文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

記憶情報の記録保存~山形県白鷹町横田尻 大日如来堂を通じて~
樋浦智美
山形県出身
立体作品修復ゼミ

 本研究は山形県西置賜郡白鷹町横田尻において地区管理される未指定文化財 大日如来堂について取り上げる。筆者は2019年、東北芸術工科大学 文化財保存修復研究センターへ依頼された大日如来堂の調査に関わり、地域文化財としての存続が危機的状況にある大日如来堂の現状を確認し、2020年5月聞き書き調査で大日如来堂に関する文献が少ないこと、地域住民の記憶中には文献に記録されていない大日如来堂の情報が想い出として現存していることを知った。現状を放置すれば大日如来堂の情報は後世の人々へ伝える手段をほとんど残さないまま地域から消失し、培われてきた地域の歴史は欠失してしまう可能性があった。そこで筆者は、地域住民(主に年配者)が持つ大日如来堂の想い出や記憶情報に着目し、それらを記録化して地域で保管できる形にして大日如来堂の歴史と地域文化の伝承の一助とすることを研究目的とした。(図1)
 本研究では年配者が持つ大日如来堂の記憶情報の記録化をするため、多くの地域住民が集まる蚕桑地区文化祭 にて展示及び聞き書き調査を実施した。展示は筆者が制作した大日如来堂ジオラマと、大日如来堂の変遷や年配者が持つ大日如来堂の想い出・記憶情報等をまとめたパネルを展示することで、年配者の記憶の想起を助けるだけでなく、大日如来堂を語るコミュニティを形成するきっかけとになることを目指した。また聞き書き調査は、聞き手が会話に合わせて語り手達に質問を投げかけることで、5 月の聞き書き調査で得た情報と共通した情報や新たな情報が得られることを期待した。(図2)(図3)
 文化祭では白鷹町や大日如来堂と直接関わりのない第三者が地域住民に尋ねることで、年配者達から大日如来堂の想い出や記憶情報を引き出し、地域住民の中で再び大日如来堂を語るコミュニティが形成された。本研究での取り組みを機に大日如来堂へ訪れる人も増加し、再び人々の記憶に大日如来堂の想い出・記憶情報が刻まれてゆくのであれば、本研究の目的である大日如来堂継承の一助として1つの成果を得たといえる。さらに本研究の成果を白鷹町教育委員会に提出し、保存を依頼。また、幅広い年齢層の地域住民が集まる蚕桑地区コミュニティーセンターにジオラマ展示と本研究の成果をまとめた冊子の保存を依頼することで、今後大日如来堂がどのような歴史を歩むことになっても、大日如来堂の存在を後世の人々へ継承・伝承する一助に繋がると考える。

図1 大日如来堂

図2 大日如来堂ジオラマ

図3 文化祭 展示と聞き書き調査