文芸学科Department of Literary Arts

[優秀賞]
今村瑞|花かがみ
トミヤマユキコゼミ


トミヤマ ユキコ 専任講師 評
在学中を通じて時代小説を書き続けてきた今村さんが卒業制作に選んだのは「シスターフッドの物語」でした。シスターフッド(女性同士の連帯)は、フェミニズムの文脈においても、また、現代文学を語る上で重要なキーワードですが、今村さんはそれを時代小説と融合させました。つまりこれは、古くて新しい小説なのです。
一度も会うことなく亡くなった婚約者を思いながら、彼の暮らした土地で自活すべくがんばるお嬢様の「谷」と、谷を支える中で「恋愛→結婚」というルートだけが女の幸せなのか疑問に思いはじめる侍女の「薺」。今よりずっと家父長制が幅を利かせていた鎌倉時代の日本で、自分らしく生きようとする彼女たちの友情に胸打たれました。
物語の基底をなすのは、実在した「紅蓮尼」と彼女が開発したとされるこうれん煎餅のエピソードですが、史実に立脚しながらも大胆にフィクションへと変奏していく書きぶりこそが読みどころ。卒業しても腕を磨き続けて欲しいと思います。