歴史遺産学科Department of Historic Heritage

松島湾における縄文前期・中期の遺跡間関係―動物遺存体の分析を中心に―
舘石侑歩
宮城県出身
青野友哉ゼミ

目 次 研究目的・調査方法 / 分析結果 / マグロ類の出土傾向と遺跡間関係

 松島湾は仙台湾の中央に位置する多島海であり、縄文時代前期以降は海岸線の変動は小さかった。しかし、縄文前期から中期は縄文海進海退期に該当しており環境の変化が起こったことが考えられる。環境変化の影響は地域によって差があるため、東北地方の縄文時代の当時の人々が環境の変化に対して狩猟採集をどう対応させたのか地域ごとに検討する必要がある。本論では遺跡ごとの動物遺存体の出土傾向を分析検討した。
 分析対象は、出土動物遺存体についてデータが報告されている松島湾沿岸部に位置する縄文前期から中期の貝塚14遺跡である。各貝塚を前期と中期に分類し、資料の分析を行うことで地形、海洋環境の変化を把握し対象貝塚出土動物遺存体の出土傾向とその特徴、遺跡間の相違を分類する。
 分析の結果、前期の松島湾では、沿岸部でマグロの出土が確認され貝類、魚類ともに岩礁性の動物遺存体が多く出土する傾向がある。中期の貝塚では、魚類はマダイ、スズキが多く出土し、貝類は砂泥性の貝類が最も多く出土する貝塚と岩礁性の貝類が多く出土する貝塚が見られた。
 出土貝類は、前期は岩礁性が主に出土し、中期は砂泥性中心の貝塚が見られるようになる。これは海岸線の変化があったか、何らかの理由で利用貝類を変えた可能性が考えられる。魚類は前中期共にタイ類とスズキ中心であり、海水温が一定であったことがうかがえる。陸上動物は前期から晩期にかけて資源利用の傾向が変化しなかった可能性が高い。
 マグロの出土傾向から松島湾の遺跡間共同関係が見られる。3つの遺跡群のうち外洋に面する遺跡群では前中期で継続してマグロが確認されるのに対し、内湾に位置する松島遺跡群では中期からマグロが見られる。内湾に位置する西の浜貝塚などではマグロが捕獲できないことから、中期から3つの集落で共同関係が始まったことが考えられる。
 以上のことから、縄文中期は前期と比較して海水準の変化から気温が下がった可能性が考えられる。このため、気温が前期より低下したことによるナッツ類の採集量の減少といった変化が起きた。このことから集落間で協力し、資源を多量に入手する必要が生じたと考えられる。以上から、これまで確認されていた縄文後期の松島湾の3つの集落の共同労働、資源分配の共同関係は中期から始まったと考えられる。

図1 松島湾貝塚遺跡群

図2 動物遺存体出土表の一部