歴史遺産学科Department of Historic Heritage

現代におけるフォークロアの可能性―コロナ禍での民俗学への挑戦を事例に−
川嶋真央
宮城県出身
田口洋美ゼミ

目 次 序論・はじめに・コロナ禍のフィールドワーク/無関心による無関心を対象としたフォークロア/学問を日常にする人々/オタクな世界の普遍化/コロナ禍の学校教育/おわりに・民俗学の可能性・課題と展望

 大学での学びを通し、リアルに感じられるものの少なさに悩んだ。学び得たことをより素直に表現し、世の中に役立てることは出来ないだろうか。経済の仕組みに惑わされず、人々の心の栄養となるような出来事を増やしたいと思った。東北芸術工科大学の中に歴史遺産学科がある意味はおそらくそれに近いだろう。東北芸術工科大学は、東北の芸術大学としてアートやデザインの力で地域に活気を与えてきた。それらが、文脈から切り離され、瞬間的な感動や喜びを与えるにとどまらないためには、調査研究の力が重要になってくる。本来なら、全学科が自主的に関わり合うことで初めて、ここで学ぶことの意味を達成できるのではないか。
 東北地方には変化の速度が緩やかな事柄(自然風景、生業、祭事、住居形態、地域コミュニティ、言葉)があり、それらを自らのアイデンティティとして捉えることで、地域の資源として観光や商品に活用する例(自然アクティビティ、職業体験、旅行会社との連携による「田舎」を活かした観光、こけしのストラップやグッズなど、工芸品の手軽な商品化)が多くある。それらを分かりやすく知ることのできる地域の博物館や教育現場の中に、時代の流れに影響されながら成立する学問の問題点を見ることが出来ると思った。それは、学科で行ってきた調査研究と地域への還元の過程の中に存在する課題にも同じことが言える。また、コロナ禍の民俗学は非常に難航した。民俗学の心髄とも言える聞き書きをこれまでと同じように行えない状況は大きな痛手となった。この状況は、コロナ前から考えられていた現代の民俗学の難しさや問題点を顕著にしたと思われる。そこで、「日常と隣り合わせの学問」であるという民俗学の特徴をそのまま活用し、今では無視することの出来ない存在となったコロナ禍のフォークロアを、実際の調査を事例にあげて論じる。広義には、現代における民俗学の果たす役割とその可能性を研究する。
 かつては自分たちで構築した「あたりまえ」は、社会から先に示され我々が適応していくようになった。商業主義化している経済は、一人ひとりの言動や潜在的な意識にまで影響を与えている。

1.歴史遺産学科でのフィールドワーク①

2.歴史遺産学科でのフィールドワーク②

3.聞き書きで訪れた博物館