美術科 版画コースDepartment of Fine Arts Printmaking

[優秀賞]
倉本早穂|ちぐはぐな靴下をはいてたって、手にためた水の冷たさについて、I wanna be superman
H980×W980mm、H850×W700mm、H290×W210mm 木版画(油性絵具)


中村 桂子 教授 評
その年のオープンキャンパスに一人の高校生が空想の動物や人が几帳面に描かれている作品を抱えてやってきた。自身の描きたいものを描くだけで精一杯なぎこちなさも感じたが、物悲しいような何かがそこに籠もっている−心のどこかがチクっとするような−感触があって、磨きたい石を持っている人だな、と思った。
それから4年半、高校生だった倉本さんは大学に入って木版画と向き合いながらコツコツとその石を磨いてきた。彼女の描きたい世界に「決定的」で「ドラマチックな」シーンはない。表したい心の揺らぎは一瞬だ。誰でもが持っているとても柔らかいのに無防備な何か。倉本さんは版木に彫ることでその一瞬をとどめ、刷ることで形に表そうとしてきた。昨日よりもっと的確に。自身への確認のために。誰かにその存在を知らせるために。人が生きるうえでそんな一瞬が大切で愛おしいと気付いてくれるように。石はひっそりと輝いてきた。