羅漢像17体及び花巻人形5体に2018年度調査対象作品の花巻人形5体を加え、分析した。その結果、各クラスターが確認できた。これらの結果から、目的1、目的2は達成した。
 本色材調査は、調査対象作品の全体数が多いため、年度ごとに判明した情報を蓄積することで、A及び、Bの“価値”の変化が期待できる研究であると考えている。

図1 剥落片の赤色面

図2 貝殻胡粉に類似した表面状態

図3 花緑青特有の粒子形状