美術科 テキスタイルコースDepartment of Fine Arts Textile

[優秀賞]
舘山朋佳|刹那
青森県出身 
安達大悟ゼミ
H333×W333×D20mm 綿糸、綿ブッチャー

車窓から見える都会の景色は、自分の小ささを痛感させる。刹那的に流れる無機質な世界は呆気なく感じるが、その裏側に誰かの物語が無数に存在する。テキスタイルも繊維から完成に至るまでの裏側に多くの物語がある。手仕事では手間暇がそれに当たり、さらに手刺繍は機械では不可能なリズム感と温かい表情を生むことができる。様々な物事の裏側を、手刺繍による糸の重なりとリンクさせ鮮やかに表現した。


安達 大悟 専任講師 評
全7点に及ぶ舘山の作品は手刺繍で構成されているが、超絶技巧のそれとは異なる手法を用いている。細やかに縫うことから離れ、おおらかに施すことにより、糸の繊細さを際立たせながらもテキスタイルとしての強度を保つことに成功している。
この手法によって作り上げられた車窓の景色は、彼女が表現したかったであろう「儚くも存在する幼少の生命」と「未熟であるが故に抱く不安と期待が複雑に絡み合う心情」を想起させ、大人になって忘れかけていた感覚を呼び起こさせる。特に、小さな画面にコツコツと積み上げられた糸の痕跡は、全てが素敵に見えた当時の記憶を刺激し残像のように思い出させてくれる。
これらは、作者が成人して間もないからこそ気付き、表現できたことなのだろう。
若き感性とテキスタイルが交わることによって生まれた魅力は、現代人の心の拠り所となる可能性を秘めている。