歴史遺産学科Department of Historic Heritage

重要伝統的建造物群保存地区における保存活用事業の実態 
宮澤貴大
宮城県出身
北野博司 ゼミ

 昭和50年の文化財保護法の改正によって伝統的建造物群保存地区の制度が発足し、現在は全国 100 市町村120 地区が対象となり、保護されている。
 本研究では宮城県村田町伝建地区(図1)を対象に、資料調査や聞き書き調査によって伝建地区における保存・活用の取り組みといった現状を明らかにし、類似する他地域と比較検討した上で、今後のまちづくりについて考察することを目的とする。
 村田町が重伝建の選定を受けたのは2014年だが、その3年前の2011年に東日本大震災によって被災、多くの建物が甚大な被害を受けた。町は被災した建築物を守るべく、早急に何らかの制度管理下に置くことを決定し、復旧を図ろうとした。これが重伝建選定への第一歩と言える。しかしこの短期間での制度手続きによって本来伝建地区として選定に向けて行われる諸々の準備時間が省かれ、それが現在になって様々な問題を生んできていることが分かった。
 村田町伝建地区が抱える問題点として、「制度に関する学習の不足」「文化財へ親しむ機会」「伝建地区としてのまとまり」が考えられる。学習時間の不足と選定の特殊性から、制度に求められる要素である「文化財としての保存」「活用としてのまちづくり」を、伝建制度を「一種の保存方法」と誤解して捉えてしまっている点である。また伝建として文化財へ関わってきた年数も短く、制度理解も相まって興味・関心と結びつかない問題もある。そして伝建選定において必要な関係作りが成されないまま現在に至っていることから「住民×住民」「行政×行政」「住民×行政」のつながりが薄い状態(図2)であり、それぞれの意識が散見し、伝建地区としてまとまりがなく、保存活用についても足踏みしている状態にあると言える。
 これら問題点にどう向き合うか、過去に類似するの問題に直面し、今に至る伝建地区として「秋田県横手市増田伝建地区」(図3)を挙げる。住民と行政間にあった溝を埋めるべく、住民側はコミュニティの形成や価値の再発見に取り組み、行政は勢いづいた住民を支援し、官民一体の地域活性を成功させた。村田町に求められる問題を解消するモデルとして期待される。
 本研究から、伝建地区選定における地盤作りの重要性と選定のプロセスが与える影響といった問題が明らかになった。またこれらが省かれてしまうことによって活用にいけない「伝建地区選定がゴールとなってしまう危険性」の存在について考えなくてはいけない。

図1:村田町伝建地区

図2:村田町関係組織図

図3:秋田県横手市増田伝建地区