歴史遺産学科Department of Historic Heritage

クッキー状炭化物の製作方法と用途の研究
米山田朗
東京都出身
青野友哉 ゼミ

 クッキー状炭化物とは、主に縄文時代の遺跡から出土している、堅果類を加工して成形されたクッキー状の練り物が炭化したものである。原材料が食料資源である堅果類であることから、このクッキー状の練り物は加工食品であると考えられている。本論ではクッキー状炭化物の製作・加工過程の解明、クッキー状炭化物の原材料の推定、加工食品という従来の見解における妥当性の検討、クッキー状炭化物の食料以外の用途についての検討を目的とする。山形県高畠町所在の押出遺跡を主要調査対象遺跡とした。クッキー状炭化物は食料であり、礫石器を利用して原材料である堅果類を加工し、遺跡内で成形したものと仮説を立て、遺物の共伴関係を中心に分析した。石器類との共伴関係からは加工具の推定と食料品であることの妥当性を検討した。堅果類(クリ・クルミ)との共伴関係からは加工過程と原材料の推定を行い、石器類と堅果類の共伴関係と石器の使用痕からも、加工具と原材料の推定を行なった。
 クッキー状炭化物とクルミは排他的な位置関係にあることが全ての調査区で確認できた。これはクッキー状炭化物の加工とクルミの加工が別の場所で行われていたことを示しており、クッキー状炭化物の主な主成分は堅果類であるから、クルミを別の場所で磨り潰し、その後に成形が行われた可能性が高い。また、クルミ殻は一か所に集中して出土することから、特定の位置で集中的にクルミ果実の処理が行われていたと考えられる。クッキー状炭化物の出土位置には、焼土と炭化したヤナギ類の木材が検出されていることから、これらの位置でクッキー状炭化物は加熱調理および焼成を行なったと考えられる。
 出土状況から、クリは蒸し焼き・灰焼きによる加熱調理が主である。またクリは完形状態での出土例が顕著であることから、磨り潰しなどの加工は積極的に行われなかったと推定する。したがってクッキー状炭化物にクリが用いられた可能性は低く、原材料はクルミであると推定できる。出土状況と遺物の共伴関係から、クッキー状炭化物が食料品である従来の説を追認し、主にクルミが利用された可能性を提示できた。