歴史遺産学科Department of Historic Heritage

衣装道具から見る民俗芸能の継承のあり方―永井の大念仏剣舞を事例に
猪股愛生
岩手県出身
田口洋美 ゼミ

目 次 はじめに/先行研究・調査/研究方法/聞き書き・資料調査結果/民俗芸能の法令・条例について/まちづくりと観光化の進むさんさ踊り/おわりに/参考文献

 現在国内で民俗芸能の衣装道具を中心とした研究は多くない。民俗芸能の中で衣装道具がどのような役割や価値を持っているのか、制作過程や保管状況などの歴史的変容プロセスに着目し調査することで、民俗芸能の継承における問題点を認識し、今後の民俗芸能の存続やあり方について新たな視点を得ることに繋がるのではないか。そこで、本研究では私の地元である岩手県盛岡市永井地域に伝わる「永井の大念仏剣舞」とその衣装道具に着目した調査を行った。
 すると、昔はそこまで重要視されていなかったことが引き継ぎが難しくなったことにより、継承の要素として価値を持つように変化したことが分かった。また、踊り手の構成員が個人から地域、地域から地域外というように内から外へと範囲が広がっていったことと、後継者があまり定着していないことが衣装道具の保管方法にも影響を与えている。
 続いて、民俗芸能をはじめとした文化財保護と後継者問題に対する国の方針や岩手県、盛岡市の方針に着目すると、文化財の基本的な活用方法としてまちづくりの核とする方針を掲げていることが分かった。その一例として、盛岡市の「盛岡さんさ踊り」という祭りとその祭りのために「伝統さんさ」を再編して作られた「盛岡さんさ」の関係を見てみたところ、確かに地域の活性化につながり、多くの民俗芸能の活動団体が生まれ民俗芸能の後世への継承へと繋がっている。その一方で、「歴史」の簡略化などが発生し、結果として民俗芸能と観光化した芸能との間で複雑な依存関係が築かれている。