文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

肌裏紙の古色付けにおける染めと媒染に関する研究 -ヤシャブシによる染色と色差計を使用した分析を中心に-
中野茉美
福島県出身
東洋絵画修復ゼミ

 紙本作品の裏面に第一層目の補強として貼られる肌裏紙は、修理時には経年着色した旧肌裏打紙を除去し、新肌裏紙に取り替える。新肌裏紙を打つと旧肌裏紙との色の違いから修理前後における見た目の差が生じる。そこで、新肌裏紙を本紙及び旧裏打紙の色に合わせて染色(古色付け)し、作品の修理前後における色の差や印象の差を小さくする。古色付けをする時には、染色条件、方法による色の違いを理解する必要がある。本研究の目的は、2つある。1つ目は「染め」と「媒染」が肌裏紙の染色による色の変化における相互作用を、古色付けした肌裏紙試料の色を数値化して検討すること、2つ目は、媒染液の㏗値が肌裏紙にもたらす影響について検討することである。上記2点を目的として、修理報告書を使用して肌裏紙の染色材料を調査した。調査結果をふまえ、矢車附子(ヤシャブシ)(図1)の染液で試料作製をして、色差計で試料の色の成分を測定、色を数値化し、比較した。
 染め0回~染め5回媒染5回水洗いの染色工程を経た試料、㏗9-12の媒染液を使用した試料を作製した(図2)。上記の試料を使用して、色を数値化して比較したところ、次の3点が分かった。第1に、ヤシャブシの染液で古色付けした薄美濃紙において、染色工程を経るごと、㏗値を増加させるごとの色の変化の仕方は同様であり、明度が下がり、赤方向及び黄方向に変化することが分かった。第2に、ヤシャブシの染液で各工程3枚ずつ染め0回~染め5回媒染5回引き染めして古色付けした薄美濃紙において、該当前工程と該当工程を比較した時のΔa値およびΔb値の増減の仕方は、いずれの工程でも類似していること、紙の重ね順は、概ねΔb値に差は無いことが確認できた。第3に、媒染液を、㏗9から㏗値を0.5ずつ上昇させ、12まで変化させたときの試料のΔL値とΔb*値の色変化は、明度が下がった時に黄色方向に変化し、明度が上がった時に青方向に変化するという共通性が確認できたことである。このことは、該当工程と該当工程の前工程を比較した時及び、㏗9を基準として比較した時の2つの比較で共通していた。
 より工程を増やすこと、各種の染色方法で染色した試料の色を比較することで詳細な色の変化についてのデータが得ることができると考える。

図1 矢車附子の球果

図2 染液塗布